エピローグ

エピローグ

 そして季節は巡り春になる。

 僕は今も崎山さんと暮らしていた。


 いつものように駅前のスーパーで買い物を済ませる。

 二人で袋を持って夕方の街を歩いた。


 崎山さんとの生活を始めて一年が経とうとしていた。

 ほとんど変わらない僕たちの生活だけど。

 崎山さんと僕の関係は、確かに変わった。


「ねぇ、遠藤くん。ちょっと寄って行きましょうよ」


「えぇ? 性木神社にわざわざですか?」


「風が気持ちいいし、ちょっとくらい良いでしょ」


 崎山さんが長い石段を指差す。

 普段怠惰な彼女にしてはかなり珍しい発言だ。

 ただ、その気持ちもわかる。


 神社から、たくさんの花びらが降ってきていたから。

 きっと登れば満開の桜の木々が僕らを迎えてくれるだろう。


「じゃあ行きますか」


 疲れそうだったが、珍しく崎山さんが乗り気なので付き合うことにした。

 長い石段を登ると、運動不足を実感する。

 登り切る頃には僕も崎山さんも息が上がっていた。


「やっぱ……疲れる……わね」


「だから……言ったのに」


 ぜぇぜぇはぁはぁと息をつく。

 そんな僕らの元に、桜の花びらが降り注いだ。

 崎山さんが顔を上げる。


「遠藤くん、見て」


 言われて目を向けると、夕日に照らされた桜の花がそこに広がっていた。


「登ってきて正解だったわね。綺麗だわ」


「……そうですね」


 薄い笑みを浮かべ、穏やかに桜を見つめる崎山さんを見て。

 思わず目を奪われた。

 僕の視線に気づいたのか、彼女と目が合う。


「何、人の顔ジロジロ見て」


「あ、いや、別に」


「何よ、不気味ね」


 口ではキツイことを言っているが、それが本気でないことはわかる。

 この一年間で、彼女のことは良く知ったからだ。


「それじゃあ桜も見たし、帰りましょうか」と崎山さんは伸びをした。


「もうちょっとゆっくりしていきません?」


「お腹減ったのよ」


 この人いつもお腹減ってるな。

 でもそんな彼女が、何だか無性に愛おしい。


 僕の町にはサキュバスが住んでいる。

 彼女たちは少し変わっていて。

 寂しがりやで。

 そして、どこにでもいる普通の女の子だ。


「今日のメニューは何なの?」


「焼き肉ですよ」


「良いわね。ご飯多めでお願い」


「了解しました」


 そんなサキュバスさんと、今日も僕は暮らしている。

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サキュバスさんと同棲中 @koma-saka

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