第6話 少しずつ
ようやく涙が引いた頃には、矢野さんのハンカチは私の涙と鼻水でボロボロになっていた。
申し訳なくて、「洗濯してお返しします。」と申し出ると、あっさり、「いや、あげるよ。」と断られてしまった。あぁ、申し訳ない…
「あのさ、天野さん村上春樹好き?」
「はい。」
「じゃあ、ノルウェイの森は読んだ事ある?」
「はい、もちろん。」
「その中にさ、俺の座右の銘にしてる一節があるんだ。その言葉を送るよ。
『自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のやることだ』。」
矢野さんの、芯の強さの意味を知った気がした。
「ありがとうございます。帰ったらノルウェイの森、読み返してみます。」
「うん。じゃあ、そろそろ帰るか!天野さん家どの辺?俺今日車だから良かったら送ってくよ。」
「え、そこまでして頂いて良いんですか?」
「今更でしょ。笑」
車内では専ら読書談義に花が咲いた。こんなに読書の趣味が合う人は初めてかもしれない。
いつになく饒舌に話している自分が不思議だった。
あっという間に我が家の前。
車から降りて、「今日は本当に色々ありがとうございました。」ともう二度と会う事のないかもしれない矢野さんに少しの名残惜しさを感じていると、矢野さんは、「うん。じゃあ、また。」とさっさとブレーキを踏んで行ってしまった。
「また」なんてあるのかなぁ…
けれど、私には矢野さんからもらった言葉がある。
早速、ノルウェイの森を読み返す為に家に入った。
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