25.倉庫2
少し早起きして、朝飯もそこそこに市の農協を探すと、毎月発行されていたらしい広報誌に、県の農協本部の住所が書いてあった。ミナトタワーの近くらしい。
「あのね、またお魚たべたいなーって、思うんだけど……」
釣り場の近く、ということで連想したらしい。
「あー、わかった。鍵開けたら、俺はそっちに行くよ。」
「やったーっ! がんばって調べるねーっ!」
ということで、尚樹はまたルアーを投げている。
そろそろタワーの燃料も補給しないとなぁ、と思いながら、少し曇ってきた空を見上げながら糸を巻く。釣果はまだない。
『なおきくん、聞こえるー?』
首からぶら下げていた無線機から奈美の声がして、慌てて無線機を握る。
「どうした?」
なんかあったか?
『あ、やっと通じた。あのね、近くにも倉庫があるみたい。』
「ほう」
『すぐ行ってみない?』
「わかった、そっち行くよ」
危ないことじゃなくてよかったとホッとする。
釣り具を片付けて軽バンのエンジンをかける。
農協の玄関前には地図を抱えた奈美が立っていた。助手席に乗り込んで地図を広げる。
「ここらしいんだけど。」
えーと、あー、ほんとに近い。歩くとちょっとあるけど。
「大体わかった。えーとね、ここからこの道で、この辺で曲がるとわかりやすいか」
言いながら地図の道に鉛筆で線を書いていく。
「で、ここ、かな?」
「わかった。ナビするね。」
「よろしく。」
車を発進させる。
「よくすぐわかったな」
まだ1時間も経っていない。
「1階の案内板にどの部署が何階って書いてあって、上がるとドアの上に部署名が書いてあって、部屋に入ると受付みたいになったところに座席表があって、部署名も書いてあって。」
「ほぉ。」
「米穀課倉庫係って。」
「おぉ、まんまじゃん。」
「でしょ? で、そのあたりの机の上をみてたら、倉庫の住所と電話番号の一覧表がマットに挟んであったの。」
「すげー、金星じゃん。」
「もっと褒めてくれてもいいよ。」
「うん、えらいえらい。」
「えへへー。」
「地図も見つけたの?」
「住宅課っていうのがあって、そこにずらっと。」
「農協って家も売ってたのか。」
「そうみたい。案内板に書いてにあって、へぇーって思って覚えてたの。」
「えらいなぁ。」
「えへへー。あ、えーと、この先を右かな?」
「ん。」
「ここだね。」
道路に面して赤錆色の鉄の門がある。横に転がして開けるタイプだ。脇のコンクリートの柱に大きく「物流センター」と書いてある。
門の前に車を停めて二人で降りる。敷地はかなり広い。
「鍵かかってるね。」
門の端には大きめの南京錠がかかっていた。尚樹は車から充電式の電動サンダーを持ってきて、保護メガネをかける。
「目に入ると危ないから下がってて。」
奈美が下がったのを見て、南京錠のU字の部分を切る。
「開いたよ。」
言いながらガラガラと門を開ける。とりあえず人がひとり通れるくらい。
右側に2階建の事務所らしい棟があり、左側と奥に倉庫のような工場のような建物が並んでいる。
サンダーを車に置き、ヘッドライトをつけ鍵開け用のドリルだけ持って門をくぐる。
「さて、どこから行こうか。」
「あれは?」
奈美が、右側の一番手前にあるコンクリート造りの建物を指さして言う。
「あれは工場じゃないかな? 高さもあるし。」
「工場?」
「うーんと、わかんないけど、精米したり袋詰めしたり?」
「あー。」
「無洗米なんてのも売ってるよね。そんなのを機械でやるんじゃないかな?」
「ふーん、じゃその奥?」
スレート作りの建物が見える。倉庫っぽい。
「行ってみようか。」
右側にトラック数台分のプラットホームがある。可能性はありそうだ。
手前側の端に入口があった。ドリルで鍵を開けて中に入ると、薄暗い中にいきなり鉄骨で組まれたステージがあって驚く。何もないステージの上を天窓からの光がほのかに照らしている。
ステージに沿って少し歩くと広い空間に出て視界が開けた。
奥に何か積んである。近づくとパレットに載せた米袋だった。「こしひかり新米」と書いてある。
「やったっ!あったっ!」
「脱穀しちゃってるかも」
「開けてみる?」
「うーん、残念。でもこれ食べられるよね。」
「公民館に炊飯器あったし、多分問題ないと思うよ。」
「やったっ!久々のお米っ!」
「毎日食ってるじゃん。」
「
「にしても、これ全部玄米っぽいなぁ。」
1パレット35袋。それが3段積みになっている。スマホの電卓を開く。
「えーと……1段12パレットが3段で36。
広い倉庫の片隅にあるだけでこの量だ。全く驚く。
「保存食にしないとねー。」
「なにが出来る?」
「おせんべ?」
「あー、あれ、旨かったけど日持ちするかな?」
「もちょっとちゃんと作れば、少しは持つかも」
「他にもきっとなんか出来るよな? パレット1つで1tくらいだから3年くらいか。今度取りに来よう。」
「今日少し持って帰るでしょ?」
「一袋でしばらくあるよな。」
さっき封を切ったのがある。
「わーい、今日は炊きたてごはんっ! 」
「精米機ないから玄米だぞ?」
「どっかにないかな?」
「コイン精米が近くにあるから、発電機もっていけばいけるよ、多分。」
「そんなのあるんだ。」
「都会っ子は知らんか。」
とはいえ、尚樹も農業には縁がない。社長がたまに、どっかから貰ったのを回してくれてたから知っているだけだ。
「あ、精米したら糠漬け作れないかな?」
「いけるかも。たぶん精米所にあるよ。ついでに取ってこよう。漬けるものがないけど。」
「そうだった……。おかずがほしいなー。」
上目遣い。
「え? あ、魚ね。うん、がんばる……」
「わーい。でさ、籾はないよねぇ……」
「ちょっと見て回るか。」
ぐるっと見回すが、隅にフォークリフトと積み重ねた空きパレットが見えるくらい。山積みの玄米の向こうに回ってみる。
「あれ? あそこ、なんかない?」
奥の隅にパレットに載せたなにかが見える。暗いのでヘッドライトをつけて近づくと、米の袋だ。無造作に10袋くらい。
「なんか書いてある。」
「えーと、『脱穀されていません。(山田様)』」
「えっ!?」
「アタリ、かな?」
「やったっ!」
「山田さんに感謝だな。」
「なんでなんだろう。」
「山田さんは籾が欲しかった?」
「脱穀機が壊れたのかも。開けてみなくていい?」
「ああ。」
少し封を切る。
籾だ。
「やったっ! これで作れる!」
「Fなんとかは、いいのか?」
「ないものは仕方ないじゃん。とりあえずあるもので。」
「よし。どのくらい要るんだ?」
「えーとね、田んぼひとつに2キロとか4キロとかだったと思う。」
「じゃ、とりあえず一袋あれば足りるな。」
「えー、全部持って行かないの?」
「重いし。今度、でかいトラックで来るよ。」
「痛んだりしないかな?」
玄米との扱いの差が大きい。
「洪水でもなきゃ大丈夫だろう。だとすると梅雨前には来たほうがいいから、なるべく急ぐよ。フォーク動かないと辛いから発電機持って。」
「フォーク?」
「フォークリフト。食べ物あつかってるとこだから、多分エンジンじゃないと思う。後で見とくけど。とりあえず、これと、さっきのを運んじゃおう。入口のほうに台車あったよな。」
「あったっけ? よく見てるね。」
台車を転がしてきて、さっきの玄米の袋を積む。
「ね、もう一袋、だめ?」
「あー、そのくらいならいいか。」
玄米と籾を2袋づつ、都合120キロを軽バンに積む。
フォークリフトの充電は、三相200
(げ、タワーの発電機を持ってこないと……。また仕事が増えた……。)
公民館に戻って籾だけ降ろす。ポットのお湯とアルファ米をそれぞれ持って、種まきをするのにもう少し調べたい奈美は図書館に、尚樹は発電機と工具を積んで、行ったことがあるコイン精米所に向かう。
尚樹が精米所で早速電源を調べると……
(えーと、あれ? ここも三相200Vか……。泣きそう。釣りしてる時間あるかな?)
そのうちに、タワーの発電機は100Vのに換えて、200Vを出せる
(さて、精米、どうしよう。)
タワーから発電機を持ってきてると、夕方に間に合わない。
(あ、農協の販売所。精米機みたいなのがあったよな。あ、ついでに手押しのトラクターも運んでしまおう。)
そのまま販売所のあった農協倉庫に向かう。
(あ、台車が欲しいかも。いや、農協なんだからそのくらいあるだろう。)
精米機「籾からも精米できます。30kg循環式。家庭用電源(AC100V)」と手押しトラクターを、見つけた台車で軽バンに積む。精米機もキャスターがついてたので、車までは両方とも転がして行けたが、クソ重くて載せるのに泣きそうになった。
(リフター欲しい。)
台車も見つけた。大きかったのでこれもいただいていく。精米機もトラクターも展示品だからか、ご丁寧に取説が紐でぶら下げてあった。助かる。
加えて、棚にあった野菜の種を根こそぎその辺にあったダンボールに放り込み、「ジャガイモ種芋2kg」と書いたダンボールと一緒に積み込んだ。
公民館で荷卸しする時間が惜しいので、そのまま釣り場を目指す。
(なんか俺、やたら忙しくないか?)
釣り糸を垂れる前に昼飯にしようとタワーに寄った。
(あ、あれで精米機動くよな?)
自分が置いた発電機を見て思い付く。
車を寄せて、タワーに置きっぱなしだった電工ドラムで、発電機のコンセントに、車に積んだままの精米機の電源コードを繋ぐ。
発電機を動かして、取説を見ながら精米機をちょっとだけ動かしてみる。
ガリゴリガリ
(おお、動くじゃん。)
玄米一袋全部を精米機のちっちゃいホッパーに流し込んで、空いた袋を米の出口に縛り付ける。
(おし、行けっ!)
スイッチを入れるとゴリゴリ言いながら精米が始まった。パラパラと袋に米が入っていく音がする。
(よしっ! えーと、30分くらいか。)
丁度良いので昼飯にする。
もそもそアルファ米を食っていると、精米機が止まった。
ゆっくり食べ終わってから、ほかほかに温まっている米袋を外して、中を覗いてみる。
(おお、白米じゃ。)
糠は、ちゃんと精米機の引き出しにこんもり入っていた。そのまま公民館まで来てもらうことにして、そっと引き出しを閉めた。
発電機を止め、電工ドラムを外して、復旧すると、車に乗り込む。
(さてっ! 釣るかっ!)
---あとがき-------------
あまり推敲できてないので、こまかいところをイジるかも知れません。ご容赦ください。
(2021/07/09 0:00)
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