天才賭博師VSアルカナ所持者①
「……ほぅ? 初日からアルカナを賭ける遊戯を行うか、あの平民は」
学園長室で一人、青葉はパソコン画面に映るモニターを見て興味深そうに笑みを浮かべる。
モニターに映るのは栗色の髪をした少女がトランプをシャッフルし、それを足を組んで待つ黒髪の少年の姿。
一方は、先程まで青葉が対面していた少年である。
「壮大な夢を追い求めるのであれば行動を起こすのみ。それは貴族だろうが平民だろうが変わらん。まず、あの平民が夢に手を伸ばすのであればアルカナを所持する必要がある————だが、こうも早く仕掛けるとは思わなんだぞ?」
青葉に笑みが止まらない。
青葉にとって、夜月という少年の存在はそこらにいる人間とさして変わらない。
興味を抱くには値せず、どれも『平民』という括りの一部にしか過ぎず、何処で何をしていようが何を起こそうが、青葉の関心を引くには足りない。
それこそ、「ふぅ~ん」という反応で終わってしまうのかもしれない。
だが————
『のアルカナは集める物だと聞いた————そして、全てのアルカナを集めれば『八大貴族に迎えられる』というのも……それは事実か?』
(あの時の目……平民め、本気で『八大貴族』を狙っておるな?)
青葉に尋ねた夜月のその言葉。
紡ぐ夜月の目は本気、激しい野望が眠っているような————そんな感じがした。
そう感じた直後に、アルカナを賭けた勝負が始まった。
これは流石の青葉でも少し注目をしてしまう。
「しかも、内容は平民のお得意のカジノゲームときた。ふむ……どう転がるか、暇つぶしに見てやろう」
そして、青葉はモニター画面をパソコンの画面いっぱいに広げる。
「まぁ、ここで躓いているようでは、アルカナには手が届かんぞ……天才賭博師?」
青葉は、モニター越しに夜月の勝負を見守る。
♦♦♦
『アルカナの承認が下りました。これより、アルカナゲームを開始いたします』
突如、教室中に響き渡るアナウンス。加えて、いつの間にか背後に現れた『20』の数字。
ホログラムの類なのだろうか? とりあえず、多分チップの枚数を表したものなんだろうと納得しつつも、夜月は怪訝そうに顔を顰める。
そんな夜月に対し、茜は気にする様子もなくトランプをシャッフルしていった。
「ちなみに、このアナウンスの声って誰?」
「アルカナゲームが行われた時の裁定者だね。といっても、不正が行われていないか、違反をしていないか、ルールに抵触した行為なのかをシステムが監視してくれるだけなんだけど」
「……見られてんの? やだ、恥ずかしい」
「それやめて、ちょっと背中がゾワッてしたから」
夜月の軽いジョークに引いた茜。
その姿を見てひっそりと心に傷を負った夜月であった。
「まぁ、冗談は置いておいて————っていう事は、あからさまな不正はバレるって認識でいい訳?」
「その認識でいいよ。ちなみに、不正した時点で警告のアラームは鳴って強制的にゲームは終了。反則負けとペナルティを受けてもらう事になるんだ」
「……ペナルティ?」
「退学だね。そりゃ、アルカナを賭けた勝負で不正をしたらこの学園に相応しくない人間だって事なんだから」
「どっちも俺にとっては変わらない件について」
そんなやり取りをしていながらも、茜はシャッフルを続けていく。
「…………」
その様子を夜月は注視する。
しかし、目線は茜の顔に注がれていた。
「じゃあ、始めるよ」
そして、茜は一枚ずつトランプを夜月、自分の元へと交互に配っていく。
ブラックジャックでは、ディーラーが一枚目を必ずオープンにしなければならなく、茜は自分に配った時点でそのトランプを捲った。
開かれたトランプは『3』
「…………」
夜月は捲られたカードを一瞥すると、自分に配られたカードを見る。
『9』に『K』。合計値としては『19』、上から三番目の役を揃える事になった。
「スタンド」
夜月はトランプを伏せ、20枚渡されたチップのうち2枚を場に出す。
(まぁ、初手は様子見でいいだろ)
茜も夜月と同じように残り一枚のカードを見ると、そのまま夜月と同じ枚数のチップを取り出すと、そのまま宣言をした。
「スタンドだね」
(……ん?)
夜月はその宣言に内心眉を顰める。
それもそのはず。
ブラックジャックではより多くの数を揃えなければならず、21を超えないように枚数を増やしたりしなければならない。
だが、捲られているトランプは『3』
二枚しかトランプがない以上、エースが手元にあっただけでも最高数値は14。
勝負をするにはあまりにも低すぎる。
しかも、夜月は同じように二枚でスタンドしている。相手のバーストの可能性はないので、攻めないと負けてしまう可能性が高い。
(ただの阿呆か、それとも何か策があるのか————いや、地味な事をしている時点で阿呆はないか。となれば————)
何か仕掛けがある。
そう、夜月は考えた。
「それじゃあ、オープン」
茜の宣言の元、両者は一斉にトランプを捲った。
そして、場に両者のトランプが顔を出す事になる。
夜月:19
茜:5
(……あ”?)
夜月は場に出た茜のトランプを見て、表情を変える事なく内心で呆けてしまう。
何か策があったのか、ペテンでも使ったのかと警戒していたのだが、結果は何事もなくただの5。
拍子抜けというか、何というか————だが、
(いや、冷静に考えてもおかしい……その数値であれば、ヒットしてもバーストはあり得ない。勝負を捨てたにしてはあからさま過ぎる。となれば……)
夜月は思考を巡らせる。
それでも考え込む姿は見せられない為、場に出たチップを回収しようとする。
どちらにしろ、この場は夜月の勝利なのだから。
しかし————
「待って、君はチップをもらったらダメだよ?」
「……は?」
「このゲーム……私の勝ちなんだから」
そう茜が宣言した直後────背後の数字が『18』に減った。
「……は?」
それは夜月の数字であり、不敵な笑みを浮かべる茜の背後の数字は『22』に変わる。
————ブラックジャックは数が21に近ければ近いほど勝つゲームだ。
通常のルールに則っているのであれば、この場は夜月の勝ちであるはず。
だけど、背後の数字が減ったのは夜月の方だった。
「……おい、一般的なルールのブラックジャックじゃなかったか?」
「大丈夫だよ。それで合っているから」
夜月の訝しむ目を受けながら、茜はチップを回収していく。
もし茜の始めにいった発言が正しければ、この時点で明らかに『ルールに抵触している』事になる。
つまり、反則負けをシステムが宣言するはずなのだ。
(となれば、茜の行動はルールに乗っ取っているという事。この場は、俺が正式に負けた訳になるんだが……)
脳裏に疑問が浮かび上がる夜月。
だが、十八番のポーカーフェイスで焦りの表情を見せないまま、余裕の表情を見せて茜に尋ねる。
「ちなみに、どういう事か説明していただけるので?」
「そんなの、単純————これは、アルカナゲームなんだよ? そこら辺のカジノゲームと同じにしてもらわないで欲しいな」
茜は、夜月に向かってアルカナのカードを向ける。
「アルカナ所持者は、アルカナによって『それぞれのゲームに干渉する効果』が与えられているんだよ。つまり————」
そして、夜月以上の余裕の笑みを浮かべて口にした。
「愚者の効果は『ゲーム内容の一部を一度だけ自由に変更できる』。これで、分かってくれたかな?」
どうやら、このアルカナゲームは一筋縄ではいかないらしい。
そんな事を思った夜月であった。
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