第28話◆◆⑤ウラジミールの独り言(その1)◆◆

「でもご主人様も無茶言いますねぇ▪▪▪「はい!喜んで!」としか言えない私に無茶を承知で斥候なんてねぇ▪▪▪」


と、ブツブツ言いながら歩いている場所は、その反乱軍のど真ん中なわけですねぇ。


何故気付かれないかって?


それはご主人様から頂いた呪力、「Other」のお陰なのですね。


つまり、どうでもいい存在、道端の犬の糞みたいな存在になるわけですねぇ。


見えているんですよ。


でも道端の石ころを気にする人がいますか?

犬の糞を敬遠はしても進んで手を伸ばす人がいますか?


ほぼいないのですねぇ。


なので、誰も私を気にしないのですよ。


と言うわけで、敵陣のど真ん中をふらふらと歩いている訳ですが、驚きましたねぇ。


皆さん魔に当てられてますねぇ。


当初はそれなりに「軍」としての体裁を保っていたのでしょうねぇ。


だから侵攻出来たってことですか。


でも、時間がたつにつれて魔物化していった兵達は、指揮命令に従わず、本能のままに暴れだしたのでしょうねぇ。


個々の力は人間を凌駕しても、集団となると統制が効かなくなって、結局正規軍に敗北を重ねたわけですねぇ。


魔物化とは言っても、見かけは人間のままですからねぇ。

正規軍の皆さんも気付かなかったというわけですか。


おや?なんかあの辺りは呪力が濃いですねぇ。


近づかないほうが良いのは分かっているのですがぁ▪▪▪


まあ、これもお仕事なのですねぇ。


あまり意識を集中すると「Other」の効果が薄れちゃいますからのんびりふらふらと見て参りましょうかねぇ。


◇◇◇


「ねえガンゾウ?なんでウラジミールなの?」


クリスタが不思議そうに聞いた。


「何の事だ?」


「だからぁ、斥候ならウラジミールより結界の上手なフロリネのほうが良かったんじゃないの?」


「そいつはドリアード探しのために連れてきているわけだからな。まあ、必要か不要かは別にして信用して情報を鵜呑みにするわけにはいかんだろ?」


「じゃあ私は?」


「斥候ってのはな、目立っちゃ駄目なんだな。レア種の青龍なんかが飛び回ってたらひと騒動だろう?それにな、ウラジミールには尻尾が着いているからな。いざとなればどうとでもなるんだよ。」


と説明したが、まあ理解していないだろうな。


◇◇◇


ありゃぁ、これは不味いですねぇ▪▪▪


ウラジミールは、3体の魔物に囲まれていた。


さすがに上位の魔物になると誤魔化せませんでしたかねぇ▪▪▪


「面白い呪を使う奴だな▪▪▪」


実際にはそれほどクリアーに聞き取りやすい声音でわ無いのですが。


それでもまだとぼけて通り過ぎようとしましたが、通せんぼされちゃいましたねぇ。


完璧に気付かれちゃってますねぇ。


しょうがない。


両手を前に出し、呪糸を編んで鎧を作って防御する。


更に「ウラジミールソード!」と叫んで剣を形作る。


この間0.2秒。

いえ、測ってないから分かりませんねぇ。


おっと、右のミノタウロスっぽいのが棍棒を叩き付けて来ましたねぇ。


呪力アップ!


で、防御力アップ!


ガツンと来ましたねぇ。


でも、ご主人様の拳骨に比べたら痒い程度ですねぇ。


「ウラジミィールソード!」


と叫んで呪力の剣を横薙ぎにミノタウロスの横っ腹に叩き付けました。


あらら、意図も簡単に雲散霧消しちゃいましたねぇ。


「ウラジミールソード!ウラジミールソード!ウラジミールソード!」


連呼して振り回しましたね。


これは些かマズイのでは?


取り囲んだ3体をやっつけちゃった事で回りに気付かれちゃいましたぁ▪▪▪


どうしましょうかねぇ?


斥候の役目が果たせなくなりましたねぇ。


とすると、叱られないようにここを全滅させるしかないと思うのですが、私一人で出来ますかねぇ?


でもやらないと逃げられそうもないほど囲まれちゃいましたねぇ▪▪▪


「貴様▪▪▪何者だ▪▪▪」


なんか偉そうで強そうなのが出てきましたねぇ。


「はい、通りすがりの三流魔術師でございます▪▪▪」


「ワシの配下が三流魔術師に殺られたと言うのか?」


「いやあ、たまたまでございますよ。怖くて怖くて剣を振り回したら当たっちゃいまして、何卒お許しを▪▪▪」


まあ、許してもらえるわけはないと思いますがぁ▪▪▪


下げた頭の後ろに怖気が立ったので、身を捻って交わしました。


はい、問答無用で棍棒が頭の横を通りすぎていきましたねぇ。


「ご無体な?」


と言いつつも呪糸を束ねた「ウラジミールソード」を構えたわけですが、更に刺激したらしく、偉そうで強そうなのが「グオッフゥァアッ!」などと、文字にするのが面倒な声を上げて襲いかかってきましたねぇ。


怖いですねぇ。


いえ、嘘です。


世の中にご主人様より怖い存在はありません。


なので、彼らに臆することもありません。


なんて考えるのに0.01秒。


いえいえ、測ってないからわかりませんねぇ。


偉そうで強そうなのが棍棒を捨てて、やたら長くて厚い重そうな剣を持ち出して来ましたねぇ。


おお、すごいですねぇ。

その剣を正眼に構えてピクリともせずに静止してますねぇ。


これは魔物には無い動作ですねぇ。


つまりこの方は、半分顔が魔物っぽく歪んでいますが、元々は名を馳せた剣士か軍人だったのでしょうねぇ。


うーん、純粋に剣術では勝てそうもありませんし、小手先の小細工など、あの剣で吹き飛ばされそうですねぇ。


「参りました。」


そう言ってウラジミールソードを解きました。


一応鎧はそのまま纏っていますが、はたして、許してくれるでしょうか?


はい、そんなわけ無いですねぇ。


偉そうで強そうなのが電光石火の勢いで斬りかかって来ましたねぇ。


仕方ありません。


「ご主人様ぁ!」


と叫びました。


と、私の後ろの空間がビリビリと破られ、そこから延びる手に私は捕まれて引きずり込まれました。


もちろん、それはご主人様の手でした。


◇◇◇


「で?」


「はい、反乱軍は概ね魔物化しているようでした。最後はやたら長くて厚い重そうな剣を持ちだした偉そうで強そうなのが出てきて、勝てそうにないと思いましてご主人様に助けを求めた次第でございますよ。」


「そ、その大きな剣の特徴を、く▪▪▪詳しく教えて頂けますか?」


クロヴィスが、顔を青くしてウラジミールに聞いた。

心当たりがあるようだな。


「はい?申しあげた通り、黒くて太くて長い逸物でしたねぇ。」


ん?フロリネが浅黒い顔を赤くしているぞ?


「そうそう、両刃の剣を使われる方が多い中で、珍しく片刃の剣でしたよ。」


クロヴィスがさらに顔色を青くしていた。


「間違いありません▪▪▪その方はディートヘルム将軍です▪▪▪この国の国軍を一手に仕切ってきていた大将軍です▪▪▪」


なるほどな、その辺りに核心が有りそうだな。


ウラジミール、まあ、良くできた方か?


と、思って見れば、誉めて欲しそうにしてるから無視することにした。

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