第6話


『白飯、豚のしょうが焼き、じゃこの糀合え、です。』

『柏飯とつくね汁と、おやつのずんだ餅です。』

『蟹鍋です。

追伸:冷めていたらカセットコンロを一緒においておくので、使ってください。』

『牛丼と冷奴です。食後に水羊羹をどうぞ。』

『麦飯と刺し身、おかず味噌です。』

『蕎麦、山菜の天婦羅に吸い物です。』


裏庭の垣根の隙間から(最近あると知った)小間へ直通の戸をくぐり帰ると、そういった書き置きと共に飯が置いてあった。

といってもライオネルに隠れて、というわけではないらしく、部屋に彼が居るときに盆にのせた料理を持ってくることもある。


学園、否、学校に行っているようで、昼餉は朝の盆に置かれた硬貨をこんびにで(ライオネル自身が)食物に替えることが多かった。




「ライオネルさんは風呂には入られるのですか?」

「……入らずとも…いや、お前が不快か」

「まあ、精神衛生的には悪いでしょうね、あなたの。ただ一応、ここには僕以外の家族もいるので……」


提案されたのは、こうだ。


「風呂はこの廊下を真っ直ぐ行けば有るのですが、如何せん共有スペースなものですから、私が見張りにつきます。私は貴方が風呂に入っている間脱衣所におりますので、出るときに言ってください。

外で待機しています。それで、共に部屋へ戻れば万一見つかっても大丈夫ですから。」


上手く誤魔化しますよ、と言う口許は何時も通り弧を描いており、踏み込むつもりもないライオネルに反論はなかった。




その日も同じ様に入浴し、戻ろうとした時だ。表情を、顔にできてしまった皺を歪ませた女性が風呂場へ歩いてきて、二人に気付くとさらに皺が深くなった。


「……あなた、っ…そのひとは……いいえ!何でもないわ、さっさと戻ってちょうだい」


(母親、か)


いくらか白いのが混じっていても、艶やかな藍の髪は同じであった。男は状況を弁解することなく女性に背を向ける。


「………」


痛々しいものをみるようなあの母親の視線に、やけに心地悪さを感じた。


まるであれは、

人間ではないものをあわれむような。

あの女が、主に対してしていた、ような。


「僕はそういう扱いなんです。気にしないでください。」


そう言った声音に常の柔らかさは無い。ライオネルが右の側を歩いているために、右の前髪が長い彼の、表情が伺えることはなかった。

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