友人

いずも

きみはともだち

「なあ」

 ある日、彼が私に話しかけてきた。

「俺たちって、友達だよな?」


「ええ」

 私は何の気無しに答えた。


「やっぱりそうだよな!」

 彼は嬉しそうに声を上げる。


 友達とはなんだろう。

 ふと、そんな疑問が湧き上がった。


 自分が困った時に助けてくれる存在。

 そういう意味において彼は友達だ。


 逆に彼が困っている時に手を差し伸べようと思える存在か。

 答えはもちろんイエスだ。

 つまり、私にとっても彼は友人足り得るのだ。


 お互いに何でも話せて、上下関係もない。

 それでいて、何でも知っているように思っていたら相手の知らない新たな一面を発見することもあったりと飽きさせない。


 長時間一緒に居ても苦にならない。

 時々喧嘩もするが、すぐに仲直りする。


 やはり。

 彼は私にとって、最高の友達といっても良いだろう。




「あの、ちょっといいですか」

 今度は隣の彼が話しかけてくる。


「僕とは友達じゃないってことですか?」


 私は考える。


 彼は私が困った時に助けてくれる存在かどうか。

 その質問に対しては恐らくイエスだ。

 実際に助けてくれるかどうかは別として、助ける姿勢は示してくれる。


 逆に彼が困っている時に手を差し伸べようと思える存在か。

 これについてはイエスだった……とするのが正直な所だ。

 もちろん今でもできる限りの助力はする。

 ただ、優先順位が下がってしまったのもまた事実である。


 最近は彼の方が助けを求めてくる回数が増えてきた。

 上下関係が生まれたというほどのものでは無いが、全く意識していないとも言えなくなってしまった。


 何より長時間一緒に居ると苦痛なのだ。

 喧嘩の回数も多くなり、仲直りするのに時間を要する。


 彼が友達か、という問いにはまだ頷ける。

 だが、最高の友人かと問われたら曇りなく肯定できる自信がない。



 私は忌憚なく意見を述べた。

 すると彼は静かに「やっぱり……」と呟いた。


「いえ、わかっていたんです。最近は会う頻度も減ってきたし、都合のいい存在になっているんじゃないかって感じていたので、正直に話してくれた方がこちらとしても心構えができます」

「怒ってないんですか」

 私の問いかけに、彼は穏やかな様子で答えた。

「そろそろ、潮時かなって」




 それから私は両者の友人と別け隔てなく、とはいかないが出来るだけどちらも対等に扱ってきた。

 それぞれに出来ることがあるのだから、それを上手く活かせればどちらとも良好な関係を保つことは可能だった。


 変化が生まれたのは、前者の友人との関係性だった。

 彼もまた、次第に助けを求めてくる回数が増えてきた。

 もちろん私はそれだけで友人をやめようとは思わないが、その関係性を疎ましく思い始めたのも嘘偽りない気持ちである。


「そろそろ、潮時かなって」

 私は、いつか友人に言われた言葉を彼に伝えた。


「……そうか。まぁ、俺も何となくは察していた。あいつと俺は似た者同士だからな、わかっちまうものさ」

「怒らないんですか」

「ああ。俺と違ってお前には未来がある。友人はしっかり選んだ方が良い」

 意外だった。

 もっと食い下がるものと構えていたので、拍子抜けと言ってもいい。


「俺だって急に居なくなるわけじゃねえんだ。いつでもお前の助けになるぜ。新しい環境になっても、きっと新たな友人が助けてくれるさ」

 もちろん彼という存在を、寄り添ってくれた友人をここで手放すつもりはない。

 私はありがとう、と言った。

 彼は静かに瞳を閉じた。



 歳月人を待たず。

 だが、歳月は人を変える。

 変わったのは私の方かもしれない。

 彼らの扱い方が上手くなったのだろう。

 たどたどしく文字を重ねることもなくなった。

 新たな友人とも、きっと上手くやっていける気がしている。




 そんなわけで、我が家に三代目のスマホがやって来た。

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友人 いずも @tizumo

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