第35話◆◆⑫ウラジミールと治癒能力◆◆

「まったくご主人様わぁ、人使いが荒いとかのレベルでは有りませんねぇ。

さて、頭を使えとの事ですが、使うのは頭ではなくて呪力でしょうねぇ。

とすれば、こうでしょうか?」


ウラジミールは、荒れ果てた畑にしゃがむと、両手を地面に着いた。


「でわ▪▪▪んー、こんな時は何かカッコいい術名を唱えるべきでしょうか?

何が良いですかねぇ?」


◇◇◇


遠目にウラジミールがしゃがみこみ、何やらブツブツ言っているのが見えるな。


「何やってんの顔の気持ち悪い男は?あんなのに任せないでドライアド探して頼んだほうが良くない?植物の精霊なんだから?」


「そうねぇ、所詮ウラジミールだしねぇ。」


女二人、ひでえ言い様だな。


「いえいえ、たぶんウラジミールさんは凄い事やりますよ。」


アンブロシウス、分かってるようだな。


◇◇◇


「ん、やっぱりこれですね。

でわ!『ウラジミィィールヒーリングッ!』」


◇◇◇


「何か叫んだね?」


「よく聞こえなかったけど?」


「何も起こらないじゃないの?」


「いえいえ、よく見てください。」


外野がうるせぇな。


例えば、目映い光と共に劇的な変化を見てとれる。


例えば、地鳴りと共に地面の様相が変わる。


そんな分かりやすい視覚的な変化はなかった。


と言うよりも、見た目、何も変わっていない。


ウラジミールはこれを数ヵ所で小一時間続けた。


◇◇◇


「ふうっ、こんなもんでしょうかね?」


土を握ると、パサパサだった土の粒子が、程よく水気を含み、ふっくらと柔らかくなった。


すえた臭いが無くなり本来の土臭さが漂っていた。


ふと、遠目で辺りを見回すと、柔らかな陽炎が立ち上っているようだ。


「ウラジミールさん?土に治癒をかけただけじゃないのですか?」


アンブロシウスが問いかけた。


「はい、作物が育ちやすいように落ち葉や枯れ葉、虫の死骸などを発酵させました。」


「なるほど。どうですか?フロリネさん。ウラジミールさんもなかなかやるでしょう?」


「ふん、認めるのはほんとに作物が実ったらね!」


ああ、フロリネ。間違いなく実るぞ。

しかも、これまでの収穫量をはるかに凌ぎそうだ。


まあ、その時期までここにいる訳じゃないからな。


「ウラジミール、」


「はい、ご主人様!」


おうおう、誉めてもらいたい犬が尻尾を千切れんばかりに振っているみたいだな。


「その調子で海でもやってくれ。」


「お任せください!」


そう言うとウラジミール▪▪▪

スキップしながら先頭を歩き始めた。


何か歌ってるな?


「▪▪▪▪▪にっ▪▪てたっ!」


ん?


「おっやくっにたってた!おっやくっにたってた!」


子供か?


「へえ?ウラジミールの治癒ってこんな使い方も有るのね。」


クリスタが感心している。


ん?ディートヘルム?何故泣いてる?


「うおぅぉっぉっ!ウラジミールどのぉ!ありがとうっ!」


ああ、涙から鼻水から涎から駄々漏れだな。


で追いかけ回すもんだからさすがのウラジミールも、そりゃ逃げるわなぁ▪▪▪


「大地が浄化されたことが余程嬉しかったんでしょうね。」


淡々とアンブロシウスが言った。


「そうねぇ、結局自分も汚染する方になっちゃってたからねぇ。」


「まあ、ウラジミールにも使い用は有るってこったな。」


俺達はのんびりとディートヘルムの抱擁から逃げるウラジミールの後を追った。

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