第6話◆◆⑤ガンゾウと襲撃者◆◆
エルゼが同行するからと言って、一足飛びにルピトピアまで飛ぶような不粋な真似はしない。
何故って?
無駄に時間を使えないじゃないか⁉
と言うわけで、『徒歩』でと思ったが、エルゼが足手まといにならないように『角馬(つのま)』を調達した。
『角馬』とは、ユニコーンのように角が一本生えている馬なのだが、ユニコーンほど形良く整っているわけではない。
まあ、ユニコーン自体が転生前の世界の想像上の生き物でしかないわけだが、この『角馬』は、実在する。
と言うよりも、この世界の馬には角が有るのが普通らしく、『角馬』=『馬』なのだ。
野生の角馬を捕まえ、『魅了』する。
すると、従順に従うようになる。
『魅了』は、暫くすると解けるのだが、角馬は、魅了が解けた後でも従順に従う。
俺のように魅了が使える人間など居ないから、人間は野生の角馬を捕まえたら牧場で飼育して徐々に馴れさせていく。
以前の世界でもそうだったのだろう。
「ガンゾウさんは元々魔法を使えるのですか?」
大きな角馬にチョコンと跨がったアンバランス感が面白い。
「そんなことはない。こっちの人間と同じで、向こうでも『魔法』なんて空想世界のものだ。」
「では何故ガンゾウさんは魔法を使えるようになったのですか?」
「聞きたいか?」
「はい!是非!」
そう言って目を輝かせるエルゼに、俺は一切遠慮することなく、かといって過大に盛る事もなく、ありのままを伝えた。
「うっ・・・も、もう良いです・・・」
エルゼはそう言って口を押さえて俯いた。
顔色が面白いくらいに青い。
「そうか。」
「でも不思議ですね。どんな意思がガンゾウさんをこの世界に呼び寄せたのでしょうか?」
「さあな。ところで、あいつらはエルゼの知り合いか?」
「誰ですか?」
と言ったとたん、数十本の矢が降り注いできた。
俺は長剣を抜き放ち一扇ぎした。
俺達に向かって飛んできた矢が、見えない壁に当たったかのように力なく落ちた。
「な、何ですか⁉何処から?」
エルゼにはまだ見えていないらしい。
「お前と似たような服を着ているな?」
急に失速して落ちた矢に、不審を覚えながらも、百人程の男たちが抜剣して襲いかかってきた。
まだ距離が有ったが、ようやくエルゼもその男たちを認識したらしい。
「あ、あれはルピトピアの護神部隊です。でも変ですね、彼等は私の直属で私の命が無ければ動けないはずなのですが?」
「つまり、お前の直属で無くなったか、お前の代わりが出てきたかって事だな!」
そう言って俺は角馬を走らせた。
抜き放った長剣を水平に構え、敵の一団に突入した。
右から長剣を一閃、一降りで3人を薙ぎ倒した。
返す刀でまた3人、敵の一団は見る見る人数を減らしていった。
「おのれ!何者だ!」
そう叫んで斬りかかってきた男の剣は、洗練され、鍛練を積んだ重厚さを纏っていた。
「お前らこそ何者だ?何の誰何もなくいきなり矢を打ち込んできたのはお前らだぞ?」
男の剣戟をあえて受け止めて聞いてみた。
面倒だが、まあ、これで少しは時間も潰せる。
「ヴァルター!ヴァルターなの?」
男に声をかけたのはエルゼだった。
「!エルゼ様?エルゼ様なのですか?何故こんなところに?」
「ヴァルターこそ何をしているのですか?」
「わ、私はエルゼ様の命で宝物殿から宝物を盗んだ科人を捕縛しに・・・」
「私はそんな事を命じた覚えは有りません。」
「しかし、しかし・・・」
と、ヴァルターと呼ばれた男の後ろにいた男が体当たりするようにヴァルターの背後から短剣を突き立てた。
「グッ!ウ、ウラジミールッな、何を・・・」
左脇腹に後ろから突き立てられた短剣を中心に、見る見る血の染みが広がり、ヴァルターは崩れ落ちた。
まあ、俺としてはこいつら全員死んでくれても問題はないが、エルゼの様子からすると、ヴァルターとやらは生かしておいた方が良い気がする。
ので、ヴァルター以外ウラジミールとやらを残して皆殺しにすることにした。
が、その間にヴァルターに死なれたら面倒なので、手近な葉っぱに絶対回復の呪を施しヴァルターの傷口に貼り付けた。
これでよし。
で、ウラジミールとやらには鳩尾に死なない程度の突きを入れて悶絶させ、残りの百人程に向き直った。
「ええっ、お前らは逃げられないから、俺が時間を無駄に使えるように頑張ってくれ。」
そう言って長剣を肩にかついだ。
「ふざけたことをっ!」
男たちはたった独りと侮ったのだろう。
殺戮が始まった。
斬りかかってきた男の剣を叩き落とし、腹を横に裂いてやる。
同時に空いている左手を切り裂いた男の腹に突っこみ、腸を引きずり出してぶちまけてやる。
「ひっ!」
すぐ間近でそれを見た男が悲鳴を上げたが、その男の頭をてっぺんから真っ二つに切り裂き、文字通り左右対称に切り分けてやった。
三人目は長剣を両手に持ち右から首を落とし、返す刀で左から胴を両断した。
四人目以降も、似たような感じなので、まあ説明は良いだろう。
と言うわけで、ものの10分とかからずに百人程の一団を文字通りミンチにしてやった。
「な、なんという事だ・・・化け物か・・・」
そう呟いたのは、俺の術で回復したヴァルターだ。
意外にもエルゼは平気のようだ。
と思ったのだが、目を見開いたまま気絶していた。
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