第15話◆◆⑭ウラジミールと頭陀袋の穴◆◆
さて、クリスタが氷漬けにして運んできた山頂の魔物たちだが、その中に二体、司祭服を纏った奴がいた。
氷漬けにされて死んだかと思いきや、生きていたらと思って顔の部分だけ氷を溶かした。
まあ、なんだな。
溶かすにあたっては、葉巻に火を着けるような火力では溶けない、特にクリスタのような氷属性の能力によるものは、氷具合も最たるものだから、ちょっと強めの火で炙ったわけだが、結果的に魔物どもの顔も炙っちまった。
人間ならばショック死しているかもしれないが、さすが魔物、皮膚を黒炭に変えられても生きていた。
『ΚΣΡΘΗΟΒρΩποσκλμёпц!』
何を言っているのか皆目見当がつかない。
「ああ、分かるように言わないと皮膚が剥がれるまで焼くからな。」
そう言いながら右手の掌にリンゴ大の火球を作って見せた。
「!!!」
まだ抵抗しそうなので、司祭服を着ていない一匹に火球を放った。
『バフッ!』という音とともに火球は魔物の首から上を包み込んだ。
『ЮЮЮЮЩЩЩЩθθθθ・・・』
意味不明な叫びと共に、魔物は首から上を焼き消された。
文字通り首から上が無くなったのだ。
「わ、わかった・・・た、たのむ死にたくない・・・」
まあ、虫の良い言い方だが、本能のまま生きている魔物など、人間よりも『死』を恐れているのだから、そう言うだろうな。
『生』に執着が有る奴ほど『死』を恐れるものだ。
「ああ、お前たちの中にペドロは居るか?」
俺の質問に魔物たちは顔を見合わせて一言二言ゴソゴソ言ってた。
イラついたので、火力を絞って頭のてっぺんを焼いてやった。
「あ、あ、あ、あ!熱っ!」
「こそこそやってるからだ。」
豚顔と猿顔のザビエル頭が出来上がった。
これはこれで面白いな。
あ、また人間性が剥落していくな。
「ペ、ペドロはここにはいない!」
「じゃあどこにいるんだ?」
「そ、それは・・・」
面倒だな。
片っ端から焼き消していったほうが早いか?
と心のなかで呟いたつもりが、しっかり言葉に出ていたらしい。
「わ、わかった言うから!言うから焼かないでくれ!」
「ああ、もういいや。」
そう言って右手の火球を膨らませた。
頭上に直径5m程の火球を作った。
その中心は有り得ないほどの高温になり、真っ白く輝きだした。
「あ、あ、あ、あ・・・・」
火球を魔物どもの真上から落としてやった。
魔物どもは、声にならない叫びごと瞬時に蒸発した。
「さて、次は何処だ?」
そう言ってウラジミールを振り返ったが、ウラジミールは、火球の余波で焼かれブスブスと燻っていた。
ああ、せっかくの燕尾服が台無しだな。
さすがに治癒するまで時間がかかりそうだ。
ん?クリスタが居ないな?
焼いちまったか?
と思ったが、パタパタと上空からクリスタは舞い降りてきた。
「ガ、ガンゾウ!なんて事を!私まで溶けるところでしたよ!」
「ああ、悪かったな。少し面倒になっちまってな。」
そう言って空間呪で葉巻を取り出し火を着けた。
「ウラジミール死んだの?」
焼け焦げて横たわるウラジミールをゴミでも見るかのように眺め下ろしていた。
「いや、死んじゃあいないだろうが、さすがに今回は復活まで時間がかかるだろうな。消滅しなかったのが不思議なほどの火勢だったからな。」
そう言ってしゃがみこみ、葉巻を吹かした。
「そう。待つの?」
「ああ、これでもこいつの鼻はなかなか有能なんだ。」
ぐずぐずと気持ち悪い音を立てながらウラジミールの細胞が復活しているようだ。
それから小一時間程でウラジミールは息を吹き替えした。
◆◆◆◆◆
「ううっ・・・」
ウラジミールは、息を吹き替えしてからずっとべそべそ泣いている。
お気に入りの燕尾服を燃やされたことが、死にそうなめにあわされた事よりも悲しいらしい。
「わかったわかった・・・事が片付いたら新しいのを買ってやる・・・」
面倒な奴だが、まあ、多少悪かったと思わないでもないからな。
「本当ですかぁ?」
「ああ、」
「本当に本当ですかぁ?」
うぜぇ・・・
「わ、分かりました!」
気配を察知したのか、ウラジミールはべそべそ泣くのを止めた。
「楽しみだなぁ!」
今度は笑ってやがる。
「ああ、もう雑魚を相手にするのも面倒だ。要はペドロをぶっ殺しゃぁ良いんだろ?」
「そこは私も分かりませんが、少なくともペドロが親玉なら後は何とでもなるでしょう。」
お、やけに余裕かますな。
「で?ペドロは何処だ?」
「分かりません。」
ゴツッ!とウラジミールの頭が鳴った。
「す、すびばぜん・・・」
「言いようが有るだろうが?」
「はい、申し訳ありません。明確にペドロだと断定は出来ませんが、それらしき臭いは教会本部周辺で強く感じます。」
「最初からそう言えば良いんだ・・・」
「へえ、ウラジミール、あんたなかなかやるわね。」
クリスタに褒められてウラジミールは『てへへ』と照れている。
「で?ガンゾウ?どうするのですか?」
ぶっふぁぁっと葉巻を盛大に吹かして答えた。
「なに、真っ直ぐ向かって正面からぶっ潰すだけだ・・・」
「まあ単純ね。でも私もそれが好き。」
おお、クリスタ、やる気だな。
「じゃあウラジミール、教会本部まで案内しろ。」
「はい!ご主人様!」
「ああ、その前にウラジミール。」
「なんでございますか?」
俺は空間呪から魔物を駆った時に首を入れる頭陀袋を取り出し、穴を三ヶ所開けてウラジミールの頭から被せた。
「いつまでも粗末なものをブラブラさせてるな。」
「あ・・・」
「ブラブラさせてるな!」
クリスタが尻馬にのって囃し立てた。
ウラジミールは顔を真っ赤にして歩き始めた。
あ、もう一つ穴が開いていた・・・
ウラジミール、すまなかった。尻が丸見えだ。
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