第15話 映画館②
売店でポップコーンとジュースを購入した後、俺と陽菜は劇場内へと入り、指定の座席についた。
「わー。映画館のスクリーンってやっぱり大きいねー。実家のより大きいから毎回ワクワクしちゃうよね」
「実家にシアタールームはないんだよ。普通は」
まさにお嬢様の感想だ。……ていうか、そうなんだよな。いつも身近にいるし、当たり前のように家で風呂に入ってくるから忘れそうになるけれど。
実家はあの天堂グループで、陽菜はそこのご令嬢なんだよな。
たまたま幼馴染だったというだけで。たまたま親同士の仲が良かったというだけで。本当なら俺みたいな一般家庭の子供が、一緒に居れること自体がおかしいわけで。
「……お前さ。結構、庶民派だよな」
「どしたの急に」
「いや。お前ってお嬢様なんだよなーってのを思い出してた」
「ふっふっふ。そうなのです。実は私、お嬢様なのです」
と、胸を張る陽菜。だがすぐに肩を竦めて、
「……って言っても、本家にいた頃は最低限の礼儀作法を教えられたってだけで、あとは座ってるだけのことの方が多かったし。パパとママに連れ出してもらった後は、向こうもあんまし『天堂家の跡取りとしてー』みたいな感じでもなくてさ。たまに付き合いとかお手伝いでパーティーに顔を出すけど、それぐらい。習い事とかもないし、結構自由にやらせてもらってるからねー。陽菜ちゃんは、あんまりお嬢様って感じでもないのですよ」
「天堂の本家か……なんか向こうは、色々言ってくるんだろ。大丈夫なのか」
「未だに私を取り戻そうとしてるみたい。……まあ、今の天堂グループのトップはパパだし、色々と裏で手を回してくれてるみたいだし。何より私もいないしね。本家も今じゃそんなに力があるわけじゃあないから大丈夫だよ」
けれど、と。陽菜は言葉を付け加えて、
「もし、何かあった時はさ。ゆーくんが迎えに来てよ」
「……無茶なこと言うなお前。傘を届けに近所まで迎えに行くのとは違うんだぞ」
「やれるやれる。ゆーくんならだいじょーぶ。気合と根性で何とかなる」
「何とかなるか。こちとらただの一般市民だぞ」
俺は陽菜のように誰からも愛されている、特別な存在じゃない。
家族からすらも見捨てられた、誰にも愛されることのなかった無力な
「そういうのは王子様の役目だろ。俺みたいなモブはお呼びじゃねーよ」
俺は。俺という存在は、陽菜のように特別なお姫様の隣にいるべき人間じゃない。
幼馴染という肩書があるからこそ、こうして隣に居ることが出来るだけで。
本来ならこうして隣に居る資格も、颯爽と助けに行く資格すらも持ち合わせていない。
モブが姫を助けに行くことなんてない。そういうのは王子様だからこそなわけで。
「じゃあ、ゆーくんの役目でしょ」
「お前なぁ……人の話を聞いてたのかよ」
「聞いてたよ。だからさ……」
映画館が暗くなった。どうやら予告編が始まるらしい。
「――――私の王子様は、ゆーくんだもん」
その時、陽菜がどんな顔をしていたのか。
暗くなった場内は、その表情を映し出してはくれなかった。
☆
映画は序盤から息をのむ激しい展開の連続だった。
クライマックスシーンでは、ピンチに陥ったヒロインのもとに颯爽と主人公が現れ、見事ヒロインを救い出している。
それが画になるのは、特別な二人だからだ。
観客から愛された、主人公とヒロインの二人だからだ。
誰からも愛されていない、その辺のモブにはきっと荷が重い。
ヒロインを救い出す資格なんて――――画面上のどこにも見当たらなかった。
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