第23話◆◆◆閑話休題ポム▪パイソン◆◆◆

「かあっ!こりゃうめえな!」


何がって?

『ポム▪パイヤソン』だ。


「うめえだろ!だがな、それはただのジャガイモなんだよ。」


店の親父が自慢気に言う。


「まあ!中にはチーズを入れたり野菜を混ぜたりするのも有るんだがな、『ポム▪パイヤソン』は基本的にジャガイモだけだ。」


『ポム▪パイヤソン』


ジャガイモを細く千切りにして焼き固めた物だ。


誰にでも作れるものだ。


だが、そのシンプルさ故に売り物レベルに仕上げるには『腕』が必要なんだと親父は言う。


「それとな、ジャガイモも何でも良いわけじゃねぇ、火を入れてホクホク仕上がる奴じゃ駄目なんだ、しっとり水気の多いものじゃねえと固まらねぇ。」


つまりあれだな。

男爵いもじゃ駄目でメークイーンなら良いっつうわけだ。


「親父!俺はヴァンが大好物だが、この『ポム▪パイヤソン』にはこのエールだな!だがチッと残念だ。」


「おいおい!うちのエールに文句でも有るのか?」


と、親父が息を巻く。


「まあ、待てや、おい!クリスタ!」


俺は別のテーブルで鶏の丸焼きにかぶりついているクリスタを呼んだ。


「なによぉ?食事中に呼ばないでよ?」


「ああ、悪いな。ちょっとな、この箱に氷を張ってくれ。出来れば永久凍土の呪も混ぜながらな。」


「お安いご用よ。」


そう言うとクリスタは、1m四方の箱に氷を吐き積めた。


箱の底が透けて見えるほどの純粋な氷だった。


「言われた通り呪を掛けたわよ。普通には溶けないわね。」


そういうと、物理の法則を無視した小さい羽でパタパタと自分の席に戻っていった。


俺は空間呪から細長いパイプを取り出した。

金属のパイプだ。


右手に火力を調整しながら業火を点し、パイプを焼いて氷に突き刺した。


さすがクリスタの氷だ、俺の業火を持ってしても火力を絞るとなかなか溶けねぇ。


それでもゆっくりパイプは氷を貫通していった。


パイプの先が氷を貫通すると、上に出ているパイプの口をエールの樽に繋いだ。


繋ぎ口にはコックを付けてやった。


こうすれば、コックを捻るとエールがパイプに流れ込み、永久凍土の呪を施された氷の中を流れるうちに冷やされるっつう仕組みだ。


早速冷えたエールをジョッキに注ぎ、ポム▪パイヤソンを頬張ってエールを流し込む!


「!!!っ!うめぇっ!」


「おおっ!」


周りから歓声が上がる。


「でわ、私も▪▪▪」


と、アンブロシウスがエールを注ぎ、口にした。


「!」


カッ!と見開かれた目に、驚愕の色が浮かんだ。


「な、何なのですか!これはっ!何百年もの間、いろんなエールやヴァンを飲んできましたが!こんなに美味いエールは初めてです!」


「私も私もっ!」


イヴァンヌまで飛び付く。


一口飲み込む。

カッと目を見開き飲み続ける。


ゴクッゴクッゴクッ!


と、勢いよくエールが喉に流し込まれる。


あっという間に飲みきった。

かと思うと、間髪を入れずジョッキにエールを満たした。


ウラジミールによると、エルフぅつうのはかなりの酒好きらしい。


「この美味さは何だ?ホントにうちのエールなのか?」


店の親父が半ば呆けたように呟いた。


「エールに限らず、炭酸は冷やすに限るからな。」


「炭酸?」


ああ、この世界じゃ、まだ炭酸の概念が無いか▪▪▪


「ああ、この泡を含んだ飲み物の事だ▪▪▪」


とだけ言っておこう。


チーズも美味い。


ウォッシュタイプにシェーブル、青カビも有ったのは嬉しい限りだ。


「おう!親父!この挽肉の煮込み!これもうめえな!」


「だろぉ?角豚の良い奴が手に入ったんだ、なかなかの上物だったぜ!こいつは脂がうめぇんだがな、上手く血抜きをしねぇと臭みが強くなるんだ。苦労したぜ。それにな、何種類もの更新料とあとはトマテだな!甘味があるトマテじゃねぇとこうはコクが出ねぇ!」


はっ、親父、語るねぇ。


「全くでございますねご主人様。」


「ああ、また声に出てたか?」


「はい!明瞭に。」


「良いじゃねえか!分かってくれる奴に会うとよ、嬉しいんだよ!料理バカなのさ!」


親父が豪快に笑った。


一頻り飲み、食った。


ただのジャガイモのガレットだと思っていた『ポム▪パイヤソン』なんて、料理のやり方一つであの美味さだ。

フライドポテトを懐かしく思ったこともあったが、そんなジャンキーな食い物じゃなく、同じ芋と塩、胡椒だけなのに、格段に美味さが違う。

立派な一品料理になっている。


チーズも美味かった。


良い飯だった。

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