第14話・護衛騎士カニチンコと大臣側近エビチンコ
「……失敗か。」
「本当に暗殺を考える方がアホらしくなってくるな。」
……何やら物騒な会話が聞こえる。
ここは王城のとある一室。
悪意に満ちた男二人が悪巧みをしているのだ。
「あんのアホ勇者め、まさか雪を食べないとはな。あれは想定外だった。」
「まさかワーロックが先に口をつけるとは……。せっかく殺人ウィルスを狼のションベンに仕込んだと言うのに。」
なんと!!
これは聞き捨てならない会話を耳にしてしまった……。
この二人はタケシを暗殺しようと言うのか?
まさか、このリユツーブ王国で市民に愛されている男が暗殺の対象になろうとは。これは是が非でも下手人の顔を拝んでみようと思う。
ん? この下手人、どこかで見覚えがあるぞ?
「カニチンコの旦那。『ゲリクサー』は失敗したわけだが、次の手はどうする?」
なんとも下品な名前で呼ばれている男、………ああ!! お、お前は!!
「けっ!! 俺は王女殿下の心を弄ぶ右寄りチ○コ野郎をどうにかできれば方法なんてなんでも良いんだよ!!」
勇者たるタケシに不敬な殺意を抱くこの二人の片割れは、このリユツーブ王国の継承権第百位リンの護衛騎士だったのだ!!
確かに、この男はタケシを恨んでいる節があった。だが、まさか彼の心がここまで闇に包まれていようとは……。
そもそも実名がカニチンコと言うのは、何ともコメントのしづらいところである。
「カニチンコの旦那、あれは仕方がないさ。何しろ、ワーロックの野郎が毒見をするなんて想定できないぜ?」
あれって毒見だったのか?
因みにワーロックはあれから下痢を催し続けており、絶賛『トイレの住人』と化している最中だ。彼は盗賊団の手下たちにトイレを空けるように説得を受けている真っ最中である。
今回の事件を契機にスビーエ王国では公衆トイレが有料化することになろうとは。この時のタケシとワーロックは知るよしもない。
ゲリクサー、恐るべし。
「エビチンコの旦那、あんたこそ勇者の野郎に毒を盛ったはずだが? 俺にはよく分からなかったが。あれは何だったんだ?」
エビチンコと呼ばれる男、こいつもまた見覚えがあるぞ? ……確か、あ!! この男は、もしやノーベルの側近の!!
だが、こいつにはタケシを恨む直接的な要因はなかったはずだが? これもまた、どう言うことだろうか?
「あれはヤマウルシの葉だよ。……勇者の野郎が、かあちゃん側室殿下と仲が良いから、『男の象徴』を成敗してやっただけだ。 苦労したぜえ、……すり替えるのに。 」
「え? エビチンコの旦那は側室殿下の公式ファンクラブ会員だったのか!? 側室殿下も良いよなあ……。萌えるよねえ。」
「カニチンコの旦那も側室殿下の良さが分かるか!? 俺なんて側室殿下にハラワタを抉って欲しいからグッズについてくる『ハラワタ抉り交換券』を集めてるんだよ!!」
「分かる、分かるぞ!! そうか、エビチンコの旦那はアホ勇者がかあちゃん側室殿下にチューをされたことが許せないんだな!?」
「そうなんだよ!! ファンクラブの公式SNSで、そのニュースを見たら殺意が芽生えちゃってさ!! ……でも、あれって本当につい最近なんだけどね。」
何やら、物騒な話題で盛り上がっているようだが。しかし、そうか。タケシの『男の象徴』がカブれた事件の下手人はこのエビチンコだったのか。
と言うか、かあちゃんって公式フンクラブが存在するほどに人気があるとは、これまた恐ろしい事である。それは、この国の中枢が元・魔王にお熱という事なのだから。
本当にこの国の中枢は大丈夫なのだろうか?
そもそも、こいつも実名がエビチンコって……。やはりコメントしづらいところである。
この二人、思った以上に業が深いぞ?
「エビチンコの旦那。俺はよ、王女殿下のファンクラブに入会してるんだけどさ、会員ナンバー0001なんだよ。」
「えっ!? カニチンコの旦那、実は俺もかあちゃん殿下のファンクラブ会員ナンバーが0001なんだよ!! ……と言う事は、あんたも例の件に疑惑を?」
「ああ、……勇者の野郎が俺が愛する王女殿下のファンクラブ会員ナンバー1104で、かあちゃん側室殿下のファンクラブ会員ナンバー1108なんだよ。……これって狙ってやってるのか?」
因みにリンの誕生日は「良いお尻の日」で11月4日に対して、かあちゃんは「良いおっぱいの日」となる11月8日である。
勿論、タケシは狙った上で両ファンクラブに入会しているわけだが。この世界において彼の情報戦に叶う人物はいない。
こと、かあちゃんのファンクラブ会員ナンバー獲得に至っては『漆黒の傀儡』こと、優秀なハッカーであるカジットすらも涙したほどである。
この件についてカジットはSNSで落ち込みぶりを呟いている。
しかし、この一連の出来事を鼻くそを穿りながら難なく実行するタケシは『本物の悪』と言えよう。
「俺は今度のかあちゃん側室殿下のデビューコンサートのチケットを既に購入したんだよ!! 勿論、最前列を確保したぜ!! カニチンコの旦那はどうだ?」
「エビチンコの旦那もか!? 俺も最前列を確保したんだよ。クソ勇者はコンサート会場が『アイテム』だから、どうせ入場できないんだろうよ。はっはっはっは!!」
因みにタケシはかあちゃんからVIP席のチケットを貰っている。彼はシヨミと一緒にコンサートを観戦する約束までしているわけだ。この二人が何とも憐れに思えてならない……。
さらに言えば、タケシの呪いを考慮したまあちゃんによってコンサート会場が全て餅米で建設されていることから、まあちゃんのタケシに対する愛を感じるところである。
「そう言えばエビチンコの旦那は先代様が買われた国外産の葉っぱにも何かやったんだろ?」
「いっやあ、あれは失敗したよ。まさか先代様が輸入先の飢饉を憂いて、あそこまで高値で買うと思わなかった……。まさか、それが原因で俺たちがボーナスをカットされるとは、さすがは『太陽王』と言うべきか。因みにあの葉っぱには蜂のフェロモンを仕込んだんだよ。ふふふふふ……。」
「そうか!! と言うことは、今頃は勇者の『男の象徴』が蜂に襲われていると言うことだな!? それはファインプレーだぜ、エビチンコの旦那!!」
だが彼の作戦は脆くも崩れ去っていることは、この二人には知る由もない。
エビチンコが葉っぱに塗布したフェロモンはミツバチのものであり、タケシの『男の象徴』には絶賛、蜂の巣が建設されている真っ只中である。勇者はハチミツを採取できる日を涎を垂らしながら楽しみにしているのだ。
さらに言えば、タケシの『男の象徴』はミツバチに攻撃を受けて絶賛巨大化中である。……腫れ上がっている、と言う表現もできなくもないが。
タケシとこの二人の『男の象徴カースト』は拡大する一方である。
もうツッコんでいて恥ずかしいんですけど?
「そう言えばカニチンコの旦那、あんたも悪い奴だよな。あんた、今年の流行語大賞に細工したんだってな?」
「ああ、今年の流行語大賞が『地震・雷・火事・タケシ』になればクソ勇者の評判持ちに落ちると言ったものさ。はっはっはっはっは!!」
高笑いをするカニチンコではあるが、この時の彼は知る由もない。この標語が大賞として公表された後、このリユツーブ王国の火事発生率は前年度比の10%以下となる。タケシにCM出演や一日消防署長などのオファーが殺到し、無一文状態から脱出できるとは思いもしないだろう。
このタケシへのオファーが原因で、翌年のリユツーブ王国はCMやポスターに彼の露出が増え、結果としてモザイクだらけの一年となるわけであるが。
翌年の流行語大賞が『モザイク』となる未来が見ている、さすがは子供にムーブメントを巻き起こす男である。
と言うかタケシって運のステータスが低いはずなんだけどね?
お? どうやら人は一線を越えると、その報いを受けるらしいな。
……廊下から大勢の人間の足音が聞こえてくるではないか。この二人も観念せざるを得ないだろう。
ここ王城の一室が外からの侵入者に驚いて静寂が去っていくではないか。
「テロリストども、神妙にお縄につけい!!」
「え、財務大臣様!? カニチンコの旦那、これはどう言うことだ!?」
「俺にも何が何だか……、どうして財務大臣様がここに!?」
「ノーベル殿、……我が愛しのタケシ様に悪事を働く虫けらはいましたか?」
「はっ、殿下のご助力感謝いたします!! この悪そうな顔つき、……タケシ殿を貶めた罪は重いぞ!!」
「ノーベル殿のタケシ様への敬意は重々承知しております。本当に頼って良かった。」
「いえ、私の今はタケシ殿から頂いたようなもの。……この虫けらどもを排除して、あの方への恩返しとさせて頂く!!」
「「ひょえええええええ!! 王女殿下!? 目が怖い!!」」
「にゃは♪ タケちゃんを悪く言う奴は…………殺すぞ?」
「「うひょおおおおおお!! かあちゃん側室殿下まで!?」」
見苦しくも震え上がり、抱き合うエビとカニ。この後、彼らは真っ裸にされたまま一生涯『男の象徴』からヤマウルシの葉を外すことを禁じられることになる。
見苦しいは男の嫉妬。だが男は男に嫉妬するもの。悪しき感情ながら、それ無くして男は自分を高めようとしない。比較するからこそ明確な目標を糧として努力をするのだから。比較する対象が自分か他人の違いだけ。
タケシは現状に憂いをボヤくものの、常に現状の自分と戦っているのだ。
前を向いてこそ勇者である。
「ぶえっくしょん!! ふいいい、誰かが俺の噂でもしてるのかな? それにしても、この世界のミツバチは冬でも蜜を集めてくるんだからすごいよなあ。巣の中で羽ばたいて熱を起こしてくれるからカイロ代わりにもなるし、最高だぜ!!」
世界を救った勇者に乾杯。
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