第11話:白金獣魔師は勝利する

 ——と普通の冒険者なら考えるだろう。

 しかし、そこが落とし穴じゃないのか? と俺は考えた。


 経験豊富なギルドマスターからすれば、受験者が初撃に最大火力を叩き込もうとするのは想定の範囲内。

 となれば、初撃への対策がしっかり練られているはずなのだ。俺が想像もできない方法があるに違いない。


 なので、その裏を掻いて初撃はジャブを打ち、相手の出方を伺う。そうしてタイミングを見計らって、本気の一撃を叩き込むのだ。

 これでいこう。


 そんな作戦を考えながら、フランツに向けて『ファイヤーボール』を放った。

 的当てでカカシに向けて放った時と同じくらいのショボいものであるが——


「なるほど、これがさっきの魔法か——! まったく、新米とは思えねえぜ!」


 なぜか俺が超強力な魔法を放ってきたかのような演技をするフランツに妙な違和感を覚えながらも、どう対策してくるのかワクワクしていた。


「だがしかし——どの受験者も初撃で本気の一撃を放ってくるものだ! 対策は用意してある。そこが経験のない新米というものよ!」


 うん……? 明らかに本気の一撃ではないのだが……。

 はっ!

 そうか、これは俺を撹乱させるための作戦か。


 経験豊富なギルドマスターともなれば、裏の裏を掻いて撹乱させるようなことまで言ってくるというわけか。

 さすがだ。いっぱい食わされた……。


「知っているか? これが『不死身のフランツ』とまで呼ばれた俺の防御魔法……『不滅の鉄壁要塞イモータル・バリア』だ——!」


 フランツが大声で説明すると同時に、フランツの前面に幾何学模様が浮かび始めた。

 幾何学模様はどんどんと広がって行き、何重にも張り巡らされたものになっていく。


 俺のファイヤーボールが衝突し、多重のバリアが割れる音が聞こえてくる。

 最後のバリアに衝突し、大爆発が起こる——かと思いきや、そうはならなかった。

 囂々と燃える炎の球は急旋回し、俺の方へと戻ってくる。


 なるほど、単純な防御力が高いのではなく、攻撃を跳ね返すというわけか——

 パッとみた感じだが、多重の防御壁はそれぞれ同じ性質を持っている。どの障壁に当たっても跳ね返せるとすれば、割れたのは攻撃力不足だったということか。


 次はさらに段階を上げて試してみよう。

 まだ奥の手を持っているかもしれない。


 ……と、そんなことはともかく。

 このまま避けると、レーナに被害が出てしまう。

 となれば、ひとまず目の前の事態をなんとかするしかないか。


 俺は、跳ね返ってくるファイヤーボールに向けて、新たなファイヤボールを生成してぶつけてみた。

 移動による魔力ロスを感覚的に計算し、ちょうど同じくらいのスピード、同じくらいの火力になるように調整してある。


 少し角度を工夫したことで、衝突した二つのファイヤーボールは飛翔し、上空に爆散した。


 ドガアアアアンッッッッ!!!!


「——ほう、これも冷静に対処するとは、なかなか見込みがある。見ての通り、ユートの魔法は俺に効くことはない! ここからは肉弾戦といこうじゃねーか!」


「え?」


 もしかして、俺の予想が外れていて、ファイヤーボールの威力に関わらず最後の障壁に跳ね返す性質があったのだろうか?

 まあいい、それは決闘が終わった後に確認すればいいし、ひとまず誘いに乗ってみるとしょう。


 幸い、単純な肉弾戦ならレッドの身体能力を共有した俺が負ける未来はなかなか見えない。

 さすがに人間が竜には勝てないだろう?


 大柄な身体から想像もできない俊敏な動きでフランツは俺に迫ってきた。


 大丈夫、動きは全部見えている。

 怖がらず、ちゃんと対応すれば大丈夫なはずだ。


 パンチが飛んできたら、無駄のない動きでサッと避ける。

 キックが飛んできても同様の動きだ。


 何発か完全に見切った上で避けていると、フランツの攻撃は絶対に当たらないことがわかった。

 当たればそこそこ痛そうだが、当たらなければどうということはない。


「な、なぜだ! なぜ当たらん!?」


 狼狽るフランツ。

 焦りは隙を生み、俺に反撃のチャンスを与えた。


 俺はフランツの攻撃の隙間を縫うように一撃を鳩尾に叩き込んだ——


 パンッ!


「うぐ……っ!」


 硬い金属板のようなものを身につけていたのか、殴ったこちら側がちょっと痛い。

 俺のクリティカルヒットは上手くハマったようで、フランツの身体は練習場を転げていったのだった。


 吹き飛んだ距離は、およそ20メートル。


 受け身も取っていなかったので大丈夫だろうか?

 ——と心配していると、もぞもぞと動き出すフランツ。


 警戒しつつ様子を伺っていると、おもむろに両手を上げたのだった。

 さっきのルール説明を思い出す。


 両手を上げるというジェスチャーが示す意味。確かそれは、敗北宣言だった。


「えっと……俺、勝っちゃった……のか?」

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