3-2 社内のマドンナ
「今日から配属になった遠藤進くんです」
「今日からお世話になります。どうぞよろしく」
「やんややんや」
新たな職場での挨拶が終わった。
僕が転職した会社は、自社コンテンツの配信と製作を行う会社であり、僕が配属になった販促二課は、その販売促進や広告営業を行う部署だ。
新規開拓営業、イベント実施やその手配、資料作成等、その業務内容は幅広い。
「ここが君の席だよ」
「おぉ、ありがとうございます」
課長に案内された席は整頓されており、新品であることがわかった。
オフィスの雰囲気も小綺麗でオシャレ。
前職のオフィスは古くて社内全体が汚らしかった。
転職してよかったと実感する瞬間である。
「前職では制作をやってたんだってね?」
「あ、営業もやってました。請負会社だったんで、契約先の企業との打ち合わせとか交渉も」
「そう言う経験してる社員は少なくてね。期待してるよ」
「どうも」
「今日はこの後諸々の書類手続きと、基本的な仕事のレクチャー。それから、教育担当の割当なんかをするから。そうだな……おーい、南穂ちゃん」
南穂ちゃん、と声を掛けられた女性社員は「はぁい」とのんびりした声を出すと、こちらに近づいてくた。
ゆるふわ系OLという感じで、幼い顔立ちが可愛い。
崎山さんがクール系なら、この子はロリ系だな、なんて勝手に考えてしまう。
「この子は音無南穂ちゃん。事務兼アシスタントスタッフでね。販促二課のアイドルだよ」
「もう、アイドルなんて言い過ぎですよぉ! 課長!」
「ぬふふ……」
バシバシ肩を叩かれ、課長はまんざらでもない表情を浮かべる。
「そんなわけで、彼女は販促二課の人気者だから」
「いまので大体分かりました」
ついでにこの課が彼女の手のひらの上であることも何となく把握した。
「南穂ちゃん、お願いしてた遠藤くんの入社手続きを頼むよ」
「はぁい。遠藤さん、よろしくお願いしますね」
音無さんが僕にニコリと笑いかける。
不意に、何だかふわっと甘い香りが漂うのがわかった。
香水の香りにも感じるが、そこまで甘ったるい匂いではない。
何だか緊張を解きほぐすような、頭をボーッとさせるような、そんな匂いだ。
そして僕は、その匂いにどこか覚えがあった。
「どうしたんですかぁ? 遠藤さん。変な顔して」
「あ、いえ、何でもありません。変なのは元からですよ」
「あはは、ウケる」
「ウケないで」
出会って数分の女性の匂いを嗅いだなんて流石に言えない。
そんな事が知られたら速攻で社会的に死んでしまう。
僕は何となく心に浮かんだ違和感を飲み込むことにした。
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