第11話頑張るしかない
私だって今年で二十七歳、酸いも甘い経験しているし今現在絶賛人生の谷間のどん底中であるのだ。
高城だって二十七年も生きてくればそりゃ色々あるだろう。
そしてこの最低限の物しか無いという事と、一人暮らしにもかかわらず二部屋だという事で何となく察した私はあえて何も聞かなかった。
ここで聞くのは違う気がするし、何よりも私から聞き出すのよりも高城から言ってきてほしいと思ってしまう。
「何も聞かないのか?」
「聞いてほしいの?」
「………いや」
「なら今はそれで良いじゃない。でも私から一つ助言をするとすれば、話せば思ってた以上にすっきりするわよ」
「経験者の言葉は重いな」
「当り前じゃない」
それでも、この部屋へ私たち家族を、それが例え下心があろうと、又は偽善からくるものだったのだとしても住まわしても良いと思えてくれている事が、まるで彼にとっては必要な存在の様に思われているようで、それがむず痒くもある。
どんな理由であれ人に信頼されるという当たり前の事が、泣きそうなくらい嬉しいと思ってしまう。
「どんな表情してんだよ」
「別に」
その感情が表に出ないようにしながら真奈美の為に敷布団を私たちにあてがわれた部屋に敷くと娘を起こさないように寝かしてその上へ掛け布団を優しく被せてあげる。
それにしても普段であれば少しの物音や振動で起きてしまう娘がここまで深く眠っている事に、私が思っている以上に真奈美を疲れさせていたのだと思い知らされる。
いっぱい歩いたし、真奈美なりに何かを感じ取っていっぱい心配させてしまったのであろう。
「ごめんね………」
そう思うと私の口からは自然と謝罪の言葉を紡ぎ、真奈美の頭を優しくなでてあげる。
「じゃあ俺は一旦風呂入るから」
「わ、分かった」
そんな私たち親子の姿を見て高城は微笑んだ後風呂へ入ると言うとそのまま着替えを押し入れのなかに入れているアクリル板でできた箪笥から取り出すとそのままお風呂場へと向かっていくではないか。
その光景を見て私はいよいよだと思い、変な緊張をしてしまう。
娘である真奈美は寝ていて大人の男女が二人。
そして起きない真奈美をみてお風呂へ行く高城。
これはもしかしてもしかしなくてもそういう事なのだろう。
今思えば不倫がばれてから今まで、不倫相手と元夫との裁判や娘との親権を争う裁判期間も含めるとそういう営みはここ一年以上ご無沙汰であり、感じた事の無い緊張感が私を襲ってくる。
だとしても娘とこの部屋で暮らして行くために必要な行為だとするのならば、頑張るしかないのだ。
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