第60話クソ喰らえ

そして男二人で傷を舐め合う様に笑い合う。


「だからこそ私はね、せめて真奈美の前だけはすべての感情を押し殺して良きお父さんでいると誓ったんだ」


そして悲しそうに笑う北側の元夫を見て、恐らく俺も同じような表情をしているんだろうな、と思ってしまう。


「それにしても意外でした」

「何がですか」

「いや、僕は最初一発くらいは殴られる覚悟で来ましたから……」

「殴られたいという特殊な性癖であれば、殴ってやろうか?」


そして俺は内容が内容が内容の為今日は殴られる覚悟で来たと言うと北川の元夫は殴られたいと言うのならばお望み通り殴ってやると言った後、断るのもできず困った顔をした俺を見て「冗談だ」と笑顔を見せてくる。


「先にも述べた通り私はホッとしていると言ったが、それは間違いだ」

「え?」

「本当は君を見て心底ホッとしたが正解だな」


北川の元夫はそう言ってくれるがそれが何故だか分からない。


「何故?って顔をしているな。例えば半年前世間を騒がせた小学生男児暴行殺人事件を覚えているか?世間を騒がせていない新聞の隅に乗る様なモノだと更に多くなる。離婚した女性が男性の部屋に転がり込み、その女性の連れ子が同居している男性に暴力を振るわれるという事件だ。そのような事件がニュースや新聞に載る度に気が気ではなかったし、今まで自分を責め続けていたよ。だから君を見て心底ホッとしたし元妻を拾って感謝すらしている。夜の仕事で日銭を稼ぎそこで出会った男性の家へと転がり込んだ結果真奈美が暴力を振るわれるのではないかと幾度となく想像した悪夢を終わらせてくれて」


恐らく、北川の元夫は自分では真奈美の親権を取るのはかなり難しいと分かったその時からこの悪夢に魘されていたのであろう。


「今でも親権は俺よりも彩の方が良いと判断したアイツを殴ってやりたいよ。仕事をして家を空けているあなたよりも常に一緒にいる母親の方が引き取るのが妥当だ?継続性の原則?母性優勢の原則?知るかそんなもんっ!クソ喰らえっ!」


そして北川の元夫は最初の生ビールが聞いてきたんか酔いが回ってき始めている様で言葉使いや内容が荒くなり始める。


それでも立ち振る舞いは乱暴にならない所を見るに、本当に良い人なんだなと思うのと同時になんでこんな良い人を裏切るような事をしたのか、結局俺には一生理解できないなと思う。


「そうだそうだっ!!そもそも浮気相手がよりにもよってフリーターって何だよっ!!何が『俺はあんたと違って見捨てたりなんかしない』『あんたの様に絶対悲しませたりなんかしない』『俺たちはただ出会う順番を間違っただけだ』だよっ!だったら慰謝料の話をした瞬間逃げようとしてんじゃねぇよっ!!」

「お、君も言うねぇ?」

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