4話目 ウクアージは強くなりたい

 ※※※

 

 トト・ドリームランド内の片隅にある、寂れた建物。

 『ウクアージワールド』と名付けられた遊戯施設。

 そこではウクアージという生物をプレイヤーがカスタイマイズし戦わせることができる。電脳遊戯空間である。

 遊戯場の休憩所にはウクアージのカプセルトイや、ウクアージの人形キャッチャーなど――それらを題材にした各種商品、遊具を取りそろえている。

 トト君だけではなく多角的に人気者を増やそう――そんな意図がこの場所にはある。いや――『あった』のだが、今はもうその役目を期待されてはいない。

 その奇妙なフォルムはナグシャムの末裔の飼っていたペットに由来していたらしいが――決して一般受けはしなかったのだ。

 その一角――カプセルトイ内にいたのが『吟遊詩人の相棒・ウクアージ』である。


 いつしか遊園地自体が寂れ――ウクアージ達も忘れ去られ、打ち捨てられた。しかし――ある存在が彼らにも命を吹き込んだ。そう――『ジオ・プリズマ』である。

 偶然――気まぐか――ジオの力で目覚めた遊具たち。その力はウクアージ達にも及んだ。

 そしてその中で一番最初に目覚めたのが――『ジオ・プリズマ』に直接触れられた『巨人・ウクアージ』である。

 そのウクアージは施設入り口の巨大な人形だった。そして最初に奪った力の一部が――次元を超越する力である。

 それを手に入れた巨人は仲間を各地に解き放った。年代も、大陸も別にして――いつかまた――ウクアージ達が集うその時を期して。

 巨人は思った、戦うのだ、と。

 自分たちはただ、戦うために生まれ、それが無ければ存在価値はない。

 競い合う相手がいないなら、作り出さねばならない。

――いや正確には、そんな難しく考えたかは今はもうわからない。だが、本能がそうさせたのだ。『戦うのだ』と。

 そしてさらにこうも思う――『最強になりたい』と。

 己に組み込まれた意思を忠実に実行する。

 本能であり、意志であり、理想であり、どれでもない。

 しかしそれは一人では成しえない。

 だからすべてのウクアージを解き放つのだ。

 そして――最強へ至り――。


※※※


「――目が覚めたか?」


 アルドの声に、ウクアージは目を瞬かせる。

 そして、すっく、と立ち上がり――その瞳を真っすぐに見据える。


「……」

「……わかった」


 吟遊詩人が言わずとも、アルドにもウクアージが何を言おうとしているのか理解出来た。


「リベンジしたい、よな」


 アルドは胸を叩いて応える。


「ですね。負けっぱなしで終わるなんて、相棒らしくありませんし」

 

 吟遊詩人もそう笑顔で頷く。それにこたえるかのように、ウクアージは空を見上げた。


「しかしあの巨大なウクアージ、強かったな」

「ええ、しかも見たところあれはジオ・プリズマの力の一部を取り込んでいます。あれはおそらく――このウクアージ達の長のような存在なのでしょう。彼が生まれたからこそ、他のウクアージ達も生まれた……」

「つまり、戦わせた張本人、てところか」

「ええ。そしてその力を取り込み更なる高みを目指し再び旅立ちました。このままでは――もっと恐ろしい存在に昇華されてしまうことになるかもしれません」

「それはちょっと――困るなあ」


 ちょっと、どころではないことは言っているアルドにもわかっていた。

 ジオ・プリズマの力を放置しても良いことはない。それが特に、争いを生むような存在に宿っているとしたら――。


「倒すしかありませんね」

「ああ。でも――あいつ何処へ行ったんだ?」

「それに関しては――あてはあります」


 吟遊詩人の言葉にアルドは振り返る。


「あの巨大なウクアージ……おそらくジオ・プリズマの力を取り込んだ新たな存在――区別するために――『ウクアー・ジオ』と名付けましょう」

「ウクアー・ジオ……」

「そのウクアー・ジオですが次元の穴を移動していることは明白です。ですから、待ち伏せをしましょう」

「待ち伏せ?」

「はい、その方法は――※※※」

「……うまくいくかなあ?」


 吟遊詩人からその方法を聞いたアルドは首を捻る。


「来ますよ。ウクアー・ジオは強くなりたい――その願いから産まれたものです。ですから同じように強くなったウクアージが現れればおのずとまたやってくるはずです」

「でも――そのためには」

「ええ――相棒には力を戻してもらわないと」


 弱弱しく、最初の出会った頃の姿に戻ってしまったウクアージをアルドは見つめる。


「よし、修業するか! ……でも」


 アルドの顔が曇る。そう、ただ強くなるだけでは駄目なことがわかっているからだ。


「ウクアー・ジオは敵の能力を吸い取ります。それを込みで――戦う算段をつけないといけません」

「無茶を言うなあ……」

「ええ、しかも――」


 アルドは嫌な予感がして振り返る。そこには――。


※※※


 ウクアージとの戦闘をアルド達はこなす。しかし、吟遊詩人にこうも言われていた。

『普通に勝つだけでは駄目です。何か彼に、覚えさせて下さい』

 アルドは考える。戦闘中にある行動を取ってからでないと修業は終わらないらしい。その方法とは――?


 ※※※


「さて、これで十分強くなった――とは思うけど」


 次元の狭間――すっかり元の姿に戻ったウクアージを見て満足げに頷くアルド達だったが――。


「……」×100


 もはやどう突っ込んだらいいのかわからないが、アルドの後ろには100体のウクアージが所狭しと集っていた。

 そう、アルド達はあの時トト・ドリームランドにいたすべてのウクアージをこの場に連れてきて修業をつけていたのである。


 アルドは廃遊園地で振り返った時のことを思い返す。

 そう、そこには無数の小さなウクアージ達が、自分たちも修業を――と立っていたのだから。


『無理だよおおお~~~~』


 その時アルドの嘆きが廃遊園地に木霊した。

 しかしやらないわけにはいかなかった。アルド達はその日から、入れ替わり立ち代わり――ウクアージの修業に明け暮れることになった。

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