第6話弁護の仕様も無い

そう言って食べるハンバーグはまるで味のしない粘土を食べているみたいであった。


母親としての資格はない。


それは私が一番分かっているのだが、手放したくないと強く思う事は許されい事なのだろうか。


もう、私自身いろいろと間違えすぎてもう何が正解かなんて分からない。


「まぁ、北川がやった事は流石の俺でも弁護の仕様も無いな」

「あー、はいはい分かってます分かってます。高城もこれから私の事を悪く言う事も分かってます」


こんな事を言うつもりなど無かったのに口が勝手に開く。


なんと身勝手な女なのだろうか。


女性は会話に答えを求めていない、男性は会話に答えを求めるとは有名な話であるのだがどんなに腐ってしまっても私は女なんだと自覚させられているみたいで嫌になる。


もしあの時、女ではなくて母親である事を選択できていれば、等というもう何回したかも分からないたらればをまた想像する。


「すまん、俺の言い方が悪かった」


そして高城は自分は悪くなく、どう考えても一方的に噛みついてきた私が悪いにも関わらず、そのことを一切指摘する事も無く謝ってくる。


そんなところが昔からズルいと思うし、同時に卑怯だとも思う。


「良いわよ、謝らなくても。私が悪いのは私自身が一番分かっているから………何よ?」

「いや、丸くなったなと」

「………十二年」

「何が?」

「私たちが別れてから。十二年。そりゃ私だって変わるよ、色々と。それにこんな事になったのなら尚更」

「そっか、そりゃそうだ。お互いに色々あるわな。十二年だもんな………その、すまん」

「だから謝らないでって言っているでしょう。それに私に何か言いたい事があるんじゃないの?」


おそらく高城にもこの十二年で変わった所はある筈で、お互いに歳をそれなりに取ったなとしみじみ思う。


そりゃアラサーにもなる訳だ。


「あぁ、そうだった。単刀直入に言うと俺は今のお前を見て母親失格であるとは思わない。しっかりと母親ができているじゃないか。不倫して離婚したとしても父親が死んだ訳じゃない。もしそれで父親が娘であるこの子から離れて行ったのならばきっかけを作ったのは北川かもしれないがそれを選んだのはお前では無くて元夫だ。お前じゃない」


そこまで言うと高城は注文した和風明太子パスタを一口食べて水で流し込む。


「取り敢えず結局は説教になるんだが、お前何様なんだ?」

「そ、それは………」

「今降りかかっている周りの不幸な事は全部お前のせいなのか?」

「だって私が………」

「不倫したきっかけは不倫相手のメールならばこのきっかけを作った大本は不倫相手で、更に言えば不倫は一人じゃできない。そいつに慰謝料が降りかかったのはお前のせいじゃなくてリスクが分からなかった不倫相手の自業自得。そして不倫したことを知った上で離婚という判断を下したのは元夫で、恐らく夫は夫でこの決断は一生背負っていくと思う。その気持ちはお前の物じゃなくて元夫の物。全部が全部自分のせいだと思うのは傲慢と言わずして何と言うんだ?それとも何か?世界中の罪を引き受けますってか?ばかばかしい。今だからこそ悲劇のヒロインを演じるんじゃなくてちゃんと母親を演じてやるべきなんじゃないの?」

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