第30話◆◆⑦ガンゾウと仲間的なしがらみ◆◆
クロヴィス率いる国軍が、魔物と化した反乱軍に攻撃を開始した。
魔物と言ってもその種類は様々で、ミノタウロスのように見るからに筋肉の塊のような暴力的な奴が居たと思えば、芋虫のようにブヨブヨととらえどころの無い奴や、虫かトカゲみたいなのもいる。
皆、元は人間だったのだろうか?
先ず、弓矢にて遠距離から聖水に浸した矢を射続けた。
まあ、聖水とは言っても、下等な魔物くらいにしか効果は無いのだがね。
それでも無いよりはましな感はあるな。
で、一頻り攻撃を続けたのだが、やはり強い奴にはほとんど効果が無いわけだ。
「やっぱりこんなまどろっこしいのは性に合わん。」
と言って前に出た。
「ご主人様、お供致します!」
「ガンゾウ、勝手にやるわよ?」
「でわ、私が露払いしましょう。」
そう言って散歩でもするかのようにアンブロシウスが前に出た。
走りながら何やらブツクさと唱えているが?
お?アンブロシウスが光り始めたな?
どんどん光量が増していくな?
ああ、弱い奴が溶けているなぁ。
「アンブロシウス!私の分とっておきなさいよ!」
とか言って、クリスタがクルリと空中で回転すると、人形から竜姿に変化した。
腹が破裂するかと思えるくらい息を吸い込むと、その小さな身体からは想像も出来ない轟音とともにブリザード▪ブレスを吐きまくった。
「グゴゥオッウオッゥゥ!」
表現し辛い音量だな。
魔物共々地面が真っ白く凍っていく。
そして凍って固まった魔物どもを撃ち壊していく奴が居た。
「ウラジミールソード!ウラジミールソード!ウラジミールソード!」
ああ、ウラジミール、危険を侵さず凍り浸けの魔物を撃ち壊すのは楽しいか?
たぶん、後から自分の手柄として意気揚々と報告してくるのだろうな。
「フロリネ、その辺で見物してろ。逃げても無駄だからな。お前の尻尾はもう掴んだからな。」
「逃げる気ならいくらでもチャンスは有ったわよ!憂さ晴らしに私も行ってくるわ!」
そう言うと結界で自分の姿を隠しながら矢を放っていった。
魔物どもにしてみれば、何もない空間から矢が飛び出してくる様なものだろうな。
ああ、俺がやらんでも何とかなりそうだぁなぁ。
面白くねぇな▪▪▪
そもそも何で仲間的な感じでつるんでるんだ?
無頼を決め込んでたんじゃないのか?
そう考えると、スウッと体温が下がったような気がしたな。
んんっ▪▪▪
とりあえず、目の前の面倒事をやっつけちまうか。
俺は「バサリ」と漆黒の羽を展開し、羽ばたきもせず宙に浮き上がった。
ああ、羽ばたかないなら羽は必要なかったかね?
気分の問題だな。
なんて考えるのに0.0005秒。
いや、測ってないからわからんな。
◇◇◇
おや?ガンゾウさん、なんか変なこと考えてませんか?
嫌な予感がしますね。
一応皆に知らせたほうが良いでしょう。
『クリスタさん、フロリネさん、ついでにウラジミールさん聞こえますか?』
たぶん、聞こえてるでしょうから返事がなくても伝えましょう。
『上を見てください、ガンゾウさん面倒になって広範囲攻撃呪を発動するようですよ。私は一足先に逃げますね。』
と言って、空間に裂け目を作り潜り込みました。
『ちょっと!アンブロシウス!狡いわよ!私も行くから!』
『何なのよ!まだ憂さ晴らししてないわよ!』
『ありゃぁ▪▪▪確かにあれはダメな奴ですねぇ▪▪▪私も連れてってくださいよぉ!』
三人は災厄から逃げ出すかのようにアンブロシウスの作った空間の裂け目に飛び込んだ。
◇◇◇
さて、ディートヘルムとやらは助けろって事だが、この程度でくたばるならばくたばっちまえ!
両の掌を上空へ向け、そこに大量の呪力を注ぎ込む。
周囲から雲が集まり、その密度を濃くしていく。
中心は漆黒の球で、そこに周囲のあらゆるものが吸い込まれる。
しかし、何を何れだけ吸い込んでも球の大きさは変わらない。
ついには光さえも吸い込みだした。
急に夜が訪れたかのように真っ暗闇となる中、俺の眼だけが金色に光っている。
こういうのは何かそれらしい技名を付けるべきなのだろうなぁ▪▪▪
面倒だなぁ▪▪▪
じゃあベタな感じで▪▪▪
「黒孔(こっこう)!」
つまり(ブラックホール)だな。
頭の上に作られた黒孔は、光も闇も吸い込みながら魔物達のど真ん中に放られた。
目に見えない重力の渦は、ありとあらゆるものを吸い込む。
あるものは引き裂かれながら、あるものは引き伸ばされながら、あるものは溶けるようにブレながら黒孔に吸い込まれていった。
音さえも吸い込むから無音で物質が、魔物が消滅していく。
真円を形作る黒孔の影響下に入ると、きれいさっぱり何も失くなった。
かろうじて黒孔の円周外側に居たらしいディートヘルムが、無駄に長くて太い剣を構えて俺を睨んでいた。
「はっ、悪運の強ええ奴だな。」
俺は、ディートヘルムの正面に降り立った。
無事だったとはいえ、ディートヘルムは、黒孔の影響で、皮膚がズタズタに剥がされ、血塗れだった。
更には、着衣は全て引き剥がされてボロを纏う体であった。
「オメエか?ディートヘルムとかいう奴は?」
返事は無い。
ああ、けっこう芯まで憑かれてるようだな。
「ご主人様、物凄い呪でしたねぇ。巻き込まれないように逃げるのが大変でしたぁ。」
いつの間にかウラジミールが俺のすぐ後ろに居た。
思わず思いっきり回し蹴りを喰らわせてしまった。
ああ、ウラジミール、状況を把握しないから毎度毎度潰されるんだぞ?
身体を変な方向に曲げてグジュグジュ言い始めた。
普通なら死んでるよな。
まあいい。
「ディートヘルム、お前の王様がお前を殺すなと言うんだがな、少々面倒だ。俺の声が届いているか?」
「お、王▪様▪▪▪」
「そうだ、王様だ。」
「▪▪▪」
んんっ面倒だがなぁ▪▪▪
右手で頭を掻きながら、左手に呪を溜めて上空に打ち出した。
「雷神!」
んんっ、前回は違う名称だった気がする▪▪▪
上空に密集した黒雲から、瞳孔が焼ける程の雷が降り注ぎ、魔物どもを焼いていった。
「あ、雷土だった。」
思い出した。
見下ろす地面には、ディートヘルムの他に動いているのは極僅かだった。
「いやぁさすがご主人様ぁ!私が切り伏せた魔物など物の数ではありませんねぇ!」
とか復元したウラジミールが、案の定手柄話を振ってきたが、ウラジミール▪▪▪
全部見てたぞ?
て言うか、復元早くないか?
「何をためらっているの!ディートヘルム!貴方が忠誠を誓うのはバルブロ様だけなのよ!」
バルブロ?
声のした方を見た。
ああ、見た顔だ。
俺が丁寧に焼いてやった顔だ。
「またアンタなの!何でバルブロ様の邪魔をするのよ!」
とか言われてもなぁ▪▪▪
「いや、お前らが俺の周りをチョロチョロしすぎなんだよ▪▪▪」
「王、様、は、バ、ルブロ様▪▪▪」
「そうよ!バルブロ様よ!」
「まあ、俺はどちらでも構わんがな、たぶんお前の王様の名前はワッチナル二世だと思うぞ?」
なんでこんな親切がましいことをしてるんだ?
国王の名前を言った途端、明らかにディートヘルムの様子が変わった。
「へ、陛下▪▪▪ワ、ワッチ、ナル、陛下▪▪▪」
「そうだ。ワッチナルだ。やたら聞きづれえ話し方の国王さんだ。」
「昔の話なんてどうでも良いのよ!もうアンタはそのワッチナルを裏切ってるんだからね!」
なんつったっけ?
あの火傷女。
「ベルギッタだったと思いますご主人様。」
「そうか。ああ、また言ってたか?」
「はい、明確に。」
「おい、そこの火傷女!」
「せっかく名前をお教えしたのに▪▪▪」
とかほざいているから、少し凹みを作ってやった。
「ああ、別にこの国がどうなろうと知ったこっちゃないのだがな▪▪▪」
「だったら黙っていなさいよ!」
「少し黙って聞け▪▪▪」
と言って小さく『雷光』つまり雷だな、を、落としてやった。
『バチンッ!』と鼓膜が破れるかと思うほどの轟音と共に目がつぶれるほどの光を伴った雷がベルギッタをに突き立った。
いや、鼓膜は破れたな。
ああ、鼓膜が修復されたな。
この間0.00001秒、いや、測ってないからわからんな。
ベルギッタがプスプスと煙を上げて気を失っているので、気がつくまで待つ事にした。
ディートヘルムは、ぶつぶつとワッチナルの名を途切れながら繰り返している。
「そうだ、お前の王様はワッチナル二世だ。何で魔に憑かれたのか知らんが、今ならまだ魔を祓えそうだぞ?」
「▪▪▪」
「アンブロシウス▪▪▪」
「なんだい?」
「奴に今の顔を見せてやってくれ。」
「お安いご用さ。」
そう言うとアンブロシウスは右手を、不必要に豪華に装飾された鏡に変化させてディートヘルムにかざした。
それを見たディートヘルムは、右手に持っていた豪剣を取り落とした。
「こ、これが▪▪▪ワタシ▪▪▪」
「ああ、理由はわからんがお前さん魔に乗っ取られていたぞ。まあ現在進行形だ。そしてその結果、王様を裏切り、軍を反乱軍に貶めた。
この責任はどうやってとるんだ?」
ディートヘルムは、小刻みに震えて耐えきれぬかのように膝から崩れ落ちた。
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