第33話◆◆⑩国王とディートヘルム◆◆

「ッディートヘルムッ!よっく!戻ったっ!」


相変わらず聞きづれぇな。


「全くでございますねごしゅっ!ブグロワァッ!」


いちいちしゃしゃり出てくるな。

何回目だ?

ウラジミール?

国王の目の前だったが、裏拳をかましてやった。

クリスタもフロリネも顔をしかめているな。


「陛下▪▪▪このような形で御前に出ますことを▪▪▪おゆ▪▪▪」


また泣く▪▪▪


いちいち泣くなよ▪▪▪男の子だろ?


「全くでございますね。」


ああ、ウラジミール、復活早すぎるぞ?


「んっ!んっ!ッディートヘルムッ!全てはッ!余がっ!不甲斐ないばかりにっ!引き起こしたことであるッ!そなたのっ!国を思う心はッ!疑いようもないっ!」


「しかし▪▪▪しかし私は国に、国民に、陛下に▪▪▪多大な▪▪▪」


また泣く▪▪▪


「そうっ、とは言えっ、罪をっ消せる訳っではっ無いのだッ▪▪▪」


ああ、国王まで泣き出しちまった▪▪▪


「覚悟は出来ております。」


ディートヘルムはそう言って両膝を着いた。


「んっ!んっ!ディートヘルムッ!国外追放っ処分っとっするっ!」


ディートヘルムは顔を上げた。


「そ、それは!それでは軽すぎます!陛下!我が命一つ、いかほどの価値も無いのは承知しておりますが!それでも死罪は免れぬところっ!」


ディートヘルムは膝立ちで躙りよった。


「んっ!んっ!ディートヘルムッ!そなたはっ生きねばならぬ!生きることが、生きて罪を背負い続ける事がっ!贖罪の手立てなのだっ!死ぬよりもっ!辛いはずだっ!」


とか言いながら国王さん、鼻水と涙が駄々漏れだ。


ディートヘルムを死なせたくないのが見え見えだな。


「全くでございますねご主人様。」


ってウラジミール?


なんでもらい泣きしてる?


「ガンゾウ殿っ!」


おやおや、こっちに話を振ってきたな。


「なんだ?」


「んっ!んっ!ディートヘルムッをっ、兄のところまでッ送ってやっってはくれぬかっ?」


「あ?ヘリオスの所か?」


「んっ!んっ!ディートヘルムはっ、兄に預かって貰おうとッ思うっ!」


めんどくせえ。


「餓鬼じゃねぇんだ?一人で行けるだろ?」


「んっ!んっ!そうかもしれぬがッ!あえてガンゾウ殿に頼みたいっ!」


かあ、こりゃ聞かねえだろうなぁ。


「だがよ、国王さんよ、今回の依頼は反乱軍の鎮圧、国軍への協力だけだ。それが済んだら俺達は黒洋海まで行って、生のトゥナを食うのがほんとの目的だ。まだまだデュラデムには帰らねえぞ?ドリアードも探さなきゃならんしな。」


「んっ!んっ!ならばっ!尚更っ!ディートヘルムをっ、連れていったほうがッよいっ!」


「何でだ?」


「この男ッ、平時はっトゥナ釣りのッ名人でっ名がっ通っているっ!」


「なに?」


ついつい、目付きが鋭くなる。


そりゃあ何よりも魅力的な話だ。


「わかった。真っ直ぐヘリオスの所へ行かねぇが、そう言うことなら一緒に来てもらおうか。だが、ディートヘルムよぉ?」


「▪▪▪」


「お前さんはそれで良いのかい?」


自力で魔を祓ったとはいえ、魔に侵食された顔は人のものとは思えぬほど歪んでいる。

その歪んだ顔でも、困惑の表情は作れるものなのだな。


「陛下のお心には感謝しかないが▪▪▪私は生きていて良い男ではない▪▪▪」


「めんどくせえなおめえは!じゃあ俺がテメエに生きる目的をくれてやるよ▪▪▪」


「んっ!んっ!そんなものがっ!有るッのっかっ!」


興奮すると益々聞きづれぇ▪▪▪


「ほんとだねぇ。」


ウラジミールじゃなくアンブロシウスが言った。


チラリとアンブロシウスを横目に見ながら続けた。


「ディートヘルムを馬鹿して国王に叛かせた『バルブロ』とか言う自称魔王とその手下をぶっ殺せ。」


「!」


「今すぐとは言わねぇ。国王さんの言い付け通り先ずヘリオス預かりで落ち着け。そのあとで好きにしたらいい。」


「んっ!しかしっ!無茶はいかぬぞっ!」


おろおろと国王が身をのり出す。


「分かりました▪▪▪そうだ▪▪▪奴らを許すわけにはいかない▪▪▪この手で▪▪▪」


そう言ったディートヘルムの目は復讐の揺らぎに満ちていた。


まあ、今はそれで良いだろう。


「はぁ、ご主人さまは相変わらず御人好しでズブグロワッ!」


ウラジミール、わざと殴られに来てないか?


まあ、そんなわけでディートヘルムはしばらくの間俺達と同行することとなった。


早く『トゥナ』を釣ってもらおう。

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