第17話 酔い
「そういえば陽菜ちゃん、まだ一人暮らししてんの?」
教室の窓辺から良く晴れた青空を眺めながら、氷空が何気なくといった様子で言葉を零した。
「まだ両親が色々と忙しいみたいだなー……ってか、それがどうかしたのか?」
「いやー……なんつーか最近、陽菜ちゃんに関して質問されることが多くてなぁ。情報を更新しておこうと思って」
「陽菜に関して質問される? 誰から」
「主に一年生だな。なまじお前とよくつるんでるせいか、よくオレに質問が飛んでくるんだよ」
「なんでお前に質問が来るんだ。幼馴染の俺に直接聞いた方が早いだろ」
「そりゃあお前、わざわざ敵に情報は請わんだろ」
「俺はいつから一年生の敵になったんだ」
心優しい先輩として定評があるんだぞ。……嘘だけど。そもそも一年生と関りなんか持ったことないけど。ま、部活動に入っていなければそんなもんだろう。
「外部生は陽菜ちゃんのことあんま知らないからなー。予想はしてたが、やっぱこの時期は色々と探りが来るよなぁ……」
なんとなく、氷空の言わんとするところが分かった。
似たようなことは去年もあったしな。
「…………あいつ、人気あるからなー」
何気なく移した視線の先。陽菜はクラスの友人たちと楽しそうにおしゃべりに興じている。
「見た目は言わずもがな。気も利く上に明るく優しく、おまけに勉強もスポーツも出来るときた。倍率も高い上に合格率はゼロパーセント……一年生たちも、よくもまあ告白していくもんだ。勇気ある若者たちに敬礼ってな」
氷空の言いようは、陽菜に告白してもその答えは『ノー』であるという確信を持っているみたいだ。
「まあ、一年生にも見込みのあるやつの噂は聞こえてくるが……それはともかくとして、だ」
氷空は堪えきれずにと言わんばかりに、俺の手元にある本を指す。
「それ、なに」
「見て分からんのか。ハードボイルド小説だ」
「なんでそんなもん読んでんの。お前、読書家じゃないだろ」
「モテるために『オトナの男』になろうと思ってな……」
「よくわからんがまたバカやってることだけは分かった」
やれやれ……氷空はお子様だな。このオトナの良さが分からないとは……。
「うわー。なんかすげぇ腹立つー」
「フッ……そう熱くなるなよ。そんなんじゃあ、いつまでも『オトナの男』にはなれないぜ?」
「まだ酒も飲めねぇ歳のくせして偉そうに……」
と、言った氷空は何かを思いついたようにはっとして、
「それなら、『オトナ』の気分ってやつを味わえるようにしてやろうか?」
☆
「……はい。『幻惑魔法発生装置』」
放課後の理科室。
星野さんがテーブルの上に置いたのは、ヘンテコな形をしたヘッドフォンだった。
「えーっと……星野さん。つまりこれはどういう代物なんです?」
「……脳に簡単な信号を送って、泥酔状態に錯覚させる装置……じゃなくて魔道具。ようは、『酔った状態』を再現できる」
「へー……そうなんだー」
「……ゆくゆくは王子様探しのための情報収集に使うつもりだった」
「情報収集なのに、星野さんはなんで相手を酔わせようとしてるの」
「……酔うと本当のことを喋りやすいかと思って」
「安直すぎるでしょ」
星野さんの説明に頷きつつ、俺は氷空を引っ張って理科室の片隅に移動する。
「……で、なんで俺らはこんなところにいるの?」
「だから言ったろ? 『オトナ』の気分を味わえるようにしてやろうかって。大人と言えば酒。酒と言えば酔っ払い。つーわけで、星野さんに頼んで発明品を出してもらったってわけ」
「なるほどな……にしてもお前、よくそんな発明品があるって知ってたな」
「実はあの映画館以降、連絡を取り合うようになってな……今日は何を作ったとか色々と教えてくれるのよ」
「へぇー。そこまで進展してたのか。よかったな王子様」
「誰が王子様だ。……はァ。なんか妙に気に入られちまってんだよな……」
とはいえ強引に関係を断ち切れない辺り、氷空もまた優しい。
「ま、今日はもともと発明品のお披露目に誘われてたんだが、ちょうどいいからお前も連れてきたってわけだ」
「なんか悪いな。デートを邪魔しちゃったみたいで」
「ははは。誰がデートだ。ぶん殴るぞ」
笑顔でサラッと狂暴なことを口走るなよ。
「まあ、今の笑えない冗談は許してやるよ」
「今日は優しいな」
「ああ。何しろお前は、星野さんに差し出す生に……実験体だからな」
「生贄じゃねーか!! つーか言い直せてねぇ!」
せめてもう少し隠す努力をしてくれよ。
「お待たせー! いやー、ごめんねー? ちょっと用事があって遅れちゃった」
そうこうしているうちに陽菜がやってきた。
……そういえば帰りのホームルームが終わった後、どこかに行ってたっけ。
――――よくもまあ告白していくもんだ。
ふと、休み時間の氷空との会話が頭を過ぎった。
「……そういえば、さっき一年生と何か話してた?」
「えっ。ほしのん見てたの?」
「……実験室の窓から、少し」
一年生と何か話してた、か……じゃあやっぱり、告白でもされたたみたいだな。
別に珍しいことじゃない。去年もあったことだし。何なら、彼氏がいると思ってたぐらいだし。
「……まあ、ちょっとお話をね。それよりさ、ほしのんの発明品見せてよっ!」
露骨な誤魔化し……まあ、深入りされたくないなら、特に追及はしないけど。
それから陽菜がひとしきり発明品のヘッドフォンを眺めた後、星野さんが使い方を説明する流れになった。
「……使い方は簡単。ヘッドフォンをつけて、ここのスイッチを押すだけ。五分も経てば酔いは覚める」
本当に簡単だった。簡単すぎて逆に効果が疑わしくなるぐらいだけど。
「……まずはお手本」
星野さんはヘッドフォンをつけると、スイッチを押す。
装置からはブーン……という静かな駆動音が漏れ、クリアパーツの部分が赤く光りだした。
「……………………」
俺たちは静かに星野さんの様子を見守るが、特に目立った変化はない。
というか星野さん、元からあんまし表情とか変わらない人だからなぁ……。
「……もしかして失敗してね?」
「いや。目を見ろ、雄太」
「目?」
言われた通り彼女の目に注目してみると、心なしか瞼が落ちてきているような気がする。とろんとしたような、そんな感じ。
「…………うにゅ」
すると、やたらと可愛らしい声を漏らして、星野さんはテーブルに突っ伏した。
そのまま小さく肩を上下させているところを見るに、寝てしまったらしい。
「ほしのん、酔うと寝ちゃうんだ」
装置を起動させてからきっかり五分が経つと、星野さんは起き上がる。
目はぱっちりとしていて、先ほどまで酔っていたのが嘘みたいに。
「…………こんな感じ」
ぶっちゃけ分かりづれぇ。
こんな感じと言われましても、傍から見ればただ寝てただけのように見えるし。
「……酔ってる間の記憶を覚えてるかどうかは、個人差による。ちなみにわたしは覚えてない」
「だろうね」
陽菜の言葉に、俺と氷空も頷いた。
そりゃ寝てたら覚えてないだろうよ。
「じゃあ次、かざみんいってみよー!」
「いやー。オレは遠慮しとく」
「遠慮するなって氷空。せっかくだし試してみようぜ」
「元はお前のためにセッティングしたんだ。雄太がやれよ」
「何言ってるんだ。氷空が先にやってくれないと、効果と安全が本物か確かめられないだろ?」
「おいおい雄太。それじゃあオレが人柱みたいじゃないか」
「なーに。人柱で合ってるから問題ねーよ。お前なら、何があっても心が痛まないからな!」
「そっかー。まさか生贄の雄太にそう言われちまうなんてなー」
「「ははははははははは!」」
「表出ろ雄太」
「上等だ返り討ちにしてやる」
こいつサラッと俺を生贄にしようとしやがって。人の心というものがないのか!
「……はい。風見くん」
「あっ」
互いににらみ合ってるうちに、星野さんが氷空の頭にヘッドフォンを被せた。
そのまま抵抗すら許されずにスイッチオン。再び静かな駆動音が漏れ、クリアパーツの部分が赤く光りだすと……。
「……ちっくしょう。やってらんねー!!」
酔っ払いと化した氷空は、テーブルに拳を打ち付ける。
「ひっく……あんのクソ親父……! なーにがたまには家に顔出せだっつーの。んなことしたらテメーと面を合わせなきゃなんなくなるだろーが。誰が帰るか!」
口から出てくるのは実家……というか、父親に対する不平不満の数々だ。
「なるほど……氷空は酔うと、延々と愚痴を零すようになるのか」
「普段からため込んでそうだもんねー」
「……お酒でストレスを解消するタイプ」
三人で頷いていると、氷空の焦点の定まらない目が俺の顔を捉えた。
「聞いてくれよぉー雄太ぁー! あんのクソ親父がよぉー、うぜーのなんのってよぉー! 会社を継げだとか後継者としての立ち振る舞いがどうとか……だぁーからそーいうのがうぜーんだってーの! どーせオレのことなんか愛してもねーくせによー!」
「うわっ! 絡んできたぞこいつ!」
「うーん。これはいつか成人しても、かざみんにはあんましお酒飲ませちゃダメっぽいね」
「……興味深い」
何らかのデータ取りをしているのか、星野さんは一人頷きながらメモをとっている。
それから氷空はノンストップで愚痴を吐き続け、俺が解放されたのは五分経った後だった。
「…………あれ。オレ、何してたんだ……?」
五分経った後、氷空はようやく正気を取り戻したらしい。
「おい氷空、何も覚えてないのか」
「…………何を? えっ。つーかなんでオレがお前の身体にしがみついてんの?」
「あー。酔ってる間の記憶は完全になくなるタイプだね」
「……朝起きたら知らない女の人がベッドの中に居そう」
星野さんの言葉に大いに同意すると同時に、俺はお酒が飲めるようになったら氷空にはあまりお酒を飲ませないようにしようと心に誓った。
「じゃあ次は、私が被っちゃおーかなー」
「お前、さっきのを見てよくもまあそれを使う気になれるな……」
「だって楽しそうじゃない? それに、せっかくだから経験してみたくて」
そのまま陽菜は自分からヘッドフォンを被り、スイッチを押した。
響く静かな駆動音。見慣れ始めたクリアパーツが赤く点灯する。
「んー…………」
陽菜は瞼を、とろんと下げつつも周囲をきょろきょろと眺め始めた。かと思うと、俺を見つけるや否や、
「…………あ、ゆーくんだー」
陽菜は立ち上がってふらふらと、朧げな足取りで歩きつつ近寄ってくる。
「お、おい、大丈夫か? なんかふらついて……」
「ぎゅー」
「おわっ!?」
支えようと近づいた瞬間、陽菜は勢いよく俺に抱き着いてきた。
そのままバランスを崩した俺は、理科室の床に背中から落下する。しかし陽菜は離れることはなく、それどころか頭を胸に埋めてくるばかりだ。
「ゆーくん。ゆーくん。ゆーくん……えへへー。なでなでしてー」
「は!? 何が!?」
「なでなでー。してくれなきゃやだー」
陽菜は俺の言葉に聞く耳を持たず、ひたすら『なでなで』を要求してくる。
「ははぁー。なるほど、陽菜ちゃんは酔うと甘えたがりになるってことか」
「……ついでに幼児になってるみたい」
「みたいって……これどーすりゃいいんだよ」
「さあ? お望み通り撫でてやればいいんじゃねーの?」
心なしか氷空のやつ、顔がにやついてる気がするんだが。
「なでなでー。ゆーくんのなでなでがいいのー」
「ええい、分かった! 分かったから落ち着け!」
このまま五分も耐えていたら身体が持たない。
観念した俺は、陽菜の頭をそっと撫でてやる。
サラサラで金色の髪は手触りが抜群で、むしろ撫でている方がちょっと気持ちいいぐらいで。
(……相変わらず、癖になりそうな頭しやがって)
しばらく頭を撫でてやると、幼児になった陽菜は満足したらしい。目を細めて心地良さげに、そして満足げに笑う。
「えへへ……だっこしてー」
「まだ何かあるのか!?」
「だっこしてよー。ゆーくんのだっこがいいのー」
「ああ、もうっ! 分かった分かった!」
「やったー! だっこー!」
俺がしぶしぶ頷いてやると、酔っぱらった陽菜は嬉しそうな笑顔を綻ばせながら、
「ん!」
そのまま俺を迎え入れるかのように、両手を広げた。
「お、おお……いくぞ」
陽菜を抱き入れると、髪から華やかな香りがふわりと漂ってきた。
柔らかくて、温かくて。全身で陽菜を感じているみたいで。
(……っ…………何考えてんだ、酔っ払い相手に)
頭に過ぎった何かを振り払い、陽菜を抱きかかえ、そのまま立ち上がる。
相変わらず軽いなー……ちゃんと飯食ってるのかな。
「んふふー。だっこだっこー」
「はいはい……だっこなー。してやってるから落ち着けよなー」
「お前、女児の扱いに向いてるんじゃねーか?」
「……将来は保育士?」
「こんなデカい女児がいてたまるか」
いくら陽菜が小柄とはいえ女児とはとても言い切れない。
さて、まだざっと二分ってところか。あと三分……いったい何をさせられることやら……。
「すぴー…………」
「…………おい。まさか」
「寝てるな」
「……ぐっすり」
「じゃあ俺はどうすればいいんだ……?」
「そりゃー、そのままだっこしてるしかないだろうな」
「……落としたら大変。起こしても大変」
「マジかよ!?」
結局、三分後に陽菜が目覚めるまで俺はずっと陽菜を抱きかかえることになった。
「いやー。結局、私もなーんにも覚えてないや」
覚めてみれば、陽菜も例によって何も覚えていなかった。
あれだけ俺に迷惑をかけておきながらなんてやつだ。
「星野さんもオレも陽菜ちゃんも覚えてないとなると……やっぱ酔っぱらってる間のことって、そうそう覚えらんねーのかもしれないな」
「……でも、まだ全員試してない」
「だよねー。じゃあ最後は、ゆーくんの番だよっ!」
渡されたヘッドフォン型装置。集まる視線。もはやここに逃げ場はなく、俺だけが試さないというのもそれはそれで不公平だろう。今のところ、全員平等に恥を晒しているのだから(星野さんは違うけど)。まあ、つまり「お前も晒せ」という圧を感じるわけで。
「……分かったよ。やればいいんだろ、やれば」
意を決して、ついでに少しばかり恥を晒す覚悟も決めて。
俺は『
☆
ゆーくんは観念したようにヘッドフォンを被って、スイッチを押した。
すると装置が起動して、これまで私たちがそうなってきたように、ゆーくんも酔いが回った状態になった。
「…………………………」
……あれ?
「ゆーくん? ゆーくん。おーい」
試しに顔の前で手を振ってみる。だけど、ゆーくんは一切反応しない。
「星野さん。これ、故障とかじゃないのか?」
「……そんなはずはない。正常に作動している」
さっきのほしのんみたいに、寝ちゃってるのかな。
「…………………………」
「おっ。動いた」
ゆーくんは急に立ち上がると、そのまま私のところまでふらふらと歩いてくる。
足取りが不安定で、今にも転んでしまいそうで。
「ゆーくん? だいじょうぶ……?」
そうして、支えようとしたその瞬間。
「…………………………」
「ひゃんっ!?」
ゆーくんは、いきなり私の手を掴んで、そのまま抱き寄せてきた。
私の頭はゆーくんの腕の中で、されるがまま抱きしめられるばかりだ。
「ゆ、ゆーくん……?」
こんなこと、あんまりなかった。
映画館の時とかは、混雑とかのせいもあって離れないようにしてくれただけで。でも、今は違う。別に理科室の中は混んでないし。
「急にどうしたの……?」
「…………………………」
ゆーくんは何も答えない。ただただ、私のことを抱きしめるだけで。腕の中に包み込むばかりで。
……どうしよ。心臓が、すごくドキドキしてる。聞こえてるのかな。聞こえててもおかしくないぐらい、ドキドキしちゃってる。うぅー……恥ずかしいよぉ……!
「と、とりあえずいったん離そ? ね? ゆーくん」
説得してみるけど、やっぱり離してはくれなくて。
それどころか、私をより深く抱き寄せてきた。思わず、ゆーくんの胸に顔が埋めてしまうぐらいには。
「……………………やだ」
ポツリ、と。
ゆーくんの言葉が、水滴のように落ちてきた。
「……………………離したくない」
「ゆーくん……」
なんだろ。胸が、きゅんってなってきた。
ゆーくんが、可愛く見えてきて……。
「あうあうあう~……! ど、どうしよー! こんなのありえないよー! 夢? たぶん夢だよね? ていうか幻聴? さっきの酔いが残ってるのかなー!?」
「陽菜ちゃん落ち着いて。これは現実だぞー」
「何言ってるのかざみん! こんなにもハッピーなことが現実なわけないでしょ!?」
「……片思いを拗らせすぎて、自分に都合の良い現実を受けれられないみたい」
「だって、ゆーくんは鈍感で! スーパー鈍くて! こんな……こんな夢みたいなシチュエーションにはなりっこないもん!!」
「こりゃ重症だな」
「……可哀そうに」
二人にとてつもなく憐れんだ目で見られた。
「でも……えへへ。ゆーくん、あったかーい」
ぽかぽかする。ゆーくんのぬくもりが伝わってきて、全身でゆーくんを感じてるみたいで。
その温かくて幸せな時間は、五分経つと魔法のように解けてしまった。
☆
「はぁ……なんか、どっと疲れた」
理科室での実験も終えた俺たちは、そのまま下校することにした。
氷空とも別れて、今は陽菜を家まで送っている道中である。
「あはは。そーいえば、モテるためにオトナの男になりたかったんだっけ? それはいいの?」
「オトナの男になるのは、当分先でいいや……」
少なくともしばらくはいい。というか、オトナの男になったところでモテる気がしない。
「結局、みんな酔った時のことは覚えてなかったねー」
「……そーだな。お前も自分がなにしたか、さっぱり覚えてないみたいだし」
「それを言うなら、ゆーくんもでしょ」
「…………」
つい、気まずくなって目をそらしてしまう。それをどうやら陽菜には気づかれなかったらしい。「ほしのん、今度は何を作るのかなー。楽しみだね」とかなんとか言っているのを見て、内心でほっとする。
そうしているうちに、陽菜の住んでいるマンションまでたどり着いた。
「おじさんとおばさんは、まだ帰らないのか?」
「ん。そうみたい。なんかそのうち、パーティーに出ることになってるから……今度会うとしたら、そこかな」
「そっか。じゃあまだ一人暮らしはしばらく継続だな」
「ふっふーん。羨ましいでしょ。一国一城の主だよ!」
「ぬかせ」
見上げると、マンションは天を衝かんばかりの高層を成している。
中の部屋もさぞかし広いんだろう。……だけどこんな広い家にずっと一人で居るのも、つまんないだろうな。掃除とかも大変そうだ。
頻繁に
「じゃあね、ゆーくん。また明日!」
「ん? ああ、また明日な」
手を振って、陽菜がマンションのエントランスに入っていく姿を最後まで見送ってから、歩いてきた道を戻る。
「…………………………」
一人で歩いていると、今日の出来事が頭を過ぎる。
――――……………………やだ。
――――……………………離したくない。
「…………何やってんだ、俺は」
思い出すだけで恥ずかしい。穴があったら入りたい。
どうせなら他の三人みたいに忘れたかった。
「どうして覚えてるかなー……」
頭がぐらぐらして、周りで陽菜たちが何を言っているのかは覚えていなかったけど。自分が何をして、何を言ったかは覚えている。残念なことに、覚えていた。
「…………なんであんなこと言ったんだろ」
星野さんは酔うと寝るタイプ。
氷空は酔うと愚痴を吐くタイプ。
陽菜は酔うと甘えるタイプ。
だとしたら俺は……。
――――……酔うと本当のことを喋りやすいかと思って。
「本当のこと、ね…………」
……決めた。とりあえず、成人しても酒は控えよう。
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