第13話◆◆⑫ガンゾウとウラジミールの小言◆◆

「ご主人様は分からなかったのですか?」


「何がだ?」


一人で行くつもりだったが、何故かウラジミールがついてきた。


「イヴァンヌ様に良いように使われたのですよ?」


ん?ああ、そういうことか。


「まあ問題ない。」


「お人好しなんですから。」


ゴツンとウラジミールの頭を軽く凹ませた。


「何でついてきたんだ?」


「それは私がご主人様の召使いであるからでございますよ。」


当たり前だと言うようにフンッ!と鼻を鳴らした。


「それとご主人様は何処へ向かうおつもりなのですか?」


ん?ああ、勢いで出てきてはみたが、何処から手をつけたら良いかわからんな。


「何処からが良いんだ?」


「でございましょ?ですから私目が・・・」


もう一度ウラジミールの頭からゴツンと音が鳴った。


「も、申し訳ございません・・・と、とりあえず塩鉱山に強い呪力を感じます。そこからがよろしいかと・・・」


「分かった。」


まあ、ウラジミールの嗅覚は確かに使えそうだ。

誰にでも何か取り柄は有るものだな。


◇◇◇◇◇


盛大に葉巻を吹かしながら塩鉱山の入り口に立った。


探すまでもなく無数の魔物共の目が鈍く紅く光っていた。


「ご主人様、坑道までの道にはあまり強い呪力を感じません。

坑道の入り口付近に1体、途中から奥にかけて複数の強い呪力を感じます。

ですが、一番奥に居るのは魔人クラスでございます。」


「俺より強そうか?」


「まさか!ご主人様は魔王クラスでございます。それも、唯一無二の超絶魔・・・」


長くなりそうだったから首をキュッと絞めてやった。


「ゲホッ・・・ま、参りましょう。」


入り口の形ばかりの門の前に立った。


ワラワラと雑魚が湧いて出てきた。


「んじゃ、まあ、とっととやっちまうか・・・」


そう言って葉巻の煙を吐き出した。


まだ吸えるな。


そう思い、ウラジミールにポイと投げ渡した。


「アチッ!アチアチッ!」


ウラジミールは、わたわたとお手玉でもするように受け取った。


「ああ、持っててくれ。」


「熱いですよぉご主人様ぁ・・・」


知らん。


さあ、行くか。


俺は左手に長剣、右手に魔滅の剣を抜き、両手を開き低く構えた。


ん?魔滅の剣、少し長くなってないか?

まあいい。


「カッハァッ!」


勢いよく長く邪気を吐き出した。


これだけで弱い魔物はドロドロと溶け落ちていった。


半分は消したか?


足に溜めた邪気を解放する。

坑道入り口目掛けて疾風のように突進する。


そのあいだ、右に左に左右の剣を振り回す。


長剣に斬られてミンチになる奴、魔滅の剣で黒い粉になって消える奴。


俺の通った後の道には、赤と黒のまだら模様が出来上がった。


「ご主人様!入り口にやたら強いのが居ます!お気を付けて!」


とかウラジミールが言っているが、俺を誰だと思ってる?


そんな気配は既に察知している。


さすがにこの距離なら外しようもない。


記憶にあるぞ。


「てめえ・・・キュクロプス・・・覚えているぞ!」


そう叫んで斬りかかった。


キュクロプスは巨大な棍棒を軽々と振り回して俺の剣を弾いた。


相変わらず馬鹿力だな。

とは言っても、俺を食ったキュクロプスは食い返したからこいつじゃないのだがな。


それでも、あのときのキュクロプスの1.5倍くらいでかいな。


などと考えるのに0.0000003秒。

いや、計ってた訳じゃないからわからんな。


「デカ物!やるじゃねぇか!」


キュクロプスは『ゴッフゥァァッ!』と臭い息を吐き出し、巨大な一つ目を見開いて威嚇する。


「てめえ鍛冶屋だろうが!おとなしく鍬でも作ってやがれ!」


俺は飛びあがり反動をつけて長剣と魔滅の剣。クロスさせて叩き付けた。


しかしキュクロプスは、頑強な棍棒で弾くと、左の拳骨を俺の横っ腹に叩き付けた。


「グハッ!」


久しぶりだな。

腹に拳骨入れられるなんてな。


ああ、あばら骨折れたな。


ああ、あばら骨くっついたな。


この間0.00002秒。

いや、計ってた訳じゃないからわからんな。


「さすがに低級神とはいえ神の端くれだな、速ええし重てえや!」


そう言って今度は長剣を両手持ちで左下から斜めに薙ぎ払った。

剣先に邪気を集中させ、スピードとキレを重視した一撃だ。


『シュリンッ!』


微かにそんな音をたてて長剣と巨大な棍棒が交わる。


『ズシンッ!』


と、磨きあげたような断面を見せて棍棒は真っ二つに切断された。


『ウゲゥワラァァッ!』


「訳のわからん叫びだな。お前は神の端くれだろう?まあ、そうは言っても、底辺の神なんてのはちょっと強めの魔物と変わり無いのだがな。」


なんて言いながら魔滅の剣で切りつけた。


キュクロプスは俊敏な動きで交わそうとしたが、いかんせん的となる体がデカイ。


魔滅の剣はキュクロプスの右手首辺りを切り裂いた。


『ウゴラララッ!』


なんか赤いのか黒いのかわからん血みたいのが吹き出してるな。


「魔滅の剣は魔物を消滅させるが、間借りなりにも神に属するお前さんには効くのかな?」


そう言いながら小刻みにキュクロプスを切りつける。


キュクロプスの傷から血が吹き出しているが、同様に黒粉も吹き出している。


「どうやら魔滅の剣ってぇのは魔物殺しだけじゃなく『神殺し』でもあるようだなっ!」


俺は両手で魔滅の剣を持ち、飛び上がりキュクロプスの一つ目目掛けて魔滅の剣を降り下ろした。


『グシャッ!』


と音をたてて魔滅の剣は一つ目を貫き、脳まで達した。


いや、頭部だからと言って脳が有るとは限らんのだがな。


キュクロプスは刺し貫かれた一つ目から黒粉を噴き出しながら真後ろに倒れた。


「お、お見事ですご主人様!

あ、あの、た助けてくださいぃぃっ・・・」


振り返るとウラジミールが低級な魔物に噛みつかれている。


俺は「ハッ!」と邪気を吐き、魔物に当てた。


それだけで溶けるものもいれば、慌てて逃げ出す奴もいたが、一匹だけウラジミールに噛みついたままの奴がいた。


「ほお、なかなか根性があるな。んっ?竜種か?」


まだ小さいが間違いなく竜種だ。


しかも希少な青竜だ。


俺はヒョイと首根っこを掴み持ち上げた。


「なんでお前みたいなのが魔物に混じってんだ?」


『グギュルグルルルル・・・・』


小さな竜の腹から、盛大な音が聞こえた。


「なんだ腹が減っているのか?なんかあったと思うが・・・」


そう言いながら空間呪で食い物を探した。


いつのものかは分からないが、酒のつまみにと思って作ったバイソンのジャーキーが有った。


けっこうな塊だったが、青竜は食らいつくと黙々と食べた。


「ご、ご主人様!そんな事をしている場合では・・・」


「ああ、奥の奴等なら逃げたっぽいな。気配が無くなったな。」


「え?」


なんだ、ウラジミールの鼻もそんなものなのか?


「違いますよご主人様ぁ!居なくなったのじゃなくて山頂付近に移動したのですよぉ!奴等山を崩して私たちを押し潰すつもりですよぉ!」


次の瞬間、山頂で爆発音が連続して鳴り響いた。

と思ったら、形容しがたい破砕音を伴って巨大な岩が転がってくるのが見えた。

それも一つや二つじゃない。大小様々な岩が雪崩となって襲ってきたのだった。


「ああ、ちょっとやべえな・・・」


いや、俺は大丈夫だが、このままだとイヴァンヌ達の村を潰しちまうな。


『キュゥゥッ』


青竜が俺の顔と岩雪崩を見比べて、小さな羽をパタパタと羽ばたかせて宙に浮かんだかと思うと、その小さな体の何処から?と思うほどの大音声と共に強力なブリザードブレスを吐いた。


『ゴォォォゥゥゥッ!』


いや、文字では表現出来ないほどの大迫力のブリザードブレスが、雪崩を打って迫り来る岩石を吹き飛ばし、或いは凍らせて地面に繋ぎ止め、或いは凍った岩石が更なるブリザードブレスに砕かれて砂塵と化して吹き飛んだ。


「・・・チビ、お前すげえな。」


俺は素直に感心した。


ウラジミールは顎が外れたかと思うほど口を開き呆気に取られていた。


「キュウッ。」


なんか嬉しそうに青竜がすり寄ってくる。


餌付けしてしまったのか?

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