5話目 ウクアージはまた君たちと戦いたい
「きつかった……いや……いくらウクアー・ジオを呼び出すためとはいえ、やりすぎじゃないか?」
「いえいえ、このぐらいやらないと確実とは言えませんから」
『ウクアージたちを全員修業しなおして、ウクアー・ジオを呼び寄せましょう』
吟遊詩人はそうアルドに提案した。戦いが至上の存在だからこそ、おびき出すには戦いしかない――というのが彼の解答だった。
そんなにうまく行くかなあ? という疑問が浮かびはしたが、この提案に乗ったのは他でもないウクアージ達だった。全員がアルド達の後をついてきて、次元の狭間で修業の日々を送った。
「もうへとへとだよ……」
アルド達は満身創痍気味にそう呟く。
「アルドさん、約束の果実食べますカ?」
「いや……そろそろ別のお弁当が食べたいな?」
いくら近くに体力を回復させてくれる食料があるといっても、そろそろ飽きてきたアルドである。溜息混じりに上を向くアルドだったが――。
「……!」×100
ウクアージ達も一斉に反応し、上を見る。そこには――。
「本当に……来た!」
次元の穴が開き――巨大な――ウクアー・ジオが地面を揺らし次元の狭間に降り立った。
「……っっっ」
立ち並ぶ100体のウクアージを前に、ウクアー・ジオは満足そうに舌を出す。
まさに一瞬即発――ウクアージ達とにらみ合う。
しかし、それを制するように一体のウクアージがウクアー・ジオの前に立ちふさがった。
「……」
吟遊詩人の相棒――アルド達の強敵(ライバル)ウクアージ。
まるで100体のそれを代表するかのように、ウクアー・ジオの前に身をさらす。
100体のウクアージ達は『行け』と言うかのように後ろに下がっていく。
にらみ合う二体のウクアージ。
そして、再び――星の煌きのごとき拳戟が開始された。
「うわっ!!!!」
「……っござるっ!」
「すゴい……」
思わずアルド達は息を吸うのも忘れその光景に見入る。
ウクアージは一歩も引かない。この数日、ウクアージ×100と共に修業をし、磨き上げた技と力でウクアー・ジオと互角に渡り合う。
しかし問題は――。
再び――ウクアージから煌きが零れ出す。それをウクアー・ジオが吸い上げ始める。前回と同じ悲劇が起ころうとしていたが――。
「今です!」
見守っていた吟遊詩人からの掛け声で一斉に動き出す者たちがいた。それは――。
「……ッッ!?」
後ろに控えていたウクアージ達――その時、100体のウクアージ達が高速で戦場内を前後に入れ替わり始めたのだ。
「あれは――」
「ええ、完成しましたね。ウクアージ達の『ヴァリアブルチャント』が」
ヴァリアブルチャント――後列(サブメンバー)から前列(フロント)にやってくることで発動する強化・弱体化(バフ・デバフ)効果である。
アルド達もこの効果を利用して様々な敵に立ち向かってきた効果を――この修業でウクアージ達は習得したのだった。
「もちろん今までは覚えることが出来なかった技ですが――」
そうウクアージはいつも単体で戦っていた。だからアルド達と修業しても、なかなかこの戦闘効果の恩恵に与ることはできなかった。しかし今は――『仲間』がいたのだ。
そして――それぞれに覚えさせた『100匹のウクアージによる』『100回分のヴァリアブルチャント』が今まさに、炸裂する――。
――敵全体に物理耐性30%DOWN・味方全体に腕力30%UP+知性30%UP・味方全体に全属性耐性25%UP・敵全体に斬耐性30%DOWN・敵全体に斬属性耐性25%DOWN+火属性耐性25%DOWN・味方全体に知性35%UP・味方全体に水属性耐性30%UP・味方全体に速度30%UP・敵全体に腕力20%DOWN・自身に速度30%UP+クリティカルダメージ30%UP(3ターン)・敵全体に知性20%DOWN・味方全体に腕力40%UP・味方全体に回復(大)・地属性耐性20%UP・味方全体に火属性耐性20%UP・味方全体に土属性耐性20%UP・味方全体に水属性耐性20%UP味方全体に風、晶属性攻撃30%UP+速度30%UP・味方全体に火属性攻撃40%UP・味方全体に火属性耐性30%UP・自身に火・陰属性攻撃30%UP+クリティカル率100%UP・味方全体に消費MP50%DOWN・味方全体に物理耐性30%UP・敵全体に腕力15%DOWN+物理耐性15%DOWN・水属性耐性30%UP・敵全体に水属性耐性25%DOWN・自身に腕力20%UP+速度20%UP・味方全体にMP回復30+速度20%UP・自身の腕力30%UP・敵全体に突耐性30%DOWN・味方全体に風属性攻撃力35%UP+敵全体に風属性耐性25%DOWN・味方全体に状態異常無効(1回)+状態異常回復・味方全体にMP回復30・味方全体にHP回復1000・敵全体に速度20%DOWN+物理耐性20%DOWN・味方全体の消費MP50%DOWN・味方全体の状態異常回復・敵全体に毒付与・味方全体に打耐性30%UP・敵全体に腕力20%DOWN+知性20%DOWN・敵全体に水属性の突攻撃(大)+物理耐性20%DOWN敵全体にペイン付与・風属性耐性25%UP・敵全体に突属性ダメージ(大)・敵全体に速度15%DOWN・味方全体にMP回復40+自身に状態異常無効1回・味方全体に消費MP50%DOWN+全属性耐性30%UP・自身に陰属性攻撃30%UP・敵全体に火属性の突攻撃(大)+腕力20%DOWN・味方全体に腕力30%UP+物理耐性30%UP・全属性耐性35%UP・自身にクリティカル率100%UP・いずれかの敵に地属性の魔法攻撃(中)2~4回+敵全体に地属性耐性20%DOWN・味方全体に全属性耐性20%UP+状態異常回復・味方全体に腕力30%UP+敵全体に知性20%DOWN・敵全体に突攻撃(大)+弾丸を5発装填する・味方全体に速度30%UP+敵全体に腕力20%DOWN・敵全体に物理耐性15%DOWN・敵全体に風属性の突攻撃(大)+物理耐性20%DOWN・敵全体に速度15%DOWN+物理耐性15%DOWN・味方全体に治癒(大)を付与(2ターン)・味方全体に腕力30%UP+物理耐性30%UP・味方全体に腕力20%UP+火属性耐性25%UP・敵全体に速度15%DOWN+斬属性耐性20%DOWN・恐怖を1蓄積・味方全体に地属性耐性40%UP・敵全体に風属性の突攻撃(大)+気絶を付与・味方全体に状態異常無効(1回)・敵全体に速度20%DOWN・敵全体の知性20%DOWN+全属性耐性20%DOWN・敵全体に打耐性25%DOWN・敵全体に全属性耐性15%DOWN・敵全体に突耐性20%DOWN+風属性耐性20%DOWN・敵全体に風属性耐性30%DOWN・敵全体に速度20%DOWN・味方全体に腕力35%UP+敵全体に斬属性耐性25%DOWN・敵全体に腕力15%DOWN+物理耐性15%DOWN・味方全体に物理耐性30%UP+敵全体に挑発を付与・味方全体に斬武器種装備者ダメージ30%UP・味方全体に腕力30%UP+速度30%UP・味方全体に物理耐性30%UP+水属性耐性30%UP・味方全体に回復(大)+知性30%UP・味方全体に突属性耐性20%UP・味方全体に斬耐性20%UP・味方全体に打耐性20%UP・自身に土属性攻撃50%UP・味方全体にクリティカル率100%UP・味方全体に消費MP90%DOWN・味方全体に斬耐性20%UP・自身にHP回復50%+MP回復50%・斬攻撃タイプ敵全体に斬耐性20%DOWN・回復タイプ味方全体に全属性耐性15%UP・魔法タイプ敵全体に全属性耐性15%DOWN・敵全体に挑発を付与・烈火陣を展開する・風王陣を展開する・水天陣を展開する・地裂陣を展開する・煌斬陣を展開する・轟打陣を展開する・幻魔陣を展開する・瞬突陣を展開する――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……ッッ!?っvq635767q6q8え78w865q8q7q77375q877q8657ッッッ!!!!!!」
ウクアー・ジオの声にならない叫びが地鳴りのように響く。
まるで『信じられない』――というかのように。
力の吸収以上の速度で弱体化され続けるウクアー・ジオと強化され続けるウクアージの差は毎ターン開き続ける。そして――。
「―――――――――――………(ばたり)」
虹の光彩迸るウクアージの拳がウクアー・ジオを貫き――ゆっくりとその巨体は崩れ落ちる。そしてプリズマの力がウクアー・ジオから抜けるように――それは煌きとなって101体のウクアージ達に降り注ぐ。
「やった――か?」
「……!」×100
しかし、ウクアージ達の様子がおかしい。降り注ぐ『プリズマ』の力に耐えきれぬように――一体、また一体と次々に倒れていく。そして――。
「ウクアージ達の様子がっ!?」
ウクアージ達が光に包まれ、混じり合うように一つの大きな塊に変化していく。
「でっっっ……でっか!?」
合体し、光彩を放つ――更に巨大になったウクアージがアルド達の目の前に姿を現した。
「――おそらく、あのウクアージに宿った『本体』が分離したのです」
「本体!?」
吟遊詩人が険しい顔でアルドに告げる。
「はい、もともとウクアージに寄生していた、あれこそがプリズマの力の源だったのでしょう。そしてそれはまたしてもウクアージ達を取り込み――今もっと大きなものになろうとしています」
「それ――まずいじゃないか!」
再び大きくなってゆき復活しつつあるウクアー・ジオを前にアルドは焦る。
「ですが、まだ今なら間に合います。あの力が完全にウクアージ達に定着する前に、倒しましょう!」
「……わかった! よし、みんなやるぞ!」
アルドは愛刀オーガベインを抜き、仲間を鼓舞するようにウクアー・ジオへと突撃した。
(戦闘パート)
「……なっっ」
アルドはウクアー・ジオに剣を叩きつけたが――そのあまりの『歯ごたえのなさ』に驚愕する。
「切ったけど――感触がない!?」
ダメージが通った気がしない――アルドはそう感じた。
「実体が不安定なんでス!」
リィカがそう分析し、アルドに伝える。ジオプリズマの力が定着してない影響か――その身体はふわふわとした、まるで霞を切るような感触しか彼に伝えない。
「実体が不安定――お化けみたいなものってことか?」
「有体に言えばそういうことでござろう――拙者の剣も通り抜けるでござる」
「じゃあ魔法か――」
その言葉にどこからともなく光の魔弾が飛ぶが――それも吸収されるように消えていく。
「駄目だ、攻撃が通らないぞ!?」
「困ったでござる……」
「くっ――なにか一気に削らないと……このままじゃ復活されるっっ!」
万策尽きた――かに見えたその時だった。ウクアージが入れ替わるようにアルド達の列(フロント)に加わったのは。
そして――その瞬間にアルド達の『アナザーフォースゲージ』がMAXに溜まり切る。
アナザーフォース―― ゲージを消費することで一定時間攻撃し続けることが出来るいわゆる――必殺技である。強力な必殺技であるがゆえに貯めが必要なのだが、ウクアージの『ヴァリアブルチャント』がそれを可能にしたようで――。
「――これは」
「今です、アルドさん!」
一瞬呆然としたアルドだったが、リィカの声に突き動かされるようにアナザーフォースを発動させる。
「どりゃあああああああああああああああああああああああああ!」
ズバンッッッ!!!!!
アルドとオーガベインの合わせ技が揺蕩(たゆた)い、掴みどころのなかったプリズマの力を断つ。
そしてようやく――この長い戦いは終わりを告げたのだった。
「あ――」
煌くプリズマの残滓が今、ウクアー・ジオがはじけ飛んだ衝撃で空いた次元の穴へと消えていく。そう――他のウクアージ達の身体と共に。
「……」
それをウクアージは見つめている。流れゆくそれを、ただ、無言で――。
「相棒……ついて行っても良いんですよ?」
その傍らに立つ吟遊詩人がそう呟く。
仲間を追いたくないか? と彼は言っているのだ。もうこの場所にこだわることはないから、どこへでも行き、思うように生きればいい、と。
皆と一緒に、どこへとも――。
「……」
ウクアージは名残惜しむように吟遊詩人と見つめ合ったあと――。
「あ――」
次元の穴に身を躍らせた。そして――ウクアージはアルド達の前から消えたのである。
※※※※
「行っちゃったな。吟遊詩人――寂しくしてないかな」
ウクアージの去った後、次元の狭間に居た吟遊詩人も旅に出ていた。
激闘と別れを経た今、アルド達は久しぶりに自分たちの故郷バルオキーを訪れていた。
晴れた池のほとりでアルドは伸びをする。
「うーん、やっぱり落ち着くな」
故郷とは良いものだ――とアルドは思う。何かあった時に帰れる場所、待っている気心の知れた人々――その拠り所が人に力を与えるのだと、その想いを強くする。
「今頃何をしているんだろうな――」
旅に出たウクアージのことを思い出す。
そう、あの惚けたような顔を――。
「きっと、楽しくやってますよ」
「え?」
アルドの背後にはいつの間にか吟遊詩人が立っていた。
「相棒はアルドさん達のお陰で強くなれました。その強さは決して一人では手に入らないものです。その力があれば――どこへ行っても寂しくないし、楽しくやれていると思いますよ?」
「そう――だといいな」
アルドはその言葉に少し照れ気味に答える。
「でも、寂しくないか?」
「……いえ、旅をしていればいつかまた逢えますから」
吟遊詩人の言葉には寂しさは少しも滲んではいなかった。そこにあるのは、次に逢える時への期待と――。
「楽しみです。どれだけまた、強く大きくなっているか」
成長した相棒の姿を見られる喜びだった。
アルドと吟遊詩人は空を眺める。そして――。
「……」
「……アノ、二人とも」
リィカが小声で二人に話しかける。しかし二人は気分に浸っているようで、気づかない。
「……」
「……アノ」
「なんだよリィカ?」
「先ほどから――もう一つ視線を感じませんカ?」
「え?」
リィカは『池の水面』を指さす。そこには――。
ぷかり。
「……」
「――あ」
「……相棒」
アルドと吟遊詩人の見つめる先がぶつかる。そう、水面に浮かぶウクアージに。
「……」
何も言わずにウクアージは水から上がり、アルド達の前に立つ。
「……戻ってきたのか?」
「……」
アルドが尋ねるがウクアージは答えない。答えてないはずなのだが――。
「……そうなのですね、わかりました」
「だからなんでわかるんだ!?」
したり顔で吟遊詩人が答えアルドが何回目かわからない、同じツッコミをする。
「……と、言うわけでウクアージは戻ってきたようです」
「……略さないでもらえる?」
「え? 聞こえませんでしたか?」
「いや、絶対に確信犯だよな!?」
「アルドさんのノリツッコミも以前より5割ほどレスポンスが上昇したのを感知しまシタ!」
「リィカも悪乗りしないでくれる!?」
そんな掛け合いをしているのを横目に、ウクアージは小さく口を開け――
「……」
何も、言わなかったように見えた。
「……検知しましタ」
リィカは聞いていた。僅かな空気の振動を。ウクアージに取り付けた解析装置は――しっかりとその役目を果たしていたのだ。
『アリガトウ――マタ、アソボウ』
「なあ、何を言ったんだウクアージは?」
アルドが吟遊詩人に何度訊ねても、彼は笑うだけで答えをくれはしなかった。
「黙っている方が――面白そうデスね」
メカの少女は表情を動かすことなく笑ったのだった。
ウクアージの憂鬱 @maabou
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