第12話:白金獣魔師は合格する

 目の前のことがすぐには信じられず、一人小さく呟く俺。

 審判を担当する受付嬢がフランツの容態を確認しに行き、すぐに俺の勝利が確定した。


 深刻なダメージはないようで、しばらく息を荒らげていたもののスッと立ち上がって俺の方に向かってきた。


「いやはや、まさか俺が負ける日が来ようとはな。……それも、冒険者試験で」


 悔しそうに唇を噛んでいるが、不思議と嬉しそうにも見えた。


「試験の結果はこの場で言い渡す。まあ、分かり切っているが一応ちゃんと使えておかないとな。イマイ・ユート、合格だ。君の活躍を期待している」


「え、本当に……?」


「何を驚く必要があるんだ? 実力的には合格とかそんな次元じゃないわけだが……決まり上Fランクからスタートになる。まあ、何はともあれよろしく頼むよ」


 フランツが右手を差し出してきたので、俺はその手を取った。

 その直後、フランツの力が一気に抜け、その場に崩れ落ちた。


「え、これ大丈夫なのか!?」


 急いで脈を確認してみる。

 ……大丈夫らしい。ただ眠っているだけだった。


「ユートさん、何を驚いているんですか? ギルドマスターは魔力切れで眠ってしまっただけなので心配ありませんよ」


 よくあることのように軽い口調で説明すると、受付嬢は担架を持ってきてギルドマスターをその上に乗せ始めた。


「魔力切れ?」


「ユートお疲れ様です。さすがでした!」


 このタイミングでレーナが戻ってきた。

 自分のことのように喜んでくれているのが伝わってくる。勢い余って俺の胸に抱きついてきた。


 陽キャ人間っていうのはこんな感じなんだろうか?


「ダメージの回復のために魔力の回復に集中しているんだと思いますよ! つまり、ユートがそれだけすごいということです!」


「な、なるほど!」


 よくわからん。


「ちょっと申し訳ないんですけど、レーナさんそっち持っていただけますか?」


 担架にフランツを乗せ終わった受付嬢が、レーナに手伝いを頼んだのだった。


「わかりましたー!」


「えっと、じゃあ俺は何をしようか……」


「ユートは何もしなくていいです! 試験が終わったばかりでお疲れなんですから」


「そ、そうか……なんかすまんな」


 俺はしばらく一人でギルド左側に貼られた大量の依頼書を眺めながら二人が帰ってくるのを待つことになった。

 Fランク冒険者向けの依頼で戦闘が絡むものは意外にも非常に少なかった。


 基本的には隣の村に荷物を届ける依頼や、狩場の調査。植物素材の採集というのもあった。

 稀に戦闘が絡むものもあるが、★で示された十段階の危険度のうち全て★1。


 なぜ10段階か分かるのかと言えば、『★☆☆☆☆☆☆☆☆☆』という表記になっていたからだ。

 冒険者と言えば魔物と戦うというイメージが強かったが、意外にもそうではないらしい。


「ユートー、戻ってきてくださいー」


 掲示板を眺めているとレーナの声が聞こえてきた。

 フランツを運び終わって戻ってきたらしい。


「ユートさん、おめでとうございます。ギルドマスターから先行して伝えられていましたが、これで正式に合格です。これがギルド証です」


「おおっ、ありがとう!」


 受付嬢から銀色のカードを手渡された。

 カードには、名前、ジョブ名、冒険者ランクが記載されており、右下には発行ギルド支部名と印鑑も入っていた。

 背面には称号の欄もあったが、当然ながら何も書かれてはいない。


「明日から依頼は受けられます! では、頑張ってくださいね!」


「え、今日は無理なのか!?」


「はい。もう依頼を受けられる時間は過ぎているので……。もうすぐ17時ですし」


「ああ……そういう感じなんだ」


 確かにギルドで働いている人も休まなくちゃいけないだろうし、俺の我儘でどうにかなる問題じゃなさそうだ。


「わかった、そういうことならまた明日出直すよ」


「はい、お待ちしております」


 やれやれ、仕事をこなさないと一文無しなんだが、いったい今夜どこで寝ようか……。

 そんなことを思いながら、冒険者ギルドの外へ出た。

 もちろんレーナも一緒に。


 そんな俺たちの前に、怪しそうな笑顔でおっさんが近づいてきた。


「あー、どーもどーも。私、買取商をしてましてね?」

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