第3話 勇者VS魔王
ーーー白の紐パン
勇者がその言葉を口にした直後、落雷が落ちた。
「な、何を言っとるんじゃキサマ!!」
現在、魔王は宙に浮いている。しかも格好は際どいドレスタイプ。
まぁ、ようは見えなくもないのだ。地上から目を凝らせば。
それも勇者の超強化された視力ならば造作も無かった。
「意外と清純派なんだな白って」
「その話題から離れろ!」
降り注ぐ魔法の嵐。
千の雷が勇者を貫こうとする。
しかし、流石はここまで戦い抜いてきた勇者。
剣を使わずに身軽なステップで攻撃を避ける。
その視線は魔王のーーー下半身に釘付けだが。
「見るな!」
頬を赤くしながらドレスの裾を押さえて魔王は地面に着地する。
事前の脳内リハーサルでは、遥か上空から一方的に蹂躙する予定だったが、計画が変わった。
本来であれば、高貴なる魔王を人間と同じ大地に立たせるなど無礼千万。
ただの人間と魔王にはそれくらいの地位が異なるのだ。
しかし、自主的に降りたのでそんな文句は言えないのだった。
「塵ひとつ残さんぞ!」
全力を出すためにマントを脱ぎ捨てる。
マントの防御力や性能は折り紙付きだが、動きにくく重たい。
とはいえ、常に魔法による障壁を張っている魔王からすればそんなものは大した意味は無く、ただ魔王としての威厳を衣装から出そうという考えだけだった。
激化する攻撃。同じ目線の高さであれば流石の勇者でも魔王の下着を見ることは出来ない。
虚を突かれたが、果たして今度こそ勇者はどのような言葉を口に出すのか。
「おっぱい!」
「……ッ死ね!!」
ガン見だった。
大きく開いた魔王の胸元を見てただ一言、おっぱいと発言したのだ。
しかも元気よく言ったので魔王はカンカンだった。
一瞬、『おっぱい? 聞き間違いかな?』とも考えたけど、第一声で下着について追求した勇者だ、そんな事は無かった。
「A…B…C……」
デタラメに魔法を放つ魔王だが、勇者はその弾幕をすり抜けながら何かを唱えている。
ーーー特定の詠唱を必要とする魔法か!?
魔王は魔界ある幅広い
ABCの文字で始まる呪文と言えば、敵を金縛りにしたり、魔力の縄によって動きを拘束する系統の魔法が存在する。
ーーー妾くらいしか知り得ない超高等魔法を!?
油断ならない相手だと認識を改める。
そういえば、勇者の仲間には魔法を極め、賢者と呼ばれる人間がいた。彼ならば魔王と同等の知識を持っており、それを勇者に教えたのかもしれない。
「……E………まさかFカップか!?」
「戦闘中に何を計っておるのじゃキサマは!!」
全く関係無かった。
勇者はただ注視していた魔王のバストサイズを計測しているだけだったのだ。
見るだけで測定する技能は果たして勇者の旅に必要だったのか?
ちなみに余談ではあるが、最近の魔王は胸のブラジャーがキツくなってきたので新調するかどうか悩んでいる。
「魔王……スリーサイズはいくつだ!」
「だぁあああああああああああああっ!!」
胸の計測は終了したのか、お次はウエストとヒップについて質問して来た。
ここまでくれば返答は必要ない。魔王はこの男を抹殺するのに躊躇しない。必ず殺す。
人間の分際で魔王を侮辱し過ぎた。
慈悲など無く、ただ作業として処分……駆除しなくてはならない。
「俺の所は貧乳の剣士とロリの聖女しかいないんだ」
「だから何だというのだ!?」
魔王は勇者が理解できない。
あと、貧乳呼ばわりされた女剣士が倒れた。魔王は何もしてない。
老賢者が「貧乳はステータスなんじゃ…」とか言ってる。
「魔王、お前はエロい!」
「ブッ!?」
思わず噴き出した。
魔王とて性別上は女。
自らを美しい存在であり、他者を魅了する魅力を持っていると自負している。
魔王軍の中にも魔王の姿に目を奪われ、熱を出す者だっている。
だがしかし、面と向かって『エロい!』なんて言われた事ない。
「妾はエロくなどない!」
「いや、エロい! エッチだ! スケベだ!」
……エッチ……スケベ……。
魔王の頭の中は真っ白になった。
今まで生きてきた人生の中でそんな事を言われる機会は無く、
ーーーいや、あってたまるか。
「魔界にその名を轟かす魔王。妾こそが法であり秩序。いずれ世界をちゅちゅうに、」
「噛んだ! 可愛い!」
「ーー手中に収める存在なのじゃ! 噛んでないのじゃ!!」
怒りと羞恥で顔を真っ赤にする魔王。
もしこの場に魔王軍がいれば、怒りに燃えた魔王の魔力に恐れを抱くのだろうが、部下はいない。
戦況を確認するための兵士も待機はしているが、遥か遠くにいるし、鳴り響く轟音に怯えて近づく事はない。
「萌え、萌えるぞ魔王!」
「燃えて無くなれ!!」
超高火力の黒炎は対象を燃やし尽くすまで消えることは無い。
かつて、魔王に歯向かった愚かな幹部がこの炎に焼かれて死んだ。その処刑の場には未だに黒炎が残り、大地を焼いているという。
魔王が記憶した魔導書に刻まれていた炎系の最上位魔法とまで呼ばれる魔法だ。
それを正面から浴びれば勇者は死ぬ。
「危な!」
だが、その炎は勇者が咄嗟に抜いた剣によって弾かれてしまった。
ーーー勇者の持つ聖剣か!
聞いた覚えがある。勇者が魔族の天敵になり得るのはあらゆる魔法を無効化する能力が付与された聖剣があるからだと。
つまり、暗黒の炎とはいえ魔法攻撃では致命傷にならない。バターナイフのように切り取られてしまう。
「厄介な……」
だが、面白くなったと魔王は口角を上げた。
勇者と魔王という最終兵器同士の戦いはこうでなくてはならない。
「笑顔も素敵だな!」
「………ーーー」
無視した。
会話をするだけ無駄だ。
もしかしたら勇者は変な事をわざと言って魔王の油断を誘おうとしているのかもしれない。
魔王の放つ魔法の嵐を掻い潜り、聖剣を使ったとはいえ、高速で噴出された炎を防げるだろうか?
ーーーこの勇者、出来る!
「無視か……クールな姿も推せるな」
「もう喋るなキサマ」
本人にその気が無くても口を開く度に魔王の戦意が削がれる。
まだ魔力の残量には余裕があるのだが、それを使用する精神力はごっそり減っていた。
ーーーどう攻めるか?
ゴウッ!!
魔王が次の一手を考えている瞬間、斬撃が飛来した。
「ほぅ……」
目を逸らすと、先程まで魔王のプレッシャーによって動けないでいた勇者パーティがこちらに武器を構えていた。
斬撃を飛ばしたのは女剣士なのだろう。しかし、魔王の分厚い魔力の壁に阻まれてダメージは無い。
「そうでなくてはな」
「邪魔するな貧乳! 俺は巨乳の魔王と話をしているんだ!!」
勇者は足元にあった石を仲間へと蹴り飛ばした。
女剣士が剣で斬るが、一般人なら死んでた。
「……おい、仲間じゃろ」
「だが貧乳だ!」
女剣士が聖女の胸に飛び込んで泣き始めた。
老賢者は「慎しき胸には将来の夢が詰まる余地がある……」とか言い出した。あ、女剣士に殴られた。
「なぁ、気になっておったんじゃが、戦う気あるのか?」
「ない!」
「まさか、女とは戦えないとでも言うのか?」
そんな戯言を言う魔族もいた。
誇りや主義に反すると綺麗事を言うのだ。
雑魚相手に全力を出すのは力の無駄だと言えるが、それが強者であっても女であるからと戦わないのはただの馬鹿だ。
殺し、殺される戦場には要らない。だから魔王は追放した。
精鋭部隊には女性が多い。女の方が色香に惑わされずに的確に獲物を狩れるからだ。
もしも勇者がそんな馬鹿達と同じであれば即刻、首を斬り落とす。
魔王はそう思った。
「違う。俺は誰であろうと戦う! だが!」
「だが……なんだ?」
「エロい身体に傷痕を残したくない! いや、傷痕フェチがいるのは分かるが俺は違う!」
「よし、死ね」
氷雪系の中でも最強と言われる呪文。絶対零度の吹雪が相手を凍らせる。
剥き出しの大地が凍りつくが、聖剣を持つ勇者は耐え切った。
「頭が悪いのかキサマは?」
「健康診断では正常だったぞ!」
どうやら当代の勇者は戦闘力に極振りだった。馬鹿確定。
こんなに負けた魔王軍にはきっちりお仕置きが必要である。
「魔王、相談がある」
「この状況で相談……じゃと?」
もう期待もしないし、ロクでもない提案だとしても魔王は攻撃を止めた。
疲れたので今日は双方共痛み分けで解散して、後日再戦するとかにして欲しい。
そういう提案ならば魔王は飲もうと思った。
部下には思った以上に勇者が手強かった(精神へのダメージ的な意味)と説明すれば良いだろう。
それでいて次回に勝てば魔王への信頼度も大して下がらない。
勇者側もその方が対策取れるし、都合がいいかな?
「言ってみよ」
なんだか嫌な予感はするが、魔王は勇者の言葉を待った。
「……俺の子を孕まないか?」
何かがブチッと切れる音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます