第5話 牛丼チェーン店にて
身長推定180センチの矢野さんと身長150センチの私とじゃ、当然歩幅は合う訳もなく、ずんずん歩く矢野さんに遂に激突する形でつんのめってしまった。
「ごめんなさい!」
「いや、俺も悪かった。ついカッとなった。あのゲス野郎にも、何も抵抗しない天野さんにも。」
「えっ。」
「良く言えば、誰にでも親切で親しみやすい。けど、悪く言えば八方美人でガードが緩い。特にああいう場ではね。」
「ま、通りすがりの忠告だと思って聞き流してよ。」
言うだけ言って踵を返そうとした響に、桜子が口を開いた。
「…その通りなんです。」
「えっ?」
桜子は涙目になっていた。
「矢野さんの言う通りなんです。私、本当に八方美人で。最近それで手痛い思いもして…」
「ちょ、この場で泣かないでよ。それに人生相談なら場所変えよう。」
そう言って矢野さんと牛丼チェーン店に入っていったのだ。
会計機でお財布を出した時にさっきのお店の代金を矢野さんの出してもらっていた事を思い出して、お金を返そうとしたら、「俺が勝手にした事だから。」って突っぱねられてしまった。「私が八方美人なら矢野さんは頑固者ですね。」って返したら何故か爆笑してたけど。
私は並のつゆだく、矢野さんは大盛りのつゆだくをそれぞれ食べながら、私は初対面の矢野さんに拓也との事を打ち明けていた。
「なるほどね。辛かったな。」
そこで、私はようやく大量の涙を流す事に成功した。拭っても拭っても後から後から涙がこぼれ落ちてくる。見かねた矢野さんがハンカチをそっと持たせてくれた。
子どものように泣きじゃくる私を、矢野さんはじっと見守ってくれていた。
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