第14話◆◆⑬ガンゾウと小青竜◆◆
「お前なんでこんなところに居るんだ?」
小さな青竜に問いかけながらウラジミールに左手を差し出した。
人さし指と親指で摘まむ動作をする。
「はい?」
ウラジミール、勘が鈍いな。
そんなんじゃ召使いなどと言えないぞ?
「何でございましょうか?」
すっとぼけた奴だ。
「葉巻。」
「葉巻?」
「預けただろうが?」
「はい、頂きました。」
「吸ったのか?」
「はい美味しくいた・・・べぐぅおあっ!」
腹に拳骨を入れてやった。
内臓破裂を起こしただろうな。
でも治癒呪で治るだろうな。
「ふざけた奴だ。」
そう言いながら空間呪で葉巻を取り出して火をつけた。
「で?何処から紛れ込んだんだ?まさか魔物どもの召喚呪で呼ばれた訳でもあるまい?」
そうなのだ。
竜種は格が違う。
少なくとも魔人クラスの召喚に応えるなどあり得ないのだ。
「グリュグリュ、ギュリュリュゥ。」
わからんな。
「竜種は人形(ひとがた)に変化すると聞くが?お前は人形にはなれないのか?」
と、小青竜が小さな羽を開いたかと思うと、その羽が伸び広がり、全身を覆った。
数秒間、全身を覆った羽を開くと、小さな女の子が現れた。
上手い具合に『鱗ビキニ』みたいな衣装を纏っている。
「失礼しました。この姿になると力の消耗が激しいのです。」
「ああ、悪かったな。念話でも良かったのだがな。」
「はい、でも力の消耗が激しいといっても、この姿を一年間ずっと維持し続けても力が枯渇することはありませんから、たいしたことではないのですが、お腹が空いてしまうのです。」
「竜の姿でも盛大に腹を鳴らしていたがな。」
そう言って笑った。
笑った?
笑ったな。
何時以来だろうな?
「ああ、で、何でここに居るんだ?」
「はい、お腹を空かせてフラフラ飛んでいたら美味しそうな匂いがしたので降りてみたのです。
そしたらあの人から匂ってきたので思わずかぶりついちゃいました。」
じろりとウラジミールを見た。
「ウラジミール・・・」
「はい、何でございましょうか?」
無言で左手を差し出した。
「はい?」
差し出した左手を握り拳骨を作る。
「え、ええとぉ、これでしょうか?」
まだ板に付いていない燕尾服のポケットから出てきたのは、あの『チーズ』だった。
「そう!それですぅ!」
小青竜は嬉しそうに羽をパタパタとさせた。
俺は拳骨を開いて差し出した。
ウラジミールは恨めしげにチーズを俺の手のひらに乗せた。
「ああ、くれてやっても良いが、たしか竜種は食い物は貰い食いしないのじゃなかったか?」
竜種は誇り高い生物だ。
ある意味『神域』に近い存在だ。
実際、『神』として崇められている竜種も居るのだが・・・
いや、居たのだがな・・・
俺が食い返してしまった。
「はい!食べ物を恵んでもらうなんてとんでもないことです!」
「じゃあこのチーズは食べるわけにはいかないんだな?」
「あ・・・」
悲しそうな顔をしているな。
「ちなみに食べ物を貰ってしまったらどうなるんだ?」
「はい、そうなったら誇り高く自害するか、恵んでくれた方に従属・・・あ・・・」
思い出したらしいな。
既にバイソンのジャーキーを貰い食いしているのだな。
「まあ、俺は従属させるつもりもないし、自害を強いるつもりもない。腹が減ったら飯を食うのは俺も同じだ。
まあ、気にするな。」
「で、でも・・・」
「とりあえず青竜は希少だ。お前は成長したら立派な青竜を産まなきゃならん。だから食い物を貰ったことは忘れろ。」
「そ、そんなことは出来ません・・・
分かりました、ではこうしましょう。
山頂に居る敵意剥き出しの魔物たちをやっつけちゃいます。
ジャーキーとそのチーズは報酬と言うことでいかがでしょうか?」
「なるほどな。じゃあ、さっきの岩雪崩を止めてくれたのも込みにしよう。
チーズは、他の奴等を倒した報酬だ。」
「了解です!じゃあ早速!」
そう言うとチビ青竜はパタパタと舞い上がり、羽で体を覆ったかと思うと、一瞬で竜の姿に戻り、そのまま山頂へ飛んでいった。
しばらくすると、山頂付近が大荒れの天候になり、物凄い吹雪に包まれた。
あれはチビ青竜のブリザードブレスだな。
それだけじゃないな。
具体的にはわからんが、あんなに小さくてもさすが竜種。
ギリギリ魔人クラスに片足突っ込んだ程度の奴等じゃ手も足も出ないな。
しばらくすると、吹雪が止み、何か大きな丸い塊がふわふわと飛んできた。
よく見ると、チビ青竜が魔物どもを氷漬けにした氷塊をつかんで飛んでいた。
あの小さな足と羽であんなに大きな氷塊をつかんで飛ぶなど、物理の法則を完全に無視しているな。
ああ、そんなもの今更だな。
なんて考えていると、
『ズッシィィィィン・・・』
と、目の前に魔物の氷漬けが落ちてきた。
「お待たせしました!一丁上がりです!」
えらくジャパニーズな言い方だな。
「ああ、ごくろうさん。ほら、報酬のチーズだ。」
チビ青竜はキラキラと目を輝かせてチーズを受け取ると、一口かぶりついた。
一頻りモグモグと噛み溶かすと、ゴクリと飲み込んだ。
「ほぉぉぉぅぅ・・・」
うっとりと目を細めて余韻を楽しんでいる。
「美味いか?」
「美味しいですぅ・・・」
「そうか。」
また笑ってるな。
俺、笑ってるな。
まあ、美味いものを共有できるのは良いことだ。
「人間は弱い生き物ですが、こんなものを作れるなんて凄いですぅ・・・」
「ああ、そうだな。」
俺は既に純粋な人間ではなくなっているのだが、『元人間』としては嬉しい誉め言葉だな。
キリッとした顔をしてチビ青竜が俺に向き直った。
「そう言えばお名前をお聞きしていませんでした!私の名前はクリスタです。あなたのお名前を教えてくださいますか?」
「カンゾウだ。」
「ガンゾウさんですね!」
まあいつものことだが、なぜ発音出来ないのかな?
「決めましたガンゾウさん!貴方達のパーティーに入ります!いえ、もう入りました!これは覆せない決定事項です!」
「パーティー?」
「はい!」
「いや、俺は誰ともパーティーなぞ組んじゃあいないがな?」
「なら、今からこの3人はパーティーです!」
俺はチラリとウラジミールを見た。
ウラジミールは『てへへ』と照れ笑いしているな。
何故照れる?
「俺は誰ともつるむつもりはないのだがな。」
「でももうその方と一緒じゃないですか?」
「まあそれは行き掛かり上というかな・・・」
「では私も行き掛かり上ご一緒致します!行き掛かり上しかたありません!」
ちょっと面倒だが、まあ、竜種なら足手まといにはならないだろうな。
『行き掛かり上』仕方ないな。
「まあ、なんだ、ついてくるのは構わないがお前さんの一族と揉めるのだけは願い下げだな。
まあ、負けはしないが面倒だからな。」
「そうですね。ガンゾウさんの呪力は底が見えないほどですから、私たちも揉めたくはないですねぇ。」
「なら好きにすればいい。」
「やったぁ!そこの貴方、名前は?」
クリスタはウラジミールに対しては、かなり上からの物言いになるようだな。
まあ、格の違いって奴だな。
「後から加わった後輩のチビ助にそんな言い方される覚えはないぞ!」
と、ウラジミールは虚勢を張るが、完全に腰が引けている。
「そう、なら特別に私から名乗ってあげる!
私は青竜族の王、アレクサンテリの次女クリスタよ!」
「青竜族の姫様!」
ウラジミール、心が折れたな。
地面に潜り込むような深い土下座だ。
「へへぇ・・・ひ、姫様とは露知らず、失礼の段お許しくださいぃぃぃ・・・
私はガンゾウさんの下僕、ウラジミールと申しますぅぅぅ・・」
ああ、ウラジミール、生まれ持った性格とはいえ卑屈に過ぎないか?
「そう、じゃあ、今日からはガンゾウと私、二人の下僕ね。」
当たり前のように言い切ったな。
まあ、別に構わないがな。
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