第11話 チャット
頼んでも無いのに、陽菜は毎朝俺を起こしに来る。
そこから我が家の食卓までご馳走になるのがいつもの流れなのだが、たまにそうでない時もある。
「んあ……」
それが今日のような、外に出かける時だ。
家が近いのだから一緒に行けばいいようなものの、あいつはなぜか集合場所の待ち合わせに拘る。
そんなもんだから、今日みたいな日は珍しく一人で起きることになる。
「メッセージアプリ……陽菜か」
今の時代、誰しもが入れているメッセージアプリ。
モーニングコールと言わんばかりに陽菜からのメッセージが届いており、通知音で目が覚めた。
陽菜「ゆーくん、起きろー!」
まるで今まで起きていなかったことを見透かしたような内容である。
最初から俺が寝ていたと決めつけるとは失礼なやつだ……や、まあ。確かに今回は寝てたんだけど。
陽菜「寝ちゃダメだよ!」
陽菜「ほらほら、起きて!」
さっきからピロリンピロリンと通知音が連続して鳴り響いている。
どうやら俺が画面を開いたまま布団に戻ろうとしていると思っているのだろう。
ぶっちゃけ正解だ。あと五分とかド定番の小言を吐いて布団の温もりに身を委ねるところだった。
雄太「うるさい」
陽菜「起きた!」
陽菜「ゆーくんのねぼすけ」
画面の向こうで笑っている陽菜の顔が目に浮かぶ。
何となくこのまま引き下がるのが面白くないので、布団に寝転がりながらもスマホに次なるメッセージを叩き込んだ。
雄太「ほっとけ」
雄太「お前の方はどうなんだ」
雄太「今日はいつもより起こしに来る時間が遅いようだけど」
陽菜「実は……」
陽菜「昨日はあんまりよく眠れなくてさ」
よく眠れなかった……?
……毎晩、頭を悩ませるほどの悩みでもあるのだろうか。
だとしたら……力になれるかは分からないが、話ぐらいは聞いてやるか。
雄太「何か悩みでもあるのか?」
陽菜「違うよー」
陽菜「今日が楽しみで、ドキドキして眠れなかったの!」
雄太「遠足前の小学生か」
くそっ……ちょっと心配しちゃったじゃねーかよ。
陽菜「それとね」
陽菜「新しい寝間着を買ったから」
陽菜「すぐ寝るのが勿体なかったのかも」
ますます小学生っぽい!
なんだよ。ちょっと真剣に考えちゃった俺がバカみたいじゃないか。
布団の中で体勢を変えながら、改めてスマホの画面とのにらめっこを継続する。
あー……目が覚めてきた。本当ならもう少し寝たかったところだけど。はあ……結局、今日みたいな日にも陽菜とは寝起きに喋ることになるんだよな。それがスマホ越しの会話とはいえさ。
陽菜「あ!」
陽菜「そういえば昨日、寝間着を着た時に写真撮ったんだー」
陽菜「ゆーくんに自慢しちゃお」
というメッセージの後、送られてきたのは一枚の画像。
薄桃色の上品なネグリジェに身を包んだ陽菜が、自撮りして撮影したであろう画像だ。
ベッドに入る前に撮ったのだろう。髪はリボンでツーサイドアップにして結われたままだ。
陽菜の容姿や雰囲気も相まって、まるでお姫様のようにも見える。このスマホの画面上に添付された、たった一枚の画像が童話の挿絵にすら見えてきて。
陽菜「ね、どうどう?」
陽菜「カワイイでしょ」
陽菜「保存してもいいよ!」
……だけど、今はそういった感想よりも先に刺しておかねばならないことがある。
雄太「こんなもん送り付けるな」
陽菜「えぇっ!?」
陽菜「ひどいよ、ゆーくん!」
陽菜「もうちょっと感想とか言ってくれてもいいじゃん!」
相変わらず無自覚というかなんというか……。
幼馴染の俺だったから良いようなものの、こんなものを軽率に男に送り付けてくるかね普通。悪用されることだってありえるんだから控えろよな。
雄太「うるさいバカ」
どうやら幼馴染の心配は伝わらないらしい。
「手間のかかるやつめ……」
何も分かっていない幼馴染に対して、朝一番のため息を吐きつつ。
「……………………」
なり続ける通知音を無視して、俺は再びメッセージアプリを開く。
「…………まあ、カワイイのは認めてやるよ」
心の中ではしぶしぶ白旗を上げて、俺は添付された画像を保存するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます