第29話◆◆⑥国王と大将軍◆◆

「んな!んなっんっと!」


いやいや、だから聞きづらいって▪▪▪


「まったくでございますねぇ。」


「声に出てたか?」


「はい、明確に。」


「ふん、国王さまよぉ、なんとかならんのかねぇ?その喋り方?」


「ぶ、無礼者っ!な、ぐげごっ▪▪▪」


「太鼓持ちは黙ってろ。」


小うるさい太鼓持ちには、またしても喉に呪をかけてやった。


「んっ、んっ、すっまぬ!だがっ、聞っかせってくれ!間っ違いっなくっぅっディートヘルムッなのっか?」


それに答えたのはクロヴィスだった。


「畏れながら国王陛下、少なくともこの大陸西部において、身の丈程の豪刀を操るのは、ディートヘルム将軍を於いて他には居りませぬ。信じたくありませんが▪▪▪」


まあ、そのディートヘルムとやらがどれ程のものかしらんがね。

魔物に隙を突かれて乗っ取られる程度の男じゃぁな、たかが知れてるわな。


「まったくでございますねぇ。」


「声に出てたか?」


「はい、明確に。」


俺達の会話を聞いているはずの国王とクロヴィスだが、そのディートヘルムとやらのインパクトが強すぎたのか俺達の話は耳に入ってなさそうだなぁ。


「まあ、なんだな。要するにそのディートヘルムを殺っちまえば良いんだろ?」


と言ったら▪▪▪


「ガ、ガンゾウ殿ッゥ!なっ、何とかっ!ディートヘルムッのっ命っだけっはっ!」


ああ、面倒くせ▪▪▪


「そんなこと言ったってよぉ、魔物化しちまった時点で元には戻らんぞ?」


「うむ、九分九厘戻らないだろうな。」


と、アンブロシウスが余計な事を言ったばかりに▪▪▪


「もっ!戻っるっ事もっあるのかっ?」


あああっ▪▪▪

アンブロシウス▪▪▪

余計なことは言うなよなぁ▪▪▪


と、横目で睨むも、アンブロシウスには通じてなさそうだ。


「そうだな、魔物化した要因が自身の意思によるものならば難しかろうな。だが▪▪▪」


「だっがっ?」


「んんっ、魔物化する時点で少なからず本人の意思が、つまり、付け込まれる隙があったと言うことなのですが、それでも、例えば国王陛下への忠誠心が残っていたりすれば、戻ることもなきにしもあらず▪▪▪程度ですが▪▪▪」


「つまり可能性は有ると言うことですね!」


クロヴィスが前のめりで聞いた。

まあ、かなり確率は低いんだがなぁ▪▪▪


「わかったよ、まあ、やるだけやってみるが、約束は出来んぞ?」


「あ、ありがとうございます!」


ああ、このすがり付くような目▪▪▪


まあ、仮に魔を祓い、人格を取り戻したとしても肉体的ダメージの影響は残る。

形相が変わっちまったのは、もう戻らないだろうな。

殺してやるのも慈悲だと思うのだがな▪▪▪


◇◇◇


なぜこうなった▪▪▪


自問自答しているが、それすらも朧気だ▪▪▪


自分が何者で、何をしたいのか?それすら分からない▪▪▪


ただ、意識が混沌とする中、小さく明滅する光が幾つかある。


以前はそれが心地好かった▪▪▪

だがだんだん鬱陶しく思えてきている▪▪▪


それは失くしてはいけないような気がする▪▪▪

だが、既にその価値は無用のもののような気もする▪▪▪


今、目の前にいるこの虫ケラ。


何やら術を使い配下を殺した▪▪▪


配下?

配下って何だ?


ただ無性に殺したくなるだけだ。

ああ、違うな▪▪▪

何か別の私が身体を動かしているようだ▪▪▪

別の私が何かを考えているようだ▪▪▪


じゃあ、私とは何だ?


ああ、陛下▪▪▪

暫くお顔を見ていないが、お元気だろうか?


陛下?


って何だ?


陛下、お腹を下していませんか?


陛下?


ああ、こいつ、チョロチョロと▪▪▪


我が豪刀の露としてくれるわ!


豪刀?


眠くなってきた▪▪▪

いや、もう寝ていたか?夢?


ああ、光がまた一つ消えた▪▪▪

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