第4話私は全部失った訳では無い
そう言って笑顔を向けてくる娘に胸がズキリと痛む。
「ならお母さんはほうれん草のソテーとグラタンにしよっかな」
「ぐらたんっ! まなもグラタンッ!」
「マナはハンバーグでしょ? じゃあ、お母さんと半分こにしようか」
「ままと、はんぶんこっ! はんぶんこっ!」
それでも、なんだか物凄く久しぶりに平穏な時間を過ごしている気がする。
あれから高城の車で近場のファミレスへと行くと娘は久しぶりの外食で先程までの疲れ等無かったかのようにご機嫌である。
「ぱぱわ? ぱぱわどこ? ぱぱ、おそいねぇー」
「パパはね、今日はお仕事が大変で忙しいから今日は来れないんだって」
「ぱぱかあいそうっ!」
それと同時に娘は日常を取り戻し、娘の時計は幸せだったあの頃へと戻っていく。
まるで自分だけが蚊帳の外にいる様に感じてしまう私はまだ未練がるのだろう。
あんな事をしておいて良くあの日に戻りたいと思えたものだ。
それでいて現実がまだ理解出来ていない娘を見ると、胸がギシリと軋み痛む。
「せっかく楽しい食事なんだ。そんな辛気臭い顔すると今目の前にある幸せまで逃げるぞ?」
ハッとする。
高城に言われて、私はまた過ちを犯そうとしていた事に気付く。
私は全部失った訳では無い。
にも関わらずまるで悲劇のヒロインよろしく全て失った可哀想な女を演じていた自分に気付かされる。
「まま、どこかいたいの? だいじょぶ? いたいいたいの、とんでけーっ!」
「飛んでけ飛んでけっ!」
「もう、高城まで一緒になって何やってんのよもう。うぅっ」
ダメだ、一度気が緩み流れ出した涙が止まってくれない。
「まま、いたいいたいのとんでけーっ!」
「もう大丈夫だからね、ありがとう。ごめんね、ごめんね、パパをマナから奪ってしまってごめんなさいっ!」
この天使の様に可愛い娘から父親を奪ったのは私なのだ。
「全く、不器用過ぎるだろうお前」
「う、うるさいっ………うるさいぃぃいいっ」
「ほんと、いつからそんなに泣き虫になったんだか」
「見るなよぉおおおっ!」
「ままなきむしさん?」
「おおそうだな、泣き虫さんだなぁ」
◆
「おいしいぃっ! ままおいしいっ!!」
「そう、良かったわね」
「うんっ!」
「ほら、口がベトベトじゃない。拭いてあげるからジッとしてなさいね」
「あうあう」
何とか、壊れたかと思った涙腺が締まり涙が止まった頃、丁度料理が運ばれてきた。
「私、離婚した」
「…………」
目の前に出されたハンバーグに娘の真奈美はかぶりつき、口周りが一瞬にしてベトベトである。
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