第18話◆◆⑰ガンゾウと鏡の欠片◆◆
二階に上がると、そこは礼拝堂だった。
一階は信者達が寛げるようなホールになっていたが、ここは一般信者用の礼拝堂らしい。
全体的に荘厳さをより強く演出しているように思える。
にも関わらず、材質のチープ感が否めない。
で、その礼拝堂には、ウジャウジャといろんなのが屯していた。
「あらぁ、安っちいのがわんさといるわねぇ・・・」
クリスタがげんなりした顔で呟いた。
「ああ、雑魚ばっかりだな。」
そう言って魔滅の剣を抜いた。
薄暗い礼拝堂の中で、魔滅の剣は青白い光を帯びていた。
俺はそれを『ヒュンッ!』と一振りした。
すると、剣先から青白く細い炎が伸び、魔物どもを横に一薙ぎ切り裂いた。
『バスッ!バスッ!』と低く鈍い音を立てて魔物どもは黒い粉末となって消えた。
おお、攻撃範囲も成長したな。
「お見事ですご主人様!」
後ろからウラジミールの声がした。
振り返ると、どこで調達したのか黒いスーツ的な物を着ていた。
曲がりくねった手足は元通りになっていたのには驚いた。
段々早く復活出来るようになってきたな。
少々ムカつくが、まあ、そのぶん思う存分ぶっ飛ばしてもすぐ再生するということなら遠慮は要らないということだな。
いや、遠慮などしたことは無いがな。
「ああ、ウラジミール・・・」
「はい!ご主人様!」
「自分の身は自分で守るように。」
「はい!心得ております!」
おや?泣き言を言わないな?
ウラジミールは何かゴニョゴニョと口の中で唱えると、両手を前に突きだした。
すると、手のひらから赤黒い煙が立ち上ぼり、それを器用に手をくるくると動かしてまとめあげると、何やら盾のようなものが出来上がった。
ふん、呪力を物質化して盾にしたのか。
面白いことをするじゃねーか。
あとは使い方だな。
そう、使いかたひとつだな。
何れにしても、防御一辺倒じゃそのうち限界が来る。
呪力が尽きればそれまで。
ならばなにがしかの攻撃は必要になるわけだが、まあ、何か考えてるみたいだしな。
こんな考えに0.000000005秒。
いや、計ってないからわからんな。
クリスタは、チビ竜の姿になり、ブリザードブレスに指向性を持たせて氷の矢として吐き飛ばしていた。
しかし面倒になったのか、徐々に広範囲のブリザードブレスを吐き始めた。
「おいおいクリスタ、建物に穴が開き始めてるぞ?」
「ンギャオッ!」(知らないわよ!)
念話を同時に発してきたから、まあ、意図するところはわかったがな。
「ああ、まあ、程ほどにな。」
とか言いながら魔滅の剣を横薙ぎに払うと、この階に屯していた魔物どもは大方消し去ったようだ。
『カランッ!』と乾いた音がした方向を見ると、何か光るものが落ちていた。
普段ならあまり気にしないのだが、何気に興味をそそられて転がったものを手に取った。
「なんだ?鏡か?」
割れた鏡の欠片のようだ。
「ご主人様!お気をつけください!その欠片から尋常ならない呪力を感じます!」
ああ、言われるまでもなく俺も感じていた。
まあ、尋常ならざるとか言っても、俺の呪力を上回るほどではないしな。
鏡の欠片が何かの意思を持って悪さするというなら未だしも、鏡は鏡だ。
事が済んだら例の婆さんにでも見てもらうとするか。
「ご主人様?その鏡の欠片と同じ呪力を地下から感じます・・・」
ウラジミールが欠片を覗き込みながら言ったのだが、何か魅入られたかのように呆けた顔になった。
「ああ、それルピトピアの魔鏡ね。聞いたことがあるわ。」
クリスタが人形に戻って俺の手から鏡の欠片を取った。
「これね、割れてバラバラになっているみたいだけど、欠片が集まると自分でくっつきあって一枚の鏡に戻るらしいよ。
そうするとね・・・」
「そうするとなんだ?」
「・・・」
ウラジミール同様にクリスタもぼうっとしてきたぞ。
「クリスタ?」
「・・・」
ああ、竜種まで魅入られる力が有るとなると、なかなか厄介な代物だな。
俺は、クリスタの頬を軽く張った。
『バチンッ!』
と、なかなか大きな音と共にクリスタは床に転がった。
「な!何するのよ!」
ああ、正気に戻ったな。
「鏡に魅入られていたぞ。」
そう言って空間呪から葉巻を取り出し火を着けた。
ああ、大分減ったな。婆さんのところに買いに行かないとな。
「え?あ、ありがと。危なかった・・・」
「竜種までも魅入られるとは、なかなかヤバそうな鏡だな。」
ウラジミールを見ると、完全に心を持っていかれている。
仕方無く壁際まで蹴り飛ばした。
面白い格好で壁にへばりついたな。
ああ、もう何回死にかけさせたかな?
まあ、復活するしな。
「で?この鏡にはどんな力があるんだ?」
クリスタはまだフラフラしているな。
流石にウラジミールのような極端な回復力は無いようなので、俺が回復呪をかけてやった。
「ありがと、楽になったわ。」
「はて?私は何をしていたのでしょうか?」
ウラジミール、ほんとに回復が早くなったな。
流石に気持ち悪いぞ。
「あんたも私もその鏡に魅入られてたのよ。危なかったわよ、完全に持っていかれたら戻れなくなるわ。」
「持っていかれている?」
「ええ、その魔鏡は魂を吸い込んで魔物を吹き込むの。欠片でさえその力だからね。完全体ならどんな力が有るのか想像もつかないわ。」
「するとルピトピアの司祭どもがゲルレブリマナスに乗っ取られたのもこの欠片が関係してるのか?」
なるほど、なんとなくからくりが分かってきたな。
「皆が皆そうなのかは分からないわ。でも、これが影響を及ぼしているのは間違いなさそうね。」
「地下の次元の歪みってのはこれと似たような感じだな・・・」
俺は地下から感じられる『何か』が、鏡の欠片と似ていることに気付いていた。
ところでこの鏡の欠片だが、俺にはただの鏡の欠片でしかない。
ウラジミールやクリスタのように魂を持っていかれる感覚はない。
だが、強力な呪力を秘めていることは感じ取れる。
ああ、あれだな。この鏡の欠片、取り込んじまおう。
そう思い、『パクっ』と飲み込んでやった。
「あっ!」
「アアッ!」
叫び声を上げる二人を尻目に、飲み込んだ鏡の欠片を解析し始める。
ああ、空間呪の超強力な奴だな。
いろんなところと繋がってるな。
魔者共の時空間もこれだけの数があると数えきれんな。
魔物だけじゃないな。
お、人間世界だな。
だが俺の居た世界じゃないな。
おお、これは空間どころか別銀河系の星か?
宇宙人的なシルエットだな。
でもこりゃ、流石に覗けるが繋がらないな。
なるほどな。
この鏡は時空間を超えて覗ける能力が有るようだな。
欠片一つだと覗くだけだが、これがすべて揃ったら時空間を越えて移動出来そうだな。魅入られずに操れたらこの世界どころか時空間を超えた魔王になれるな。
まあ、あまり興味は湧かないが、この欠片は体内に封印しておこうかな。
などと考えるのに0.000005秒。
いや、計ってないからわからんな。
「だ、大丈夫なの?」
「ご主人様、あまり無茶なことは・・・」
「ああ、これはな、ちょっとヤバイやつだ。腹のなかに封印したからとりあえず問題はないが、地下の奴も後で封印した方が良いだろうな。」
また変なのが出てきたら、旨い飯にいつまでたってもありつけないしな。
「それが理由なの?」
「あ、声に出てたか?」
「ハッキリと出ておりましたご主人様。」
「そうか、まあ、そう言うことだ。とりあえず上のバカどもを黙らせに行くか・・・」
そう言って俺は上への階段に向かった。
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