第6話:白金獣魔師は冒険者を志す

「お礼なんて別にいいよ。大したことしてないしな」


「そんなわけにはいきません! ユートは命の恩人なんですから!」


 うーん、そうなるのか?

 言われてみれば確かにそうなんだが、ここまで恩に感じなくてもいいんだがなぁ。


「わ、わかりました。どうしてもいらないというなら大したお礼はできませんが、私の身体で……」


 何を考えたのか、服を脱ごうとするレーナ。


「い、いやちょっと待てって! それはダメだ!」


「それは私が聖女だからですか!? ユートが気にする必要はありません!」


「関係ねーよ!? そういうことじゃなくてさ、本当にお礼なんかいらないんだって!」


 そもそも聖女だから綺麗なんていう偏見は微塵もない。だってあの綺麗の欠片もない湯乃佳が聖女なんだからな。

 お礼を求めてないというのもそうだし、身体で支払うなんてのはもってのほかだ。


「そんな……私の体になんてなんの価値もないということですか……」


 ショボんと俯くレーナ。

 なんかこっちが悪いことをしたみたいな雰囲気になってしまっている気がする。


「そんな事は言ってないって! 俺にはもったいないくらい魅力的だから! そうじゃなくてさ……あー、じゃあ人生相談に乗ってくれよ!」


「人生相談……ですか?」


「そう、人生相談! 職歴なし未経験、働きたいと思ってる!」


「な、なるほど……私なんかで良ければ。ユートはかなり若いので、いくらでも仕事はあると思います。料理人とか建設系の職人とか……ですね。これから技術を磨けば安定した良い生活を送れると思いますよ!」


「なるほど、ちなみにそれって魔王倒せたりするのか? いや、余談なんだけど」


「魔王を倒すのが夢なら冒険者しかありませんね! 私も冒険者の身分ですけど、たくさん稼げるし夢のあるお仕事ですよ! でも完璧に実力主義ですけど」


「へー、稼げるのか。どのくらいになるんだ?」


 餓死寸前で倒れていた少女が言っても信憑性は正直薄いんだが……。


「あ、その目は私を貧乏な女の子だと思ってますよね! 絶対そうですよね! ち、違うんです……お金はあっても食べ物がなくなるという事はあるんです……信じてください!」


「え、うん……信じてるよー」


「わ、私……先月は金貨100枚稼ぎました! 証拠見せましょうか!?」


 そう言って、レーナは何もないところから金貨を取り出した。


 俺が使っていたアイテムスロット魔法と同様のものだろう。ごく自然に使っていたので、さほど難しいものではないということか。


 しかしアイテムスロットが使えるなら余分に水や食料を詰め込んでおけば良かったのに……と思うのだが、難しかったのだろうか。


「この金貨があれば一年は生き延びられますね。限界まで節約すればですが!」


「な、なるほど……一ヶ月でそれって事はすごいんだな」


 金貨1枚=1万円くらいの価値基準だろうか?

 ということはレーナの月収は100万円。……うーむ、なかなか夢のある仕事じゃないか。

 8000円の新作ゲームが100本以上買えてしまう金額である。


 女神が言っていた魔王の侵略がどうとかはあまり興味がないが、これだけ稼げるなら冒険者という職業も一考の余地有りなのかもしれない。


「そうなんです! でも注意してくださいね。冒険者は簡単に稼げるわけではありません。稼げない下積み期間は苦しい生活を強いられます。地道な毎日の努力がいつか実を結んでお金に変わっていくのです。だから——」


「よしわかった! 俺、冒険者になるよ」


「それは良かっ——って、話聞いてました!? 注意事項とか大丈夫ですか!?」


「大丈夫大丈夫。多分、俺結構強いと思うぞ」


「そ、そうですか……まあ、一度冒険者になってから考えるというのも良いかもしれませんね。他の仕事を探すのはその後でも遅くはないと思います」


「それで、どうやったら冒険者になれるんだ?」


 俺が自然な流れで尋ねると、レーナは首を傾げた。


「えっと……本当に何も知らないんですか? どの村にもギルドの支部があるはずなので、そこで試験を受けて合格するだけです」


 嫌味などは一切感じられない。

 本当に信じられないという感じの様子だった。


「ちょ、ちょっと田舎から出てきたもんでな……その辺詳しくないんだ……ははっ。なるほど、試験があるのか。それって難しいのか?」


「いえいえ、Eランク冒険者相当の実力が認められればいいだけなので、めちゃくちゃ簡単ですよ。今の時点の実力が伴っていなくても、将来性を見越してライセンスを与えるという考え方がありますからね。健康な男性ならきっと大丈夫なはずです」


「そうか、それなら安心した」


「あの、ユート。もし勝手がわからないということであれば、合格して独り立ちするまで私がご一緒しましょうか? お礼も兼ねて」


「えっ、めちゃくちゃありがたいけど……良いのか? レーナだって村に何か用事があって来てたんじゃないのか?」


「私はただフラフラと放浪しているだけなので、気にしなくていいです! ユートが良いならついていきますね!」


「ありがとう。めちゃくちゃ助かるよ」

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