第10話◆◆⑨ガンゾウとルピトピアの惨状◆◆

「ああ、ルピトピアってのは魔物の国だったのか?」


人の気配は無かったが、魔物の気配ならそこかしこに溢れていた。


エルゼはそれを敏感に感じ取っていた。


やはり何か特殊な能力を持っているのだろう。


人っ子一人いない大通りの両側の建物から、わらわらと異形のもの達が溢れ出てきた。


「ああ、ウラジミール。」


「はいご主人様。」


「エルゼとヴァルターを結界を張って閉じ込めておけ。」


「であれば空間呪で隔離致しましょうか?」


軽く頭を小突いた。


軽くのつもりだったが、頭が凹んでいた。


「どこに繋がるか判らん、窒息したり圧力で潰れるかもしれんだろ。」


「け、結界を張ります・・・」


最初から言われた通りにしておけ。


それにしてもウラジミールはなかなか強い『呪』を使う。


そんなに呪力を強くしてやった覚えはないのだが、まあ、素養が有ったのだろう。


さて、そんなわけで左手に業物の長剣、右手に魔滅の剣の二刀流と洒落こんだ。


「ああ、ちょっと『気』を出すから構えておけよ。」


チラリと後ろで結界の中に居るエルゼに声を掛けた。


「え?」


「エルゼ様!お気をつけて!」


ウラジミールが注意を促したが遅かった。


俺は魔物たちに向き直り様『カッハァッ!』と息を吐き出すと共に『気』を当てた。


これだけで低級な魔物はバタバタ・・・いや、びちゃびちゃと溶け落ちた。


そしてエルゼは卒倒した。


「うじゃうじゃと弱ぇのが湧いてんじゃねぇ!」


いわゆる『邪気』の類いなのだろうが、俺の『邪気』は、魔王クラスなのだからそれに耐えたやつらはそこそこ力を持っていただろう。


まあ、いくら時間潰しになると言っても、『気』で溶け落ちる奴なぞ相手にするのは面倒臭い。


と言うわけで、エルゼも落ちている事だし、加減無しで良いよな?


「ちったぁ骨のある奴は居るんだろうな?行くぜ!」


右手にでかいミノタウロスが居た。


突っ込んで長剣を左から脇腹へ薙ぐ。


どす黒い血が吹き出す。


反動をつけて逆手に持った右手の魔滅の剣を心臓目掛けて突き刺す。


隆々とした筋肉を易々と突き破り心臓を貫いた。


瞬間、『バフッ!』とミノタウロスの身体が黒い霧状に分解し、霧散した。


「おお、すげえな。」


他人事のように俺は魔滅の剣を眺めた。


「だけど消滅しちまっちゃぁ懸賞金は稼げねぇなぁ!」


とか言いながらも、右から左から飛びかかってくる魔物たちを長剣で断ち割り、魔滅の剣で霧消させる。


「まあ、残骸が少なくてエルゼに文句を言われなくて済むか?」


などと思ってもいないことを口にしてみる。


「おっとぉ・・・」


半分ほど消した頃、変なやつが出てきた。


「なんだ?人面犬か?」


ゴツゴツと瘤だらけの顔に、獅子の身体、尾の先には蠍の毒針らしきものがある。


「ご主人様、そいつはマンティコアです!尻尾の毒針に気を付けてください!」


ふん、気を付けろったって俺は不死身だし。


殺してくれるならむしろ刺されたい。


が、


こんな不細工なやつに殺されるのは真っ平だ。


マンティコアは顔の大きさだけで2mになりそうな巨体だ。


にも関わらず、俊敏な動きで襲いかかってきた。


軽く左へいなした。

と思ったが、例の尻尾が横を通り抜け様に襲ってきた。


スウェーで交わす。

あの毒針に刺されたら、死なないまでもそうとう痛えだろうな・・・

だがあの毒針は持ってないな。

何処か食わせるか?


この思考におよそ0.000001秒。


いや、測ってないから判らんな。


俺は振り向き様右の小指を自ら噛み千切り、『ブッ!』と吹き出し、マンティコアの口に放り込んだ。


怪訝な顔をしてマンティコアは一瞬動きを止めたが、ゴクリと俺の指を呑み込み、巨大な犬歯を剥き出しにして威嚇の咆哮を放った。


「さて、もう少しお前の力を見せてくれよ。」


あの毒針に秘められた毒液はどんな効果があるのか試してみたい衝動に駆られる。


まあ、1滴で何百人も殺せるだけの威力なんだろうな。


でも、その程度なら問題ないが、現状俺の毒耐性を上回られると少々厄介だ。


まあ、最終的には喰われてもまた喰い返して復活するが、その間にエルゼ達は跡形もなく喰われてなくなっているだろうな。


と言うわけで、今回は我慢。


マンティコアの攻撃を交わしつつ、動きのパターンを見定める。


おっかない顔のでかい口を開いて牙を剥き出しにして突進してくる。

で、その威嚇に負けて移動すると、でかい顔の後ろから毒針が襲い掛かる。

マンティコア必勝パターンなのだろう。


まあ、魔王クラスの俺の反射神経には及ばないがな。


もっとも、避けたりしなくても、皮膚を硬化させればあの程度の毒針は刺さらないがな。

でもそれじゃ面白くないし時間潰しにもならない。


『殺られるかもしれない』的な感覚は大事なのだ。


「さて、そろそろかな?」


言った通り、マンティコアは動きを止め、苦しみだした。


と、横っ腹から血が吹き出した。


同時に何かが勢いよく飛び出した。


何かって?もちろん俺の指だ。


飛び出した指は、リモコン操作されてるかのように俺のもとへ飛んで戻ってきた。


「ご苦労さん。」


俺はそう言いながら指を右手の小指があったところに押し付けた。


『シューッ!』と白い煙を出しながら、指はくっついた。


2、3度手をグーパーして確めた。


「おお、危なかったな、意外に強い毒性だったな?」


指が持ち帰った情報は、マンティコアの毒性は、1万人は殺せる威力だった。


でも、その程度だ。

と言うわけで、マンティコアには消えてもらうことにした。


「カッハァッ!」


再度『気』を当てた。


マンティコアは、少し怯んだが、戦意は失っていない。


俺は低く長剣と魔滅の剣を構え、脚力を爆発させるかのように、一気に弾けた。


正に弾けたという表現だろう。


長剣を立て、魔滅の剣を横にクロスさせマンティコアの顔面に突っ込んだ。


長剣だけでは断ち斬れない固いマンティコアの皮膚も、魔滅の剣を添えた事でその威力が伝播したのか、マンティコアは斬られた傍から黒い霧となって霧散していった。


終わってみれば何も危ないこともない。

まあ、俺だけに限ればだがな。


振り返ると、ウラジミールが張っている結界の周りに魔物達が取りつき、結界が見えなくなっている。


魔物どもの唸りやら叫びやらで聞き取り難いが、どうやらウラジミールが助けを求めているらしい。


まあ、攻撃的な『呪』は与えてないからな。


「やれやれ・・・」


そう言って俺はゆっくりと結界へ歩き出し、魔物どもを消して回った。


結局マンティコアよりも強い奴は居なかったが、何せ数が数だけに面倒臭くなったので、ウラジミールの結界を補強した上で広範囲の『呪』、『雷土』で一気に消してやった。


そのとばっちりで、結界を中心に500m程が真っ黒い焼け野原になってしまったが、まあ良いだろう。

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