第59話似た物同士

そして俺もそれに合わせてコーラを注文する。


「わざわざ私に合わして頂かなくても大丈夫ですよ」

「いえ、とりあえず初めは流れでアルコールを頼みましたが実は未だにアルコール類が苦手でして、なんならジュースの方がよっぽど美味いと思ってしまう子供舌で申し訳ないです」

「同じです。私も、アルコール類よりもジュースの方が美味しく感じる上にそっちの方が安いのにと思ってしまうタチでして」


そして沈黙が訪れる。


似た物同士。


恐らく相手方も同じ事を思っているのであろう。


言わずとも顔を見れば分かる。


「私はね、彩をやたら偉そうな言葉で罵った記憶があるんです。怒りなのか何なのか、とにかく何かしらの攻撃的な感情の昂りであの時何と罵ったのかは覚えていないのですけれどもね。でも私はその感情に任せて罵ってしまったんです」

「それは………普通では無いのですか?罵りたくなる気持ちも攻撃的な感情が込み上げてくるのも痛い程分かりますし」


そして北川の元夫はポツリ、ポツリと喋りだす。


その声音はまるで懺悔している様にすら感じてしまう。


「そうです。男女の関係であったのならばそれが普通なのです。そして私は男女の関係の様に感情に任せて罵った。それは言い換えればその時の私は真奈美の事など一ミリも考えていなかったんですよ。今思えばゾッとする。あの時の私達は男女の関係ではなく真奈美の親という関係であり、少し考えれば父親が親権を取るにはかなり前から準備をしなければならないというのに、これでは父親失格です。だからある意味で貴方がいてホッとしているのですよ」

「………」


北川の元夫は、俺以上に苦しんでいる。


そう思うのに時間はかからなかった。


「日本では親権は基本的に女性へ移り、そして親権を一度放棄してしまえば再度親権を取るのはかなり難しい。浮気と親権は余り関係無いと言われた時は鈍器で頭を殴られた様だったよ。これから先、君も子供がいる状態で離婚と言う言葉が現実味を帯びてきた時は覚えておくといい。きっと役に立つ」


そして北川の元夫は苦笑いしながらコーラを一口飲むと、そのまま続ける。


「………もしあの時、もう少しだけ冷静でいられたら、もう少しだけ真奈美の事を考える事が出来たのならば、もしかしたら離婚しなかったかも知れない、なんて事も時々思う。子はかすがいとは言うが正にその通りだ。でもね………これ程までに語っておいてなんだけれども───」

「───親として浮気した元妻を許す等到底出来よう筈がない、ですよね?」


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