第7話:白金獣魔師は習得する

 ◇


 レーナは客観的に見て美少女だから、隣を歩いてくれると俺の足取りも軽いものになっていた。

 ただ美少女なだけじゃなく、素朴ですごく良い子なのである。どこかの幼馴染みと違って。

 異世界に来たばかりで右も左もわからない俺にとって頼りになる癒しとなり始めていた。


「止まれ」


 村の前に到着すると、門番をしている衛兵に呼び止められた。

 既にレーナから形式的に村に入る前には門番のチェックがあると聞いていたので、特に驚くことはない。

 形式的——というのは他国に入るわけじゃなく村に入るだけだから大したことは尋ねられないのである。


「この村——ビストリアに入る目的は?」


「旅をしているんです。この村で休養できればと思いまして」


「なるほどな。そこの嬢ちゃんも同じか?」


「そうです!」


「ふむ、なるほど手続きは終わりだ。ゆっくりしろよ」


「ありがとうございます」


 こんな感じで簡単にやりとりを終えて、村の中に入ることが出来た。

 ビストリアという名前の村は、日本人の俺が村と言って想像するほどの小さな集落という感じではなく、少し小さめの街という感じだ。

 それなりにたくさんの人が行き交っているし、建物の数もかなりの数が並んでいる。


 街並みも汚い感じではない。ゴミ一つ落ちていない綺麗な街並みとまでは言わないが、少なくともまったく不快には感じない。

 俺がビストリアの景観を見ていると、レーナが俺の腕をトントンと叩いてきた。

 レーナの方を振り向いた。


「ユート、気をつけてください」


「何がだ?」


「旅人と言って入ったので今回は良かったんですが、冒険者になったら誰に対しても敬語は使っちゃダメなんですよ」


「そうなの!? でもレーナは普通に丁寧な感じじゃないか?」


 丁寧な話し方を嗜められるとは思いもしなかった……。


「男性冒険者は、です。なぜだか分かりませんけどそういう文化なのです。変な人だと思われると損するのはユートなので、こだわりがないなら気をつけたほうが良いですよ」


「そ、そうなのか……。まあ俺としても変なことで目立ちたくないし、そうすることにするよ。ありがとう」


「ど、どういたしまして……大したこと言ってないですけどね!」


 なぜかお礼を言うと恥ずかしそうに顔を赤くするレーナ。

 どうしたんだろう?


 その後、俺はレーナに連れられるままビストリアの冒険者ギルドへ向かった。

 初めての村でも迷わずギルドに迎えるのは、どの村も大抵中心にギルドがあるからだとか。


 ガチャ。


 冒険者ギルドは、異世界にくる前にファンタジー系のゲームで見たことのあるような馴染みのある光景だった。


 左側には大量の依頼書が貼られた木製の掲示板。

 右側にはこぢんまりとした酒場。


 昼だというのに屈強な男たち数人が飲んだくれている姿が異世界に来たんだな——という意識をより深いものにしてくれた。


 俺は入り口からまっすぐ進んだ先のカウンターに向かった。


「冒険者になりたいんだが、ここで手続きすればいいのか?」


 ちょっと慣れないが、さっきレーナに指摘された通り、冒険者らしいぶっきらぼうな言い回しになるよう注意した。


「あっ、はい。ここでできますよ。試験が必要ですけどね」


「試験ってのは今から受けられるのか?」


「ええ、いつでも大丈夫ですよ。試験はなにするかって分かります?」


「……いや、すまん。まったくわからん」


「分かりました。では、ご説明しますね」


 受付嬢は、冒険者ギルドの入会試験について詳細を説明してくれた。

 どの村で試験を受けても共通で、三科目の試験があるとのことだった。


 一科目は『的当て』もしくは『的斬り』。

 二科目はジョブ固有試験。

 三科目は試験官との決闘。


 日を分けることもできるが、一日にまとめて受けることも可能とのことだった。

 俺は今すぐにでも冒険者になりたいのは、迷わず——


「今から全部の試験を受けたい。それで頼む」


「分かりました、ではこちらの用紙に記入をお願いします」


 受付嬢はそう言って、冒険者試験の申し込み用紙とペンを用意してくれた。

 用紙に目を通す。


「……読めない」


 当然といえば当然なのだが、異世界の文字は日本語とはまったく違っていた。

 古代エジプトの文字——ヒエロフリフを彷彿させる文字の羅列で、さっぱりだった。


「ユートは文字が読めないのですか? なら、私が代わりに——」


「いや、大丈夫だ。ちょっと時間が欲しい」


「え、でも……」


 文字が読めないのはちょっと恥ずかしい……。それだけじゃなく、今後も困ることになるだろう。

 読み書きができないとなるとあらゆる契約で騙されそうだしな。


 困惑するレーナを差し置いて、俺は受付嬢にお願いをした。


「ちょっと、なんでもいいから本を貸してくれないか?」


「本……ですか? 冒険者関連の本ならギルドに少し置いていますが……これで良いですか? しかし文字が読めないんですよね?」


「ああ、問題ない。ありがとう。今からこの本で勉強させてもらうよ」


「え!?」


「ユート何言ってるんですか!?」

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