第12話 その美しい翼で、
さぁ、枠を、時空を超えましょう。
佐藤と宇貫、どちらが話しているのか分からないが、3つ目のトマトを取り出したのは目の前にいる佐藤だ。その佐藤の顎がカクカクと動く。
「仕込みは済んであると言ったでしょう? 貴方、Olvidはビルの1階にあると答えたけれど、ではこのビル、何階建てか分かります?」
分からない。駅前に新しく出来たビルで、かなり高層のビルだったイメージはあるが、よほどの関係者でない限り、ビルなど高ければ高いほど、階数なんてどうでも良くなるものだ。
「さぁ、じゅぅ……18階くら」
「ブッブー! 25階ですぅ」
ムカッとして私が息を吸うが否や、
「佐藤さんっ」
後ろの宇貫が佐藤を嗜める。宇貫が佐藤を嗜めたせいで、私の中に行き場のない苛立ちが、じわりと広がった。
「ただし、幻の26階がありまして、内緒ですけど、そこから時空を超えられます」
宇貫に嗜められた事など、意にも介さず佐藤は夢みがちな少年のような事を言う。
そう言えば佐藤は無邪気だとも言えなくない。邪気が無い。正確には邪気は無い。得体が知れない、得体の知れなさが有る。
得体の知れない佐藤が何を言っているのか分からない。助けを求めるように私は、こちらも得体が知れなかったが、宇貫を見た。
「面白いですよ、タイムワープ」
宇貫は更に訳の分からない事を口にした。
それから宇貫は私に『Back to the future 』と言う映画を知っているかを尋ね、その映画の中で主役のマイケル・J・フォックスが、過去や未来の自分自身に遭わないように四苦八苦するシーンを事細かにネタバラシをして、最後に満足そうにこう言った。
「つまり頭の堅い大人は、過去や未来で本人が自分自身に遭遇するとタイムパラドックスが起きる物だと思っている」
「はぁ、」
私の反応が物足りなかったのか、宇貫は質問を付け加えた。
「誰が見たんです? タイムパラドックスが起きるところを? 誰が決めたんです? タイムパラドックスが起きるって?」
「はぁ、さぁ?」
宇貫は汚物を見るような目を私に寄越してから、遠くを眺めて、優しく目を細めた。
「若いって素晴らしい。きっとその背中には美しい翼が授けられているはずです。その羽で、なるべく高く遠くに飛んで行って貰いたいものです」
——何を言っているんだ、コイツ等は?
私は混迷を深めた。
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