第2章トゥナとリソ
第24話◆◆①ガンゾウとまやかしの結界◆◆
「ウラジミールぅ~▪▪▪」
「は、はい姫様▪▪▪」
「まだなのぉ?」
「は、はい匂いは強くなっておりますので▪▪▪」
「だからぁ、あと何れくらいなのぉ?」
「は、はい、四、五日かと▪▪▪」
バコッ!とウラジミールの頭が凹んだ。
もちろん凹ませたのは俺だ。
俺達は西の果ての国、『ブリアラリア王国』を目指しているのだな。
正確にはブリアラリア王国の西岸の黒洋海を目指しているのだ。
何故かと言えば、まあ、またしてもギルドのヘリオスから面倒事を持ち込まれたわけだが、黒洋海の名物『トゥナ』に釣られたわけだな。
「脂が乗ったトゥナは生でオイルと塩コショウ!これが格別に旨い!生で食べるには黒洋海まで行かなきゃならないのだがなぁ▪▪▪」
つまり『マグロのカルパッチョ』だな。
うん、大好物だ。
出来れば醤油とワサビで『刺身』といきたい。
本当に『米』があれぱ『寿司』が握れるのに▪▪▪
あきらめずに『米』の情報を探しつつ、合わせて『醤油』と『ワサビ』も探すとしよう。
「しかしガンゾウ?今回のこの依頼は、なんでまたデュラデムなんて遠い国のギルドまで来ているのだ?」
一人涼しい顔をしてアンブロシウスが聞いた。
涼しい顔なのも頷ける。
『鏡男』は、体の日の当たる面を鏡にして日光を反射している。
そりゃ暑くねえわなぁ。
あ、そうか▪▪▪俺も鏡を飲み込んでいるから出来るかもしれないな▪▪▪
やってみた。
出来た。
でも暑いままだ。
何故か?
アンブロシウスが衣服を含めて呪力で構成されているのに対して、俺は体表を鏡に変化させても!服を着ているから意味が無いわけだ。
もちろん素っ裸になれば効果が有るだろう。
が、そんな怠惰な見苦しい格好は自尊心が許さない。
まあ、後頭部だけでも熱を反射しているので良しとしよう。
「まあ、言った通り反乱に手を焼いた王家が、各国のギルドに傭兵の依頼をしているわけだ▪▪▪
王家に傭兵をまとめる器の将が居ないらしいな▪▪▪行っても無駄かもしれんが、『トゥナ』を食えればそれで良い▪▪▪」
「まあさぁ、ガンゾウと一緒に行くと決めたから行くけど、この暑さは耐えられないわぁ▪▪▪」
クリスタがフラフラと羽をぱたつかせながら飛ぶが、今にも溶けてしまいそうだ。
「にしてもだ▪▪▪この砂漠は何処まで続いているのだ?我は暑くはないが、3日も同じ景色を眺めていてら、さすがに飽きたぞ。」
と、アンブロシウスがぼやきだした。
ん?
もう3日も歩いているって?
いやまだ半日だろう?
「なあ、アンブロシウス?この砂漠に入って何日歩いたって?」
「ああ、3日だな。」
「いや半日だろう?」
「何言ってるのよ!もう5日も歩いているわよ!」
「ひ、姫様▪▪▪まだ2日です。」
ああ、何かにまやかされてるなぁ。
「そうなのですか?」
「声に出てたか?」
「はい、明確に。」
「そうか。何かの結界だな。俺やアンブロシウスが気付かないとは、相当強い呪力の持ち主だな。」
俺は空間呪から葉巻を出して火を着けた。
ぶっふぁあっと煙を吐き出し、辺りを見回した。
何処までも続く砂丘。
雲一つ無い青空がギラギラした太陽光線を遮ること無く地表に叩きつける。
ああ、よく見れば作り物感が拭えないな。
「アンブロシウス▪▪▪」
「なんだい?」
「ああ、鏡その物になって風景を映してくれ。」
「お安いご用さ。」
そう言うとアンブロシウスは魔鏡本来の姿になった。
驚いた。
そこに映っていたのはどんよりと薄暗く曇った空が、鬱蒼とした枯れ木の隙間から覗ける森の景色だった。
途端に周囲の景色が変わり、魔鏡に映った景色その物になった。
ギラギラした太陽は分厚い雲に隠れ、さらにそれを枯れ木の枝々が遮る。
大汗をかいていた暑さは、凍える風に吹き飛ばされた。
「くっはぁ、こりゃ相当化かされていたようだな?」
頭を掻くしかなかった。
見事に一本取られたな。
「おおい!ばれちまったぞ!そらそろ悪ふざけは止めて顔を見せたらどうだ?」
誰にともなく声をかけた。
「へえ、強いなとは思ってたけど、意外に早く見抜いたわね?」
前方の景色が歪むと、色の浅黒い女が出てきた。
「あっ!あっ!ダーク▪エルフ!」
ウラジミールがその女を指差して叫んだ。
「ダーク▪エルフ?」
「はいっ!ダーク▪エルフ!いわゆるエルフ族なのですが、暗い環境や戦闘好む不埒者です!」
「エルフとは違うのか?」
と言ったら、
「あんな頑固者共と一緒にしないで!」
と、えらい剣幕で否定された。
「そうか?まあいいさ、ところで俺達にこんなことしてただで済むと思ってるのか?」
少し脅しをかけてみた。
「ふんっ!ここはあたしたちのテリトリーよ!つまんないこと言ってると迷宮に閉じ込めちゃうわよ!」
おお、おお、えらく強気だな。
「まったくですねご主人様。」
「ああ、また声に出てたか?」
「はい、明確に。」
「迷宮に閉じ込めるだと?」
「そうよ!餓死して干からびるまで彷徨うがいいわ!」
そう言うとダーク▪エルフは、滲むように消えていった。
「あっ!あっ!マズイですよご主人様!」
いや、大丈夫だ。
俺は空間を掴み、壁紙を破るように引き下ろし、右手を突っ込んだ。
目星をつけてむんずとダーク▪エルフの首根っこを捕まえた。
そしてそのまま空間の裂け目から引きずり出した。
「ぐげっ!」
ああ、ちょっと強く握りすぎたか?
ダーク▪エルフは気を失っていた。
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