穂原 映〔Ⅳ〕:夜を駆ける


イェーリニーの権能オーソリティは、その幻想的な名に反して実戦向きの能力だ。


〝空歩き〟の通称そのままに、空中を歩く、ただそれだけの権能。


一見すると戦闘の役には立たなさそうに見える能力ではあるが、およそ人の戦闘技術は地上で、同じ人間を相手に戦うために組み上げられて来たものに過ぎない。


胸より高い位置を、あるいは頭上をに対しては使えない。


とは言え攻撃が届きづらいという意味では自分から攻撃する際にも条件は同じ、射程距離リーチを補うためにイェーリニーが選んだ武器は、俗に三日月斧バルディッシュと呼ばれる長大な月型の刃を持つ斧だった。

……厳密に言えば、それを模した血装具ブラッドボーンということだが。


分類としては長柄武器ポールウェポンにこそ分類されるが、全長の3分の1から半分、時には握柄グリップよりも長大な刃を持つそれは単純シンプルに暴力的だ。


重量と遠心力で、そして自在に空中を駆け回る事ができるイェーリニーにとっては、更に重量を生かして扱える優秀な武器。


能力を生かすなら飛び道具が理想的ではあるのだが、いかんせん血装具ブラッドボーンは使用者の血を材料に武器を作り出す道具でしかない。

秘匿性は高いが飛び道具として運用すれば失血死は免れないだろう。


実銃と実弾が手に入ればわざわざ血装具を使う必要もないが、この国で安定してそれら手に入れるには財力カネ人脈コネが必要で、彼女の礼賛者にはそのどちらもなかったのだから仕方ない。




だが、〝空歩き〟が最もその価値を示すのは闘争においてではない。




――逃走においてである。







**************************************





小太りで、身長も決して低くはない彼女の礼賛者はつまり軽くはない。

その彼の身体を左の片手一本で小脇に抱えてイェーリニーは走っていた。


無論、空中を。

相手は成人男性だ、普通に脇に抱えて走りなどすれば手足の先を地面に擦り付けて怪我でもさせそうなもので、そういう意味でも〝空歩き〟は優秀だと言えた。

重さに関してはイェーリニーの腕力をもってすればどうという事は無く、


「いやどうということあるわ!!」


思わず絶叫しながらイェーリニーは三日月斧バルディッシュを横殴りに叩きつける。

真向いのビル屋上から飛び掛かって来ていた黒獣は、その一撃に頭部を切り飛ばされ落下していった。


斧を握ったままの右手で短い前髪をかき上げる。

視界を遮られるような長さでは無いがそれはイラついた時の癖のようなもので、

——ぐぃ、と上着の背中が引かれ、引いたのは彼女の礼賛者でその意味は、



「——っだ!」


空中でステップを踏んで体を旋回させる。

円弧を描いて振られた三日月斧が背後から飛び掛かって来ていた黒獣を両断。



キヨシ、奇襲気づいてたならもうちょっとはよ言え!」


言いながら彼女イェーリニーは脇に抱えた彼女の礼賛者、——渥美アツミ キヨシの尻を斧の腹で叩く。


「痛い。というかこれでも精いっぱいだよ。

 空中で荷物みたいに振り回されて気持ち悪いんだってば。

 正直吐きそうなくらいで……」



弱弱しい声が背後から聞こえ、イェーリニーは舌打ちする。


実際のところ余裕がないのは本当だろう。

彼女の権能、〝空歩き〟は効果に対して消耗も軽く、多用も容易だ。

だが〝空歩き〟は彼女自身にしか効果が無い。


礼賛者を放置して構わない状況ならともかく、守りながら使うには制限が多過ぎる。

最初は背中にしがみつかせていたのだが思ったより邪魔だったし、何より聖の体力が限界だった。

結果片腕で彼を抱え込んで片腕で斧をふるう羽目になっている。


イェーリニーは赤毛の短髪、筋骨隆々の身長190cmの美丈夫だ。

外見がそれで自律偶像ガラテアであるから、体力、腕力には自信がある。

並大抵の相手と、それも権能込みでの殴り合いに負ける気は全くなかったのだが。



甘く見ていたという意味でイェーリニーもあいつらを笑えたものではなく。

ヤバい予感がするから逃げよう、といち早く決断した聖の判断が命運を分けた。


柴崎たちは全滅だろう、そう確信させるだけのヤバさが間宮あの男にはある。


しかも、なお窮地を切り抜けたとは言い難い。

〝空歩き〟で空中を疾駆する彼女らを、黒獣の群れは執拗に追ってきている。

高度を取っているお陰で追撃は先ほどのような建築物からの跳躍に限られて散発的。


だが聖を支える左手もそろそろ悲鳴を上げている。

万が一手を滑らせたりしたらと思えば高度を上げるわけにも行かず、そろそろ地上に降り立ちたいところではあるのだが。


もっと高度を上げて振り切る事も考えたのだが、そこで初めて彼女は自分の権能にが存在する事を知った。


思えば人目につく事を警戒してどこまで高く歩けるかを試した事はなかった。



いずれにせよ、限界は近い。




「降りよう」


「わかった」



聖の言葉に、イェーリニーは反論もせずに頷く。

〝空歩き〟がいかに疲労の小さい権能だろうと使い続ければ疲労はある。


権能を維持できなくなって落下死という間抜けな終わり方は御免被る。


なにより彼の判断をイェーリニーは信頼していた。

臆病なだけに引き際を、最善手を思考する彼のその感性センスを。



急角度の階段を駆け下りるような挙動で急降下する。




「あっちの商店街アーケードに」


「いいのか?」


視界の端に映った裏寂れた商店街に足をもつれさせながら駆け込む、狭い空間では三日月斧バルディッシュは真価を発揮できないし、ここでは〝空歩き〟を生かし辛い。


戦場として選ぶにはあまりイェーリニー向きではないように思えた。



「障害物が少なくて適度に狭い、前後以外は閉鎖されている。

 守りに適した地形でしょ。

 君の能力を生かせる空間はあいつらにとっても有利だよ。

 利を捨ててでも相手の利を潰す方が良いと思う。

 もう一人、いや一組か? 味方が居ればなお安心なんだけど…」


「ようは籠城戦タテコモリか、イケんのか?」


「賭けだけど、さすがに昼間日中まで続けるとは思えない」



聖の返事は微妙に的を外していた。

彼女が聞いたのは昼間まで凌げば黒獣の攻勢が終わるか、ではない。

終わるまで果たして自分たちが凌げると思うか、だった。


伝わっていないとは思えなかった。

あえて、彼はその問いに答えなかったのだろう。


それだけ状況はよろしくない。



「後ろ見ててくれ」


「わかった」


商店街は天井があり広さもない。

前後にだけ注意を向けて居ればいいのは確かに楽だ。


背後を礼賛者に任せ彼女イェーリニーは正面に向き直る。



駆け込んできた黒獣を切り捨てる。

半壊しながら地に伏した黒獣は溶けるように、解ける消える。

液体のようにどろりとするのも一瞬、痕跡すら残さずに。



「——イェニ」


3匹目を屠った時だった、聖が囁くように呟く。

声色には焦りがない、だから振り返らずに聞いた。



「何?」


「誰か来る」



焦りはないが僅かに緊張を含む声で聖が言う。

三日月斧バルディッシュを肩に担いでイェーリニーは嘆息。




「誰よ」


「わからない。

 2人組、片方はたぶん自律偶像ガラテア、大鎌みたいな血装具ブラッドボーン持ってる、女の子かな?

 もう一人は男、眼鏡のイケメン。

 どこかで見た気が……」


ううんと唸る聖に、だがイェーリニーは振り向かない。

正面からいつ次の黒獣が来るかわからない以上は振り向けない。


だが、いよいよその2人の気配が背後に近寄り、イェーリニーにも感じられる距離に至ってはそうも言っていられず。


横向きに態勢を変え、前後をまとめて警戒できる姿勢を作る。

視線を向けるとなるほど、背の高い眼鏡のイケメンと、髪の長い眼帯の自律偶像。


2組の互いの距離は残り5mほど、



「おい、そこから近寄るな。

 ——何者だ?」


「イェニ、もうちょっと友好的に」


「見るからに怪しいだろうが」



言葉を交わす間に、ざ、と足音を立ててその契約主従は足を止めた。

話が通じない相手ではひとまずないようだ。



「——〝空歩き〟イェーリニーとその主人、渥美 聖さんですね」


言ったのは小柄な黒髪の眼帯の方、紫の瞳からするに自律偶像だろう。

かすれた低音ハスキーボイスからは性別が判断し辛いが、


警戒心も隠さずに一瞥したイェーリニーは喉ぼとけの膨らみを見て取っていた。

つまり男だ。

うっすらと胸があるようにも見えるが、まあそういう趣味の礼賛者もいるだろう。

いずれにせよ性別はさほど重要ではない。


その自律偶像はこちらを警戒すると同時に背後にも気を配っているようだった。


つまり、



「そっちも追われてんのか」


「ということはそちらもですか」


「——アンヘル」


自律偶像アンヘルの横に並んでいた青年が低い声で警告した。

対峙する自律偶像イェーリニーとよく似た半身の構えでアンヘルが大鎌を振う。


背後から飛び掛かって来た黒獣はあっさりと両断され地に落ちる。


――強い。



天使アンヘルなどという名に似つかわしくない。

その立ち姿も手にした大鎌も、一切の動揺もなく黒獣を切り捨てたその表情も。

天使と言うより死神と呼ぶに相応しい。




「失礼。

 見ての通り、こちらもあの犬のような何かに追われています。 

 ひとまず共闘を申し出たいのですが……」



「そりゃ願ってもねぇ申し出だけど。

 こいつらが何か知ってるか?

 突然湧いて襲って来たと思えば倒せど倒せど全然減ってる気がしねぇ」



共闘を承諾したことを態度で示し、つまりアンヘルと2人で間に聖と相手方の礼賛者を挟むように立ち位置を変えながら背中を向けてイェーリニーは言う。


実際のところ事情を知っているのは彼女イェーリニーたちの方。

巻き込んだのはこちらでおそらく巻き込まれたのがあちらだが、交渉事にはブラフも必要で、被害者の振りをして情報を引き出そうと試みる。



「——今の発言、1つ嘘がありますね。

 がどこから来たか、そちらはご存知でしょう」


鋭くアンヘルの言葉が放たれる。

背中には動揺を見せず、だが彼女は口元を歪ませる。

背中を向けていて幸いだった、ポーカーフェイスは得意ではない。



「思い出した、穂原ホバラ アキラだ。

 こいつ〝魔眼〟アンヘルだよイェニ」


小声で囁く聖に、思わず舌打ちする。



「おっせーよ。もうちょっと早く言えって」


毒づきながら背後に視線を一瞬だけ投げる。

なるほど黒髪長髪に眼帯、性別不明という特徴は噂に聞く自律偶像に一致する。


斡旋屋ミディエイター〟の間には互いの顔と名前が一覧リストになって流通している。

お互い、無駄な相手を勧誘しないように、と言うのが本来の意図らしいが。


現在それはまた別の側面、価値を持ち出している。



比較的最近になって名前が売れ出した契約主従。

その権能、通称は〝魔眼〟と言う、真偽を看破する能力だと聞いているが。



「別に嘘ってわけじゃねぇって。

 こいつら間宮銀二の、〝四つ足〟が出したんだが権能じゃなさそうなんだよ。

 詳細がわからん、だから嘘じゃない」



また出現した黒獣を三日月斧で叩き潰す。

一撃で仕留めきれず、打ち落としたそれを蹴り飛ばしてとどめを刺した。

体力が尽きつつあった、こいつらと今、敵対するのは不味い。



「なるほど。

 権能ではない、というのは事実ですか?」


「あっちのハッタリじゃなきゃな。

〝四つ足〟の権能は確か自己再生だろ。

 確か〝インファント〟とか呼んでたけど」


半ば切り落とされた首をあらぬ方に捻じ曲げながら黒獣が飛び掛かって来る。

舌打ちしながら再び蹴る、避けようとしたところに三日月斧を叩きつけた。

遠心力を利用して崩れた体勢を立て直す、攻防一体の動き。


背後に味方とも知れない相手アンヘルがいる以上、あまり手の内を見せたくは無いが。



幼児インファント……。

 権能でない、というのには同意します。

 映さま、夜明けまであとどのくらいですか?」



アンヘルが言うと、その主穂原 映は聞き返しもせずに手元のスマートフォンを一瞥した。

そのアンヘル問いの意味を知っているのかどうか。

イェーリニーにはそれすらもわからない。



「あと40分」


「映さま、現状で40分をぼく単独で凌ぐのは不可能です。

 彼らと敵対する事まで考えればなおさらに。

 権能について情報を開示してでも信頼関係を築くべきだと思います」



アンヘルの言葉に思わず足を止め、突進してきていた新たな黒獣を切り払い損ねる。

三日月斧を立てその牙を受け止め、繰り出された爪の一撃を身体を逸らせて避ける。


コンパクトな肘うちを首筋に叩き込んで距離を開けつつ斧を一閃、避けられた。

仕留め損ねたが聖の方には行かせていない、致命的なミスではない、それより。



「まて、40分ってなんだ」


「俺たちの権能、誰かに話さないと誓えるか」


「もちろん」


「おい聖あのなァ?!」


一方的に問うて来る穂原映と勝手に確約するあるじにイラつきながら、彼女は自分から距離を詰めて黒獣を叩き割った。


慌てて振り返る、何を勝手に話を進めているのか。



――振り返った先。

アンヘルの右目が、眼帯の下の存在しない瞳が青い光を放っていた。



「お」


「〝魔眼〟という通り名はあまり好きではありません。

 ぼく自身はこの権能を〝解体dissection〟と呼んでいます。

 真偽を判別するのはオマケみたいなもので……。

 なんというか、言語化し辛いのですが、能力です」




淡々と語る間にもアンヘルは2体の黒獣を屠っている。

無駄な動きはない。

やはり、かなりの強さ。

契約主従になった時期を考えれば異常ともいえる水準レベル



「つまり、40分ってのはそれで見抜いた制限時間か」


「1つの物体に影は幾つできますか」


「あ?」


唐突な問い、足元を駆け抜けた黒獣を三日月斧の石突きで殴って突き飛ばし、



「何言ってるかわからねぇけどそりゃ1つだろ」


返す刃で首をはねて吐き捨てる。



「違うよイェニ。

 


「はぁ?」


視線を一瞬だけ主に向ける。

腕を組んでしかめっ面で渥美聖は言った。


「影は光源の数だけできる。

 1つの物体に1つじゃない」


「学が無くてすいませんね!

 てかそれがどうしたよ!!」



迫り来る黒獣を斧を振って威嚇しながら叫ぶ。

何の話をしてるんだこいつらは。



「そうです。

 物体が一つでも複数の光源があれば複数の影が落ちます」


「そうか、こいつらは〝影〟か」


「いや何言ってるかわかんねー!

 つまりこいつらが影だって話か?!」


黒獣の胴を薙いで両断し、上半身蹴り飛ばしながら困惑する。

影も何も、実態があるではないか。



「比喩です、さすがに性質はともかく仕組みまではわかりません。

 重要なのはこいつらは強い光の下では存在できないという事です。

 街灯くらいではかき消せないでしょうが――」


「朝が来れば消える、か」


「そーかよ!」



どいつもこいつも頭が回る事で、とイェーリニーは腹を立てた。

自分のように短慮な自律偶像にはいずれも理解できない思考回路をしているらしい。


だが、そこまで言われれば気づく事もある。


間宮が、〝四つ足〟ポラリスがこの強力な能力を出し惜しんでいた理由。

柴崎が、〝閃光〟グリゼルダが切り札を打つまで彼らが本気を出さなかった理由。


――なんてことはない、グリゼルダを、その権能を警戒していたという事だろう。



「ンだよ、タネが割れたら言うほど怖くはねぇな」



毒づく、強がりなのはわかっている。

こと夜間に奇襲を受ければ絶望的な戦力差である事に違いはない。


だが少なくとも完全無欠でも無敵でもない、それだけは確かで。

気持ちの上で余裕ができたのは間違いがない。







**************************************





「……ええ、近くで穂原映と渥美聖のペアが戦っているようです。

 彼らの権能、噂通りのものとは思えません、一度接触して確かめます」





**************************************




肩で息をつきながら。

イェーリニーはそれでも、三日月斧を杖代わりに膝を突かず立っている。


それは最後の矜持プライドだった。



視界の端ではアンヘルが、同じように肩を揺らしながらそれでも立っている。


交戦時間の長さは恐らく自分たちの方が長いのだろうが。

それでも後発組を相手に情けないところは見せられない。


そもそも危機は完全に去ったわけではない。

獣の群れを始末した以上、共闘は終わり、こいつらが敵になる可能性はゼロではない。



「なんとか、なったか……?」



「そのようです」



イェーリニーの呟きにアンヘルが丁寧な口調で答える。

その視線がぐるりと周囲を見渡す、警戒を解いてはいないということか。



そして、その視線が何かを捉えた。

眼帯の下で青い輝きが揺れる、——瞬間。



アンヘルは駆け出していた、穂原映の胴に腕を回し、抱え。

振り返ることすらなく飛ぶように走る。



逃げた。



明確にそうとしか見えない挙動。


イェーリニーは残った体力を振り絞って振り返る。

アンヘルが言葉もなく最速で逃走を選ぶ相手、明確な危険。


走る体力はまだ戻っていない。

だが〝空歩き〟がある以上、彼女の逃走には一日の長がある。


聖の身柄さえ確保できれば大抵の相手からは逃げる自信があった。




「あ?」


白み始めた世界視界に、ダークグレーのスーツを着た男装の自律偶像の姿。


知らぬ相手ではない、むしろ顔を良く知っている相手。



「申し訳ありませんルイ、処分の許可を」



優雅な仕草でスマートフォンを耳元に押し付けて立つその女は。



「アム…?」



仲介者マッチメイカー一尺八寸カマツカ 三智子ミチコの自律偶像、アム。



「おい待て処分って」



殺意を向けられたわけでもなく、相手が武器を持っていたわけでもない。

だからイェーリニーの油断を責められはしまい。



自分たちを無視して通り過ぎようとした男装の自律偶像の背に手を伸ばした。

すれ違いざまに、その肩を掴む。



振り返った女が、酷く冷めた瞳で彼女イェーリニーを一瞥する。

手が伸びる、いっそ優し気ですらある手つきでその頬を撫でる。



電源が切れた玩具の人形のように、イェーリニーが崩れ落ちた。

行きがけの駄賃とばかりに渥美聖をついでに撫でる、同じように崩れ落ちる男。


女はもう振り返りすらしない。




――女の名は〝忘却アムネジア



その権能を、女の主はこう名付けた、即ち〝忘河レーテー〟と。



一度ひとたび触れれば人間、自律偶像を問わずその記憶を奪う。

のみならず、一定の距離以内に相手を捉えて居れば思考を読むことすら可能とする。



規格外にして最強最悪の権能オーソリティ



だが、それを余人に知られてはならない。

それこそが彼女が、自律偶像の矜持を捨てて己の真の名を秘す理由。




けれど彼女は視られてしまった。

アンヘルに、その〝解体dissection〟の瞳に。


故に逃がしはしない、知られた事を知った以上は。




夜を駆ける。

今宵2度目の逃走劇が始まる。





 




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