第9話 黒い影
あの告白以来、私達は連絡先を交換して、毎日連絡を取り合う仲になっていた。そして、色々矢野さんの事が分かってきた。
①朝が弱い
②読書と同じくらい車の運転が好き
③住んでいる街が近い
④意外と甘党
⑤最後の彼女とは、大学4年の時に進路を巡ってこっぴどくフラれている
⑥言う言葉も甘い、事等
そんな私達は、今度の休みに海へデートへ行こうと予定を立てていた。
今日は矢野さんがうちの会社に打ち合わせに来るついでにランチを一緒にしていたのだ。
「楽しみだねー、海。私、海なんて何年ぶりだろう!本当に楽しみ。」
「俺は、楽しみにしてる桜子が見られて嬉しい。」
「もう!響!」
この頃には、お互いの事を“桜子”、“響”と下の名前で呼ぶようになっていた。
確実に距離は縮まっていて、今度の海デートで私から響へ告白しようと思っている。
それ位緩やかに穏やかに、私は響の大きな包容力に惹かれていった。
いよいよ海デートの前日、他部署のヘルプで残業をこなし、帰りが遅くなってしまった私は、スマホに響からの着信が残っているのに気付いた。普段より遅くなったから心配かけちゃったかな。
私は最寄り駅に着くと、響へと着信を鳴らした。ワンコールで出た響は案の定心配したみたいで、「桜子?!何かあった?」と凄い剣幕で第一声を発した。
「響、連絡遅くなってごめんね。残業でこんな時間になっちゃって。」
「残業かぁ…言ってくれれば迎えに行ったのにー。」
「えへへ。ありがと。でも、もうすぐ家だから大丈夫だよ。」
「そうか?次こんな事があったら連絡してな。心臓もたねー。」
「うん。ごめん─あっ」…ガシャーン─拓也だ。
何で?やせ細り、目がぎょろっとした拓也が私の家の前でウロウロしている。
怖くて思わずスマホを落としてしまった。
大丈夫。拓也にはまだ気付かれていない。
即座にスマホを拾い上げ、家とは逆方向に全速力で逃げた。
そして、「もしもし?響?ごめん。助けて。家の前に拓也がいて。様子がおかしくて、怖くて、「桜子?落ち着いて。深呼吸して。今どこにいる?」今?今は駅に戻ったとこ。」
「分かった。そこから絶対動かないで。後、この電話も絶対切らないで。すぐ迎えに行くから。大丈夫。俺がついてる。」
「うん、ぐすっ。ありがとう。待ってる。」
「すぐ着くから。」
言葉通り、響はすぐに迎えに来てくれた。
「桜子!」
「響!」
そう言って駆け寄って抱きついた。響から爽やかなシトラスの香りがした。
「よしよし、怖かったな。もう大丈夫だからな。」
そうやって響も抱きしめて髪を撫でてくれる。
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