第19話◆◆⑱ウラジミールと呪力の鎧◆◆
俺の前をウラジミールが歩いている。
上へ続く階段だ。
考えてみればウラジミールはペドロが放った刺客だったのだな。
まあ、刺客にしてはお粗末すぎたがな。
ウラジミールは、頭のなかを弄っているから俺を裏切ることはない。
ただ、もって生まれた性質だけは変わらないから、一言多いのや、回りくどいのは直しようもないわけだ。
ところで、飲み込んだ鏡の欠片の事だが、この欠片が持つ異空間への、いや、異世界への移動スキルが俺のものになった。
とは言っても、まだ明確に意識して移動できるまでではない。
行ける場所も多分限定的で不安定だ。
流石に高等スキル、というか、そもそも頑張って習得できるスキルではない訳で、俺の『喰い反し』能力をもってしても時間がかかる程の物だったわけだ。
ただ、むやみに移動を試したとしてその世界がここよりマシだとは限らないわけだ。
まあ、ここに飽きたらやってみようかと思う程度のレベルだな。
三階に着いた。
まあ、面倒だが、考えてみれば時間潰しくらいにはなるわけだから良しとしよう。
「ウラジミール・・・」
「はい!ご主人様!」
「何かいるか?」
「はい!一体だけですが、そこそこのがいます。」
「じゃあ任せた。」
「・・・え?」
「俺とクリスタはここで見物してるから。」
「いや、流石に荷が重いかと・・・」
「お前は死なないから大丈夫だ。」
「そういうことではなく・・・」
「ほら、グズグズしてると向こうからやってくるぞ?」
遠目にはすらりと背の高い若い女だった。
それが近づいてくるに連れ、頭だけが大きく見えてくる。
ああ、なるほど、遠近法か・・・
体は動かさず、首だけが伸びて頭だけが近づいてきたわけだ。
日本の妖怪『ろくろ首』みたいだな。
とは言ったものの、首だけが伸びて近づいてきたのは事実だが、近づきながら頭自体が巨大化している。
疎らに牙や臼歯を生え散らかした大口を開けてウラジミールを飲み込もうと迫っていた。
「あわわわわ・・・」
腰が引けながらも、ウラジミールは呪力の煙を操りながら鎧を作るとそれを着込み、大口のなかに呪力の球?を投げ込んだ。
『ガフッ!』とろくろ首はその球を咬んだ瞬間、その球は大音響と共に破裂し、ろくろ首の顎を吹っ飛ばした。
「おお!やるなウラジミール。」
俺とクリスタは、パチパチと浅く手を叩いた。
「へえ、あんな攻撃が出来るんだね?ちょっとだけ見直したよ。」
クリスタの言葉に、鎧で見えないが『てへへ』と照れて頭を掻いているようだ。
「ウラジミール、再生能力はお前さんだけの専売特許じゃないようだぞ?」
ウラジミールがよそ見している間に、砕かれた大顎を再生してまたしてもウラジミールを飲み込もうと迫った。
ああ、よそ見してるからだ。
バクッ!と大きな音と共にウラジミールはろくろ首の口のなかに消えた。
「食べられちゃったねぇ?」
「ああ、食べられちゃったなぁ・・・」
まあ、腹を下さなければ良いがな。
少しだけろくろ首に同情した。
案の定ろくろ首は苦しみ出した。
どうやらろくろ首は、飲み込んだ獲物を腹に届くまでの間の長い喉で消化するようなのだが、ウラジミールは呪力の鎧を纏っていたために消化されなかったのだろう。
頭と同様に体も大きくなればそんなことも無かったのだろうが、残念ながら消化されなかったウラジミールが首の付け根に引っかかり、ただでさえ苦しいのに死んでいないウラジミールはそこで暴れだしたのだな。
「すごい苦しんでるね?」
「ああ、苦しんでるな・・・」
ろくろ首が苦しむのを横目に見ながら俺は葉巻を取り出し火を着けて、他人事のように様子を眺めていた。
と、首の付け根から赤黒い体液的なやつが噴き出した。
まあ、生物じゃないから「血」とは表現しないが、似たようなものだろう。
そして体液が噴き出した辺りからろくろ首の首は内側から切り落とされた。
出てきたのはもちろんウラジミールだ。
呪力を束ねて剣にしたのだな。
呪力の鎧と剣で真っ黒な姿に、ろくろ首の赤黒い体液が絡み付いてかなり気持ち悪いぞ。
その成りで走ってやってきた。
「きゃあ!」
と叫んでクリスタは飛び上がってウラジミールが撒き散らすろくろ首の赤黒い体液を避けた。
が、ピシッと一滴だけそれが俺の右頬に跳ねた。
「やりましたご主人様!ろくろっ・・・ブベバッ!」
ああ、後半のは俺に蹴り飛ばされたウラジミールの悶絶音だ。
「汚えだろうが・・・」
と、一言ひしゃげているウラジミールに投げ掛けた。
「さて、上に行くか。」
「ああぁ、ウラジミール、活躍したのに可哀相・・・」
「お前も逃げたじゃねぇか?」
「汚いから避けただけよ。」
何が違うんだか・・・
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