第62話違うかも知れないし、そうかも知れない

更に私は後部座席の為なかなかお茶を進める事ができない。


それでもあれやこれやと手を変え品を変えて温かいお茶を飲む様に勧めても、それがお気に入りの女性ヒーローの絵がプリントされた水筒であったとしても頑なに首を縦に振ろうとしない。


ここまで意固地になっている真奈美は久しぶりかも知れない。


そう、元夫っと離婚する前の日常でもあった。


もしかしたら真奈美は甘えているのかも知れない。


そして真奈美はお父さんとお母さん、二人揃っている時だけ甘える事が出来る。普段はお母さんに迷惑をかけるから真奈美の中での迷惑がかからない様にお利口さんで過ごしているのかも知れない。


違うかも知れないし、そうかも知れない。


ただ、元夫がいる今久しぶりに我儘をいう真奈美が顔を出しているのは確かである。


結局、親である私が行ってしまった罪は子供である真奈美に跳ね返ってきていると思うといくら我慢しようとも流れる涙を止める事が出来ず真奈美と元夫に見えない様に静かに泣く。


そして、こんな私に愛想は尽かせているのは些細な態度から伝わって来るのだが前回会ってくれた日と同様に真奈美にだけは深い愛情を持って接してくれている事もその一挙手一投足から何となく伝わって来る。


「パパはマナがお腹、ぽんぽん痛い痛いになっちゃったら悲しいなぁー」

「…………」

「お父さん泣いちゃうかも知れない」

「………ぱぱ、かなしい?マナのおなか、いたいいたいになったら、かなしい?」

「マナのおなかが痛い痛いになったら、そりゃ泣いちゃうくらいパパは悲しいよーっ」

「のむ。マナ、のむ」


車の中で泣いているのを知られてしまったのかどうかは分からないのだが、元夫が助け舟を出してくれた瞬間、真奈美は素直に私から女性ヒーロー物がプリントされた水筒を受け取ると、飲み口についているストローで元夫に見える様に少し大袈裟に飲み始めると、それに合わせて元夫は「ごくっごくっごくっ」と飲む振りをしてくれる。


「「ぷはーっ!」」

「温い温い?」

「ぬくいぬくいっ!も、ぽんぽんだいじょうぶっ!」


そして私はこの光景がとても愛おしい物として脳裏に焼き付けていく。


あの頃みたいに『いつもいつも美味しい所を持って行って』と思ってしまう私は前回同様に現れなかった。


この愛おしさにもう少し早く気付けていれば、もしかしたら違っていたのかも知れないと、今日何度目かのそんなたらればを思う。


そして私達はこの後二回程パーキングエリアで休憩しながら目的地である遊園地へと着く事が出来た。

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