第22話◆◆エピローグ◆◆

地下は何層か有るって言ってたが、外壁沿いに螺旋階段が延々と続いているな。


途中、部屋が有るらしく、扉がいくつかあったが、呪力はずっと下から感じる。


そのまま降り続け、途中何事もなく最下層まで降りた。


螺旋階段を降り続けると、どんどんRがきつくなり、最下層は直径3m 程の丸い空間となった。


そこに祭壇があった。


祭壇には魔鏡の一部が祀られていた。


完全体の1/3程の大きさだろうか?


俺はその前にドッカと腰を下し、ぶっふぁぁっと煙を吐いた。


「さて、少し話をしようか?」


鏡相手に何を?とも思うが、これが手順かなと思ったわけだ。


「あんたが何者なのか知らないが、少々ヤンチャが過ぎるな。

こんな力を意思を持たない物質に練り込んだら阿呆な人間達が争奪戦を繰り広げるのは目に見えてるだろうが?

それが目的で外から眺めているなら趣味が悪いとしか言いようがねぇよな?」


もちろん応える奴などいない。


狭い空間に葉巻の煙が立ち込める。


ん?


鏡に何か映っているな?


「ああ、お前さんが鏡の作り主かい?」


薄ぼんやりと男の顔が浮かび上がってきた。


『我に呑まれぬ者に会うのは久しいな・・・』


鏡の中の男が話しかけた。


「ほおっ、喋れるのか?なら話は早いな。お前さん、いったい何者だ?」


まあ、俺のように死ねない体を持つものがいるわけだから、理由はどうあれ、鏡に閉じ込められた男が居てもおかしくはないな。


「葉巻が吸えるのなら一本やるが、流石にそれは無理だろうな?」


と言ったら、鏡の中の男が鏡を変化させて人形に実体化した。


全身実体化したわけではないが、鏡面から頭と左上半身を斜めに出してきた。


「おお、こりゃびっくりだ。」


『びっくりだと言うほど驚いていないようだがな。』


出てきた男は意外に若い。


人間的に言うと、見た目30歳前後の容姿だ。


『出てきたぞ、葉巻をくれ。』


なんだか面白い。


「ほらよ。」


と葉巻を渡し、火を着けてやった。


「ん~・・・旨いな・・・」


一頻り葉巻を堪能する時間を置いた。


「我を見てもその落ち着きぶり、さすが魔王候補というところか・・・」


「なんだ?候補ってのは?」


「なにも知らぬのか?」


「知らぬと言えば知らぬなぁ。まあ、興味がないと言ったほうが良いかもしれないな。」


「なら教えてやろう。もう百年以上前になるが、魔王が死んだ。」


「へえ?魔王ってのは不死じゃあないのか?」


「ああ、それぞれだな。歴代お前のように不死性を持つものは居なかったな。」


「ずいぶん知ったような口を利くじゃねぇか?」


「ああ、何せ俺は初代魔王が作った鏡だからな。」


さあて、何やらめんどくせぇ話になってきた。


「で?先代の魔王ってのは何代目に当たるんだ?」


「443代目だな。」


「今度が444代目か?何か意味が有るのか?」


「無いな。だが、魔王候補って言われている奴等はなにがしかの曰くを作りたがるようでね。」


「そうなのか?で?先代が死んで?」


「ああ、魔王候補は5人指名される。指名とは言っても通知が届くわけではない。そなたのように異世界から召喚されて訳もわからぬまま災難のような目に遇わされて何時しかその実力で魔王候補と呼ばれる者。

バルブロのように魔物の中から頭角を現すものと様々だ。」


「へえ、バルブロってのは実在するんだな?

その片腕を名乗ったベルギッタってのは弱っちかったがな。」


「そなたが強すぎるのだよ。」


「まあ良いや。益々興味が無くなった。で、この後の事なんだがな?お前さんをこのままにしておけばまた阿呆がちょっかい出してくるだろう?どうしたらよいと思う?」


「ふむ・・・」


鏡の男は少し考えた素振りをした後、とんでもないことを言い出した。


「そなた等と共に行こう。」


「・・・は?」


「うん、決めた。そなたと行けば何やら楽しげな事が有りそうだ。」


「おいおい、そんな鏡を持って歩くなんぞめんどくせぇ・・・」


と、鏡の男は鏡全体を人形に変えて完全に人化した。


「これなら良かろう?

我の名はアンブロシウス、そなたは何という?」


「かぁっ、マジか?俺はカンゾウ、不死のカンゾウだ。」


「ガンゾウだな。」


はっ、こいつも発音できねえらしい。


「カ・ン・ゾ・ウだ!」


「固いことを言うな。ガンゾウのほうが言いやすい。」


まあ、良いさ。今更だしな。


「それからな、我は決して完全体ではないが、その理由はお主が飲み込んだ欠片のせいなのだぞ?」


「あんなに割れていたのにか?」


「何故勝手に形を決めつける?お主の顔は何か欠けているのか?そう思われても仕方ないのか?」


なるほどな。

確かに元々の形を知る訳じゃねぇからな。


勝手にイメージして勝手に決めつけていただけだな。


「わかった。じゃあ欠片を返そう。」


「いや、要らない。」


また訳のわからんことを言い出しやがったな。


「なんで?」


「完全な形などつまらん。人にしろ魔物にしろ、もちろん我も例外無く不完全なほうが面白いのだよ。」


ああ、その意見は俺も賛成だ。


完全に『魔王』なぞになりでもして、何でも意のままになるとしたら、生きていることはそれこそ地獄だろうな。


『不自由だからこそ工夫する事』が面白いのだな。

そして『工夫した結果得られた成果』が旨い訳だ。


俺なぞ、何でも出来るからこそ敢えて不自由な行動を課している。


自作自演だが、致し方ないところだな。


「よし、わかった。気に入ったよ。着いてきたきゃぁ着いてくればいいさ。」


そう言うと立ちあがり、短くなった葉巻を一吹かしした。


「まあ、着いてくるのは良いが、フリチンは何とかしろよ。」


そう、アンブロシウスは素っ裸だった。


俺は不自由を選択して螺旋階段を登り始めた。


◆◆◆


地上へ出たときに、アンブロシウスは着流しのような着物を着ていた。


「そなたの記憶から作ってみたのだがどうだ?」


などと言っていたが、人の記憶を勝手に覗くな。


「ご主人様、そちらの方は?」


と訊ねるウラジミールに


「鏡だ。」


と答えたが、初めは信じなかったな。


まあ、そりゃそうだろう。


魔物の気配が消えたことでエルゼとイヴァンヌも神殿の『跡地』に来ていた。


さすがにこの二人はアンブロシウスの気配に気付いたようだな。


「魔鏡のアンブロシウスという。縁あってガンゾウと共に旅をすることになった。皆、よろしくな。」


「魔鏡って、地下の魔鏡ですか?」


エルゼが信じられないとばかりにアンブロシウスの顔やら体やらをペチペチと叩いたり撫で回したりした。


アンブロシウスは困った顔をしながらもエルゼの為すがままだった。


「でも派手に・・・というか、綺麗サッパリ消しちゃいましたねぇ?」


イヴァンヌが塔の跡地を指差しながら言った。


「約束通り街並みは壊してねぇからな。」


空間呪で葉巻を探ったが無くなっていた。


いや、一本だけあった。


婆ァの店にいかにゃぁならんな。


アンブロシウスが、当然のように葉巻を要求する。


仕方ねぇから半分に折って渡した。


「イヴァンヌ、これでギルドに依頼した案件は解決だな?」


「はい、お見事です。魔鏡まで味方につけるなんて、これまでどんな人も魔物もなし得なかったことです。」


「そうなのか?まあ、暇だから着いてくるっつう程度のものだ。なあ、鏡さんよ。」


「そんなところだ。」


半分に折られた葉巻に火をつけて、アンブロシウスは旨そうに煙を燻らせた。


「で?イヴァンヌ、約束通り旨いヴァンと食いもの、ポム・パイヤソンだったか?それと例のチーズな?」


「はい、もちろんです。今夜ご用意致します。」


「よし!宴だ!」


一人で飲む酒も旨い。

一人で旨い飯を食うのも良い。


だが宴で飲む酒や食い物は、これも格別だ。


その晩、ルピトピアは、教義で禁止されていた酒と煙草を解禁した。


宗教国家ルピトピアは、今後国家体制を変えていくことになる。


イヴァンヌとエルゼが中心になって共和制に移行していくらしい。


まあ、俺にはどうでも良いことだ。


第一部 了

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