第9話◆◆⑧ガンゾウとウラジミールの特殊な能力◆◆

「だが不思議だ。」


「何がですか?」


俺は違和感の正体を見つけられずにいた。


「ゲルレブリマナスって奴は人間に寄生するが、一週間ほどで人間の皮が腐れ落ちてまた別の寄生先を探すものだ。

だがそのペドロって奴は三ヶ月もの間ペドロでいるのだろう?

他の奴等も一週間ほどで居なくなったとか無いんだよな?」


俺の説明にエルゼとヴァルターは顔を見合わせた。


「はい、間違いなくペドロ司祭はペドロ司祭です。そう言えばカンゾウさんが言うように、臭くて仕方ない時もありましたが、先日追っ手を命ぜられた時は、特に臭いなど気になりませんでしたが・・・」


ヴァルターの言葉は、ペドロはゲルレブリマナスに浸食されたが、何らかの理由でゲルレブリマナスから身体を取り戻したか、他の何かが更にペドロの身体を奪ったかだ。


前者であるならば、ペドロは俺ほどではないにしても、特殊な能力を持っていたのだろう。

眠っていた能力が覚醒したか?


後者であるならば、ゲルレブリマナスなどとは比べ物にならないほどの厄介な奴だろう。

今のところ心当たりはない。


「ご主人様、ゲルレブリマナスには上位成長種のゲルレブリムナセルが居ます。なかなか見ない種ですが、表皮を生かすために食事を摂り水浴び等も行います。

単独では成長種とはなりませんが、ペドロのような精神的に高次の人間に寄生した場合、希に成長種となるようです。

今回は、寄生した司祭達が、多少の問題が有ったとしても宗教的には純粋な信仰者だったのでしょう。

私のように下衆な考えを持つものは居なかったのですね。」


いつの間にか俺達に追い付いていたウラジミールがそう言って笑った。


「ウラジミール?何でそんなことが分かる?」


「はい、ご主人様に頂いた能力『分析』と私の下衆な心が融合して魔物に関しては知らないことはございません。」


フンッ!と鼻を鳴らして自慢げに胸を反らせた。


「なら俺のことも分かるのか?」


「申し訳ありませんご主人様。ご主人様は『魔物』ではなく『魔人』でございます。

しかも、何時でも『魔王』を名のれるほどの高位魔人。

私ごときがそのお力を推し量ることなど出来るはずも御座いません。」


そう言って恭しく一礼する。


どこで捕まえたのか、立派な角を持った角馬に跨がり、何処で調達したのか、折り目の整った燕尾服を着て、『執事』然としている。


まあ良いか・・・

特に文句を言うことでも無かろう。


むしろ、聞いてほしそうな顔をしている。

面倒だから聞かないことにしよう。


「そのゲルレブリムナセルってのはどんな力を持ってるんだ?」


燕尾服には触れずに、必要な事だけを聞いた。


「存じ上げません。」


「・・・知らないのか?」


「はい。」


言い切るな。こいつ。


「魔物については知らないことは無いのじゃ無かったのか?」


「はい。しかしそれは魔物の種類であって、それぞれの能力などについては白紙でございます。ございますが・・・」


「なんだ?」


「見当はつきます。」


面倒臭い。こいつほんとに面倒臭い。

俺が人間だったとき、会社にこんな後輩が居たな。


事実に基づいた事ではなく、憶測で物を語る。

しかも、いかにも事実であるかのように。


事実確認をしているときに、自分の物差しで憶測を語り、混乱を助長する。


指摘すると、いかに自分が正しいかを力説し出す。

決して他の意見を認めない。


ああ、鬱陶しい。


殺すか?


「ああ、ウラジミール、正確に言葉通りに受け取ってくれ。」


「はい、ご主人様。」


ニコニコとムカつく笑顔だ。


「ゲルレブリムナセルの特性、能力について『知っている』か?」


「知りません。が、『見当』はつきます。」


うぜぇ・・・


心底げんなりした。


「俺は知っているか?と聞いた。お前は知らないと答えた。しかし見当はつくとも言う。

見当はつくと言うのは知っているのか知らないのか?」


「知りませんが見当はっ・・・」


おもいっきり鼻っ面にグーパンチを極めてやった。


ウラジミールは顔半分を潰されてぶっ飛んだ。


「キャッ!」


と、エルゼか悲鳴を上げた。


「ガンゾウさん!な、何をっ!」


ヴァルターも慌ててエルゼを抱き抱えるように身を寄せて守ろうとした。


「うぜぇからぶっ飛ばしただけだ。まあ死んだだろうな。」


「なっ!」


あっさりと言った俺の言葉に二人とも血の気が引いていた。


「痛いですよぉ、ご主人様ぁ・・・」


実際には明確に聞き取れなかったが、口を含め、顔面を潰されたウラジミールがヨロヨロと立ち上がったのには、さすがに俺も驚いた。


死んだと思ったし、殺すつもりで殴ったからな。


「何で死なないんだ?」


俺はフラフラと身体を揺らしながら立つウラジミールに問いかけた。


「ごじゅじんざばがだじだだびばぞべびぼ・・・」


何言ってるか判らん。


「ああ、ちゃんと喋れるようになったら話しな。」


俺はそう言って葉巻を取り出して火を着けた。


ヴァルターが欲しそうにしてたが無視した。


30分程でウラジミールはほぼ元の顔形を取り戻した。


「で?」


「いやぁ、なかなかの非道な仕打ちで御座いました。」


素直に答えないからまた顔面を潰してやった。


復活すると分かったからか、エルゼもヴァルターも顔をしかめるだけで何も言わなかった。


なに、時間はたっぷりある。


そして30分後、ウラジミールはもう一度顔面を潰された。


「飽きた。」


「申し訳御座いません。

では、お答えいたします。

ご主人様から頂いた能力に『蘇生』と『治癒』がございます。

これは、後方支援の為の能力であろうと理解いたしておりますが、その後方支援のためには、私が死んだり行動不能に陥ることは出来ません。

その為、この二つの『呪』を常に私自身に掛けているため死なずに復活いたします。」


なるほどな。


「じゃあお前は死なないのか?」


「いえ、死にます。

完全に死にきる前に『呪』が発動している次第で、普通に老化による死は避けられませんし、『呪』の発動よりも早く殺されれば死にます。」


なるほど。

だがそれにしても俺の拳骨よりも早く蘇生出来るとすれば、こいつの能力もなかなかのものだな。


「分かった。まあ、また回りくどいことを言うならば、お前の『呪』と俺の拳骨の競争をやるからそのつもりでな。」


そう言いながら俺は葉巻を揉み消した。


ウラジミールは深々と頭を下げた。


まあ、これはこれで面白いやつだな。


そんなこんなで途中釣りをしたり狩りをしたりして食料を繋ぎながら俺達はルピトピアへ向い、3日でルピトピアに到着した。


「おかしいですね・・・」


ヴァルターが呟いたが、エルゼは言葉を失っていた。


開け放たれていた城門の内側には、人の気配を微塵も感じることが出来なかった。


青ざめているエルゼを横目に、俺は魔滅の剣がチリチリと震えだしたのを感じていた。

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