12.Stand By You.

 空は青く暖かい日差しが降り注ぎ、優しい潮風が吹いている。奈美と尚樹は、短い草の上でうたた寝をしていた。

 尚樹が目を開け、身体を起こしてあくびをした。

「ふぁー。」

(ねちゃったな。朝、早かったからなぁ。)

 隣に奈美が眠っている。

(寝顔もかわいいなぁ。)

 作戦を思いついたときは、まさかこんなかわいい娘が来てくれるとは思いもしなかった。というか、あの光を見て、そして来てくれる誰かがいることすら期待していなかった。いわば退屈しのぎのようなものだった。ひとりで過ごす間にあの災厄を免れた人間が他にいることが想像できなくなっていたのだ。

 煙草に火をつける。

(いろいろ考えないといけないかな?)

 いや、発症が遅れているだけかもしれない。過度な期待をしてはいけない。少なくともしばらくは。それに、そのあとがあるとして、それは、この娘が決めることだ。

(シャワー浴びたいって言ってたな。ちゃちゃっと片付けるか。)

 そっと立ち上がり、煙草を咥えたまま、バーベキュー場へ向かう。

 

 作業用の皮手袋をつけ、炭を炭壺に仕舞い、残った食材とゴミをまとめ、椅子やパラソルを片付ける。

 コンロと網はちゃんと洗うべきだろうか? 迷ってちょっと見つめていると、声がした。

「あーっ、いたーっ!」

 振り返ると、奈美がこちらを指差している。

「おー、起きたか。」

「もーっ!」

 奈美は近くまで走って来て、にらみながら言う。

「どこに行ったかと思ったっ! また、夢じゃないかと思ったっ!」

 怒りながら、また涙ぐんでいる。

「あ、すまん。」

「また、ひとりになったかと思ったっ!」

「すまん。」

「いてくれてよかった……」

 うつむいて小さな声でいう。

「ん、ちゃんといるよ」

「よかった……」

「風呂入りたいんだろ?」

 ぱっと顔を上げる。

「あ、」

 目が丸くなっている。

「忘れてた。」

「かたづけちゃうから、その辺にいて。」

「……なんか手伝う。」

「あー……」

 見まわして

「じゃ、その辺のもん、車の後ろに積んでもらっていい?」

「わかった。」

 コンロと網はこのままここに置いていこう。どうせだれも使わないし、ここの倉庫にまだいくつも残っている。

 奈美がクーラーボックスを持ち上げて、開けたままのハイエースの荷台に向かう姿を横目で見ながら、念の為コンロに水をかけ、倉庫の脇に運ぶ。

 椅子とパラソルを運んで戻ると、荷物はあらかたなくなっていた。

(結構はたらくじゃん。何やってたのかな?)

 最後に缶詰と非常食を詰めたダンボールを車に運ぶ。

「はい、これでラスト。」

「おつかれさま。」

「じゃ、行くか」

「ね、酔っ払ってない?」

「もう、抜けたよ。1本しか呑んでないし」

「わたし、まだ、ちょっと……」

「結構呑んでたもんな。1台で行って、あとで取りに来ればいいよ。」

「ちょっと調子に乗りすぎたかも。」

 嫁入り前の娘が……、と言いかけてやめた。

「あ、荷物、部屋に置いたまま。」

「あー、じゃ、とりあえずあっちまで乗ってけば。」

「うん、」

 と、助手席に乗った瞬間、

「うわっ、煙草臭っ」

「あ、ごめん、仕事用だから」

 エンジンをかけてバーベキュー場の土の上をゆらゆら走っていく。

「ね、シャワーの、えーと、公民館? までどのくらい?」

「んー、1時間かかんないかな?」

「これに乗ってかないとだめ?」

「あー、あとで取りに来れば別にだいじょぶかな?」

「私の車、運転してもらっても、いい?」

「そんなに臭い?」

「うん、ちょっと、ダメかも。」

「わかった。」

 以前は車の進入が許されてなかった場所なので、がたがたゆれながら走り、けれど数分でタワーの前に着く。

「ちょっと待ってて。」

 降りてタワーに向かう奈美。

「ゆっくりなー」

 エンジンを切って自分も降り、ゴミと保冷剤の入ったクーラーだけ降ろして奈美の車のそばに置くと、禁煙車でのドライブに備えて煙草に火をつける。

 ふと車のナンバーを見て目を見張る。

(え? まさか?)

 どう考えてもあんなかよわい光が届く距離じゃない。いや、直線距離だとそうでもないのか? ナンバーはこれだけど家はもっと近いとか?

(うーん、そのうち聞くか。)

 会ってその日に「家、どこなの?」なんて、まるでナンパじゃねぇか。

「おまたせー。」

 リュックを背負った奈美が入口から出てくる。

「ね、部屋の中とかそのままだけど、いいのかな?」

「あ、だいじょぶ、たぶん誰も来ないし。」

「わたしは来たよ? そんなに散らかしてないとは思うけど。」

「いいよ、それよりシャワーでしょ。」

「あ、うん……」

「かぎ開けて?」

「うん」

 ロックが外れる音を聞いてトランクを開ける。

「ありゃ? 入んないね」

 クーラーを積もうとしたが、ミネストローネの非常食がいっぱいに詰まっていて、とても無理そうだ。

「あ、忘れてた、ごめん。」

「これ、ひょっとして全部……? 」

「うん、ミネストローネ。」

「うーん。いいや、クーラーは後で取りに来よう。」

 まだ少し冷たいクーラーにゴミ袋を入れてハイエースに積みなおす。少しは匂いが抑えられるだろう。

「エンジン掛けておいて。」

「うん。」

 念のためハイエースにカギをかけて、奈美の車の運転席に乗り込む。

「んじゃ、行きますか。」

「はい、おねがいしますー。」


 カーナビにドラマのディスクが入ったままだったので、尚樹はそれを話題にした。

「え? これってそんなに続いてるの?」

「ビデオ屋には、シーズン12まであったよ。」

「これは、いくつ?」

「5だったかな?」

「おぉ、しばらく見てられるねぇ。」

「見てると結構面白いし、つぎに何見るか考えなくていいから。」

「なるほど、確かにいいかも」

「で、大体途中で寝ちゃうから、前半だけ何回も見ちゃったり」

「いつまで経っても見終わらない、と。」

「そ。いいでしょ?」

 見終わったら、もう続きは見られない。

「いいなぁ、それ。真似しようかな。ゲームはしないの?」

「なんか画面見てると気持ち悪くなっちゃって、ダメなの。」

「若者らしくなくない?」

「悪かったね、どうせ年寄りくさいですよ。」

 やべ、地雷だったか。

「そう言えば、知り合いの若いのにもいたなぁ。酔っちゃって出来ないって言ってた。」

 ごまかしを試みる。

「ふーん。」

「俺は手がどうしても着いていてかなくてダメなんだよなぁ。のんびりしたヤツなら大丈夫なんだけど、そういうのはすぐ飽きちゃうしなー。」

「なんだ、自分もだめなんじゃん。」


 そんな話をしているうちに、公民館に着いた。




---あとがき-------------

Youtubeのおかげで、タイトルと同じ曲名の曲がほんとにあるのをさっき知りました(恥)

(2020/11/12 01:00)

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