第1話

近くにトラックが走ってくる音が聞こえる。



僕は、この日一度死んだ。

人間誰しも幸、不幸がある。幸せな日もあれば不幸な日だってある。

そんな因果律は誰にもいじる資格などない。


神、死神以外。


目が覚めると、僕の知らない天井。

体が痛い。腕が上がらずできるのは瞳を閉じることぐらいだろうか。


「ここは…どこ。俺は…」


思い出そうとしても何も覚えていない。

俺はいつものように朝起きて身支度をして

職場に…


「いたっ。」


思い出そうとすると頭痛が走る。


「かし…さ… かしは…さん、柏原さん!」


どこかから若い女性の声が聞こえる。


「柏原さん!意識が戻ったんですね。具合はどうですか?」


誰だ。俺はこの声を知らない。


「ここは一体どこですか。」


細々とした声で俺は返事を返す。


「あなた、出勤中にトラックに轢かれて病院に運ばれたんですよ!」


そうか、俺はトラックに轢かれて生きているのか。


「今、先生呼んできますね」


そう、看護師であろう女性は足音を鳴らし部屋を出た。


数分後、医師と思わしき白衣を纏った50歳ぐらいのおっちゃんが来た。


「柏原さん、意識はあるね?」


低い声で聞かれ、声が出しづらい俺は単調に返事する。


「はい。」


医師は、俺の瞼を開けたり触診をし

納得したように頷き話をする。


「君が生きてるのは"奇跡"というべきだろう。

搬送された時は手遅れと思ったがやはり若さというべきか。」


俺の容体はかなり深刻だったようだ。

トラックに轢かれたのなら死んでいてもおかしくはない。当たり前の話だ。


「とりあえず、ご家族の方に連絡するからまた何か体調の変化などあれば言ってください。」


父ちゃんと母ちゃんには心配かけただろうな。

俺はそう思い、両親と会えることに少し安堵した。

安心したからか、何故か急に睡魔が襲ってくる。


「少し寝たいです。」


そう言うと医師の返事も聞かず俺は瞼を閉じ眠りについた。


「きろ… お…きろ… 起きろ!」


誰だ。今ちょうど眠ったとこなんだよ。

そう思いながら俺は渋々と瞼を開ける。

するとそこには、この世のものとは思えない姿をしたツノを生やし、浮遊する"人"らしきものがいたのだ。


「俺は、死神だ。」


は?何を言っているのだ。 あぁそうかこれは夢だ

タチの悪い夢を見ているのだ。

そう思い俺は、再び瞼を閉じ眠りにつこうとしたが

死神と名乗る"そいつ"は語りかけてくる。


「おいおい、無視するなよ〜。俺は命の恩人だぜ?むしろ感謝されるべきなんだが…」


さっきから訳の分からないことをベラベラと口の減らない"死神"だ。


「何言ってんだよ。そもそもお前みたいなやつは存在すら否定されているものだ。」


自称"死神"は眉毛ひとつ動かさず、話を続ける。


「わかってないようだから説明してやるよ。お前昨日トラックってやつに轢かれて一度死んでんだよ。それを俺様のご好意で助けてやった訳。」


これまた親切な"死神"だ。


「一度死んでるのを助けた?」


「そうだ、その代わりといっちゃなんだがお前には対価を払ってもらう。」


押し売り営業もいいところだ。

俺がいつそんな契約を結んだのだ。勝手な親切なら見返りを求めるな。


「勝手すぎんだろ。親切でしたなら見返りなんて求めるなよ」


"死神"は相変わらず表情ひとつ変えずに話を続ける。


「まぁそう言うなよ。お前の寿命は残り30年。今25歳だから55歳で死ぬ運命だった訳だが因果律の影響でたまに寿命が尽きるまでに死ぬやつがいるんだよ。それを今回俺様が助けてやってお前の寿命は55歳までまた伸びた訳だ。」


ほう。おもしろい話だ。


「それで?」


"死神"は続ける。


「鋭いな。まぁ死神っていうのは人の寿命を食べて生きるのが死神ってものだ。しかし今回は逆に寿命を伸ばしてしまったんだ。対価は払ってもらうぜ」


回りくどい死神さんだ。

その対価が気になるのではないか。


「その対価ってのは何を払うんだ?」


「お前の残りの寿命だよ。」


やはりというべきか。俺はイメージ通りの死神で少し安心したのかも知れない。


「だが、ただ単に寿命を貰っても何もおもしろくないだろ?だから一つゲームをしよう。」


死神というものは、暇なのか。馬鹿なのか。

どちらにせよこんな奴に振り回されるのはうんざりだ。


「お前が誰かを好きと思った時その度にお前の寿命を1年貰う。それが対価だ。」


俺が誰かを好きと思った時?一年だと?

つまり30回も人を好きになれば俺は死ぬことになるのか?


「人間は愛がある生き物だ。その人間が愛を感じた時に寿命が減るなんて残酷だろ?おもしろいだろ?」


死神は初めてその表情を、薄気味の悪い笑いへと変える。口角を上げ、瞳の奥は笑ってないのだ。


「どうせ、難癖つけようと条件は変わらないんだろ?いいよそれで。」


死神の対価の条件を承諾した俺は、人を好きと思うことができない呪いをかけられた。


「決まりだ。おもしろい"人生"ってやつを見せてくれよ」


死神はその言葉を最後に霧のように消えたいった。

ともかく、俺の人生は残り30年と対価で減っていく。


その日から俺は人を好きと思えば寿命が減る呪いがかけられた。

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