第8話:白金獣魔師は冒険者試験を受ける
驚く受付嬢とレーナの二人をよそに、俺は集中していた。
そう、俺はこの一冊の本から異世界の言葉を習得するのである。
幸い、会話は普通に理解できているから何となく読めるし、レッドをテイムしたおかげで竜の知力が俺にも備わっている。
1ページあたり数秒のスピードでどんどん解読し、ページをめくる。
慣れてくるとどんどんページをめくる速度が上がっていった。
半分を超えると、ほとんどの単語や文法を理解している状態になるので、あとは穴埋めだけ——
こうしておよそ5分で一冊全てを読み終えることができた。
読めるようになっただけじゃない。
基本的な文字の形や文法、単語なら自由に使いこなすことができるようになった。
「よし、こんな感じかな?」
俺はサラサラサラと受付嬢が用意してくれた申込ページに記入していった。
記入内容は、名前・ジョブ・申込理由だけのシンプルなものだった。
「す、すごいですユート……! まさかあの一瞬で!?」
「私もこんなことできる人初めて見ました。……ていうか、こんなにすぐ習得できるならなんで今まで覚えなかったんですか!?」
「まあ、手元に本がなかったから……かな?」
「ユートは天才です……!」
「常人には理解できませんね……。ともかく、ご記入ありがとうございます。では、案内しますのでついてきてください」
「ありがとう」
◇
受付の裏を通って案内された先は、裏口だった。
裏口の外へ出ると、大きな広場のようになっており、いくつものカカシが立っていた。
訓練場という名前が相応しいと思う。
「そう言えば、あの……さっきからお聞きしたかったんですけど、その可愛い動物はなんでしょう?」
「あ、それ私も思ってました! 綺麗で置物みたいですけど、飛んでますよね!」
二人はジッとレッドを見ているようだった。
「こいつはレッドって言うんだ。魔物だけど、俺がテイムしてるから暴れないし大丈夫だぞ」
「違うよー、ボク魔獣だよー」
「しゃ、喋りました!」
「魔物が喋るってそんな……!?」
「えっと、あー、こいつは喋るんだ。そんなに珍しいか……?」
「め、珍しいと言うか……魔物は喋りません!」
「魔物じゃないよー。だってユートはテイマーだもん! テイマーは魔物をテイムできないよ!」
「え? それってどういうことなんだ?」
「魔物は頭悪くてテイムできない。魔物と一緒にするのはやめてほしいなー……。ほら、ボク言葉わかるでしょ!?」
レッドはちょっと困ったように俺を見つめるのだった。
頭が悪い……っていうのは意思疎通ができるかどうかということか?
確かにその辺のゴブリンやウルフとコミュニケーションを取れる気がしないなぁ。
つまり、言葉を話せない=魔物で、言葉を話せる=魔獣という認識で良いのだろうか。
そう言えば、
「なるほどな、そういうことか。悪かったよ」
「わかってくれて嬉しいー! ありがと、ユート!」
嬉しそうに俺の周りをグルグルと飛び回るレッド。
こいつのおかげで、試験前の緊張はかなり解れた気がする。気がつかない間に少し強張っていたみたいだ。
「えーと……で、では、一科目の試験を始めますね」
受付嬢がタイミングを見計らって声をかけてきた。
「……と、その前にユートさんは『的当て』にしますか? それとも、『的斬り』にしますか?」
「すまん、違いはなんなんだ?」
「まず、ここで言う的というのはあのカカシです。的当ては20メートル離れた場所から魔法を撃ってもらう試験で、的斬りは近距離から文字通りカカシを斬ってもらう試験になっています」
「——つまり、魔法職向きと近接職向きの試験を自由に選べるって認識でいいのか?」
「そうです! その通りなのです。ユートさんは理解が早くて助かります!」
「なるほどな。それなら俺は的当てを選ばせてもらうよ。魔法はそこそこ使える自信があるしね」
……というか、剣なんて生まれてこのかた使ったことがないので、消去法で的当てを選ばざるを得なかったというのが正しいだろうか。
魔法ならレッドをテイムしてから何度か使ったし、この試験でも問題なく実力を発揮できる自信がある。
「では、定位置についてください。そこの白い線が目印です。いつでも好きなタイミングで撃ってくださいね。魔法の威力と正確性を確認します。全力でぶつけるのも良いですが、当たらなければ意味がありません。チャンスは三回です。どうぞ!」
「よし、じゃあ行くぞ」
俺はさっき魔物を狩っていたのと同じ要領で、ファイヤーボールをぶっ放す。
何も考えずに投げて当たらないというのもアレなので、最初は威力を抑えめでやることにする。
とりあえず有効な一撃をこれで稼いでおいて、二発目と三発目を本気で投げればいい。
俺のファイヤーボールは見事に的のど真ん中に衝突し——
ドガガガガアアアアァァァァンンンンッッッッ!!!!
物凄い轟音が鳴り響いた——
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