第10話:白金獣魔師は決闘する
受付嬢がギルドマスターと呼んでたのは、茶髪のダンディーなおっさんだった。年齢は俺の親世代——アラフォーかそのくらいだろう。
だらしなく無精髭を生やし飄々としている見た目からはおよそ普通の社会人には見えない。
「それで、念のため聞くんだがこれをやったのはそこの少年か?」
「そうです。たった一撃でこんなことに……」
「なるほど、そりゃ面白え。おい少年、名前は? いや、尋ねる前に俺から名乗るべきか。俺はフランツ、ビストリア支部のギルドマスターを任されている」
「俺は今井悠人だ。この辺の人は発音しにくいみたいだからユートでいい」
「イマイ……ユートか。差し支えなければでいいんだが、カザカミ……セートを知ってるか?」
「風神聖斗……!」
まさかここでヤツの名前を聞くとは思わなかった。ギルドマスター……フランツは聖斗のことを知っている……ということはつまり、俺より先にこの村に来ていたということか。
いや、もしかするとまだこの村にいるのかもしれない。
「その顔は知ってるみたいだな。仲は良いのか?」
「いや、どっちかというとかなり悪いな。あいつとだけはソリが合わなかった」
本来なら初対面の相手、それも偉い人にここまで正直に話す必要はなかった。
もしフランツが聖斗のことを気に入っていれば、聖斗と不仲である俺を良く思わないだろう。
そんな簡単なことがわかっていながら、正直に答えてしまった。
だが、その心配は杞憂に終わった——
「それは良かった。いや、だろうな——と言った方が良いか」
フランツの俺を見る目がさっきよりも少し優しくなったような気がした。
この返事でこの反応ということは、少なくとも聖斗のことを気に入っているわけではなさそうだ。
「ちょっと前に変わった名前の冒険者志望が大勢で受験に来てたからな。その仲間かと思ったが、違うみたいで安心したぜ」
「あいつらが何かしたのか?」
「今のところは何もないが、セートって男とユノカって女が特に大した実力もねえくせに舐めた態度で受験に来てたから良い気がしてなかったってだけだな。俺の直感だが、あいつらはそのうち何かやらかす。そんな臭いがする。……って、俺としたことがこういう陰口みたいなことは言うもんじゃねえな。失礼した」
聖斗と湯乃佳。
異世界に来てすぐだというのにいつもの態度を続けているわけか。
確かにあの二人には謙虚さの欠片もないが……『大した実力もない』という部分は少し引っかかるな。
二人が引いていたジョブは賢者と聖女。
SSRということはかなりの当たりジョブだと思うんだが、それが大したことないというのはどういうことなんだろう?
フランツがこれ以上話すつもりはなさそうなので深掘りすることはできそうにないが……。
「そうだったのか……気分の悪いことを思い出させてしまって悪かった」
「気にするな。ユートには関係ないことだしな。それで、早速試験ということでいいか?」
「もちろんだ。その方が助かる」
「よし、ではこの場で最終試験を執り行う。試験官は俺——フランツが務め、受験者はユート。審判は、任せていいな?」
受付嬢の方を向き、尋ねるフランツ。
「もちろんです。最後まで見届けさせていただきます」
「決まりだ。決闘のルールに関しては入会試験の性質上こちらで決めさせてもらう。双方、相手を殺してはならない。先制攻撃は受験生側。審判の判定による決着を認める。敗北宣言は両手を上げるか、口頭で宣言すること。決闘時間は一時間の制限を設ける。——以上だ。理解したか?」
「大丈夫だ。攻撃のタイミングはこっちの好きなタイミングでいいのか?」
「もちろんだ。審判が開始の合図をしてからどのタイミングでもいい。ま、作戦を考えるのも良いが正々堂々と勝負を仕掛ける方が俺は好きだぞ」
「分かった、でもさすがにギルドマスターが相手だし、俺もちょっと考えさせてもらうよ。普通にやってちゃ勝てないだろうしね」
そう言うと、フランツは口角を上げてニヤリと笑った。
何が面白かったんだろう……?
こんなやりとりがあって決闘の直前。
それまで俺たちの様子を眺めていただけだったレーナが近くに寄ってきた。
「フランツがどれほどの実力者なのか分かりませんが、ギルドマスターというのは騎士団もしくは冒険者として優秀な実績を修めた者だけがつける地位です。ただ、ここだけの話……必ずしも人格が伴っているとは限りません」
小声でそんなことを言ってくるのだった。
いまいちピンと来ないので疑問符を浮かべていると、それが伝わったのか、レーナは補足してくれたのだった。
「試験事故と見せかけて気に入らない冒険者を殺しにかかってくる人もいますから、細心の注意を払ってくださいね。ユートは強いので最後まで戦おうとすると思いますが、危なくなったら迷わずに敗北宣言してください。私からのお願いです」
「なるほど……分かったよ。心配ありがとう」
「こうして出会ったのも運命ですし、ユートには無事でいてほしいです。私も強い冒険者をつけてほしいとは言いましたが、まさかギルドマスターが出てくるとは思わなかったのです……」
レーナが後ろに下がったタイミングで、審判の受付嬢から決闘開始が告げられた。
俺からの先制攻撃。
さすがに数多の経験を持つギルドマスターとペーペーの俺が戦うとなれば、最初の一発が最重要になるはずだ。初撃で今使える最大火力の魔法を叩き込むとしよう。
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