自由人
親睦を深める事ができた? 夜月達は現在、自分達の教室へと戻っていた。
泣き痕が残る茜を見てクラスの一同は皆心配の声をかけてくれ、それを見た夜月は「信頼されてんなぁ」と、茜の立ち位置に感心した。
『『『『『やぁ〜きゅう〜す〜るならぁあああああああああっ!!!!!』』』』』
そして、騒動が落着した教室では野太い男の声が響き渡っていた。
必死に、裸にこそならないものの逞しい筋肉が広がっており、それを気にする様子もなく女子達は優雅に机を合わせてティータイムに入っていた。
特殊なシステムこそ搭載されているものの、都市学園はあくまで教育機関。
教師の一人でもやって来て咎めてもおかしくはないのだが……未だに教室に入ってくる様子もない。
皆、愚者の如く自由を謳歌していた。
そんな時、夜月達は────
「行くぞごらぁあああああああああああっ! 戦の開戦じゃぁあああああああああっ!!!」
「やめてよ海原くんっ! 本当に今すぐはダメなんだってぇええええええええっ!」
……教室の真ん中で、そんな声を響かせていた。
絵面としてはズカズカと教室の外に出ようとする夜月を必死にしがみついて茜が制しているような形。
先程まで剣呑としていた空気を醸し出していたのにも関わらず、今の二人は大変仲が良かった。
これも二人きりになった時のやり取りのおかげなのか? 周囲の面々も微笑ましく始めこそ見ていたが、今となっては自分達の世界。
今、二人を邪魔する生徒など存在しなかった。
「離すんだ明星院! 俺は今すぐアルカナを奪う為に宣戦布告を────」
「だから待ってってばぁあああああああああっ!」
息巻く夜月に再び涙目になる茜。
その涙は、先程とは違う意味で浮かんでいるのかもしれない。
「むっ? どうして邪魔をする明星院? 俺はただ単にアルカナを集めようとしているだけで、お前も協力してくれるって言ったじゃないか」
「だからって早すぎるよ!? さっき決意したばかりなのに展開が急すぎるよ!?」
「鉄は熱いうちに打てと言うだろ?」
「熱すぎるよ! 今、ドロッドロの鉄の状態だよ!」
夜月は必死になる茜を見て渋々足を止める。
だが、茜は夜月の事を信用していないのか、腕から離れる様子もない。
程よく育った胸部が夜月の腕に当たり、仄かに香るいい匂いが夜月の鼻孔くすぐる。
「だがな明星院……このシステムを詳しく知らない俺に、お前という頼もしい相棒ができたんだ────であれば百人力のこの状態……攻め込まない理由はないだろ?」
「まだ全然説明してないけどね!? あと、相棒って言ってくれてありがとうっ!」
「どういたしまして」
ツッコミの最中にお礼を言う茜。
随分と器用だな、と夜月は思った。
「まぁ、そんな相棒が必死になって止めるんだ────少しだけ待ってみる。という訳で、そろそろ腕を離してくれない?」
「ふぇっ?」
夜月の言葉に固まってしまう茜。
「生憎、俺には心に決めた人がいる訳で……それを踏まえて俺にアピールしているというのであれば、俺も受け止めなくてはならないが────」
「こ、こんな面倒臭い人にアピールしないよっ!」
茜は慌てて夜月の腕から離れる。
その頬はこれでもかというぐらい真っ赤になっているのだが……残念な事に、女性経験皆無な夜月は「風邪でもひいたのか?」と思い、その理由を察する事もできなかった。
「(あの時はかっこよかったのに……さいてー)」
そして、そんな呟きも残念な夜月は拾う事もできなかった。
「とりあえず、今後について話し合っておくか────そういえば、先生とか来ないの? 授業は?」
こんなに自由にしていても一向に教師の来る気配がない。
それを疑問に思った夜月。
「あ、そっか……海原くんは転入生さんだからこの学園の事あまり知らないんだよね」
「だからこそ、俺は明星院を頼りにしている。是非とも疑問を解消させてくれ」
「う、うん……頼りかぁ……えへへ」
真剣な眼差しを受けた茜は嬉しそうにはにかむ。
その表情を見て、可愛いなぁと思ってしまった夜月はまだ健全な男子なのかもしれない。
「ごほんっ! とりあえずさっきの質問だけど、うちの学園って基本的に授業は午後だけなんだ。それ以外は自習────何でも、生徒の自主性を尊重する為にって事らしいけど」
「自主性を尊重した結果がこれか……」
夜月は周囲を見渡して嘆息つく。
光景としては今正に服を一枚脱いだ男子の姿と、優雅にティータイムに浸っている女子の姿。
自由の結果が学生の本分からかけ離れてしまっている。
「あはは……これは基本的にうちのクラスだけだから。ほら、愚者って言われているぐらいだし」
「自由人過ぎるだろ……何やってんの元リーダー」
「……私には、手に負えなかったんだよ」
夜月のジト目を受けて目を逸らす茜。
実は、さっきまでティータイムに興じていたのだが、それは口に出さなかった。
「まぁ、いいや────そっちの方が俺も楽でいいし」
「海原くんも大概自由人だよね……」
「慣れた。何せ、初っ端から無理やり野球挙をさせられたからな」
「……うちの男子がごめんなさい」
といいつつ、夜月自身も盛り上がっていたので謝られる事はないのだが。
「とにかく、方針とか作戦とかそこら辺を今から練っていくか────頼りにしてるよ、相棒さん」
「……うんっ!」
茜は嬉しそうに頷くと、近くの椅子へと腰を下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます