最終話「激闘を終えて…」

 新入にいり太陽たいよう水無月みなつきあかねの野球拳式クイズ対決は、思わぬ結末を迎えた!


 互いに全問不正解ノーヒットで後がなくなった9回、その裏の茜の攻撃中に突如、太陽が敗北宣言をしたのである!

 その理由は腹痛によるトイレへの駆け込みの懇願であった。

 しかし、真の理由はここまで読んでくれた読者諸君も御存知だろう…

 そう!太陽の股間にバベルの塔が建設されてしまったからである!

 太陽のバベルは、怒髪天を突くが如くに天高く聳え立っていた。


【決着時のスコア】

 ○両者全問不正解ノーヒットにより、両者無得点


【太陽の着用物】

 ○パンツ(トランクス派)


【茜の着用物】

 ○インナーシャツ(高密着素材)

 ○ブラジャー(無重力)

 ○学校指定運動用短パン

 ○ショーツ(肉球柄)

 ◇絶対不可侵領域ノータッチエリア指定物…運動用ミドルブーツ(靴底が運動に適した高反発素材の物)


審判の財布ジャッジマンズ・ポケット

 ○ネクタイ(太陽)

 ○腕時計(太陽)

 ○ベルト(太陽)

 ○シュシュ(茜)

 ○必勝と書かれたハチマキ(茜)

 ○靴下右(茜)

 ○ブレザー(太陽)

 ○靴下(太陽)

 ○靴(太陽)

 ○靴下左(茜)

 ○学校指定ジャージ上(茜)

 ○学校指定ジャージ下(茜)


【試合結果】

 ○試合放棄により太陽の反則負け


 では、前回の説明の続きから行こう!

 前回は完全寮について説明したところで終わったので、今回は準完全寮から説明をし、その次に自由寮の説明をしようと思う。

 準完全寮とは、完全寮が剣学オリジナル対象者専用の寮であり、寮の各部屋が個人の所有物に近いものであることに対し、こちらは半分が通常の学生寮、残り半分が同じ部活に属する生徒や同じクラスの生徒、あるいは仲の良い友達同士で使用する共同寮である。

 こちらの施設の整備は各部屋に風呂とトイレとキッチンはあるものの、その他の一般的な学生寮より少しだけ良い程度であり、突出して豪華なわけではない。

 準完全寮を使用する生徒は、一般的な学生寮と同様に家が遠いなどの理由から入寮する場合もあるが、その他に一定の条件を満たした場合にのみ上記に記載した関係を持つ者達が入寮することを許されている。

 その条件とは、例えば同じ部活に所属している者が朝練や夕練をより効率よく行うために家に帰宅したくない期間(大会前など)に使用許可を申請し、承認を得ると一定期間の使用が許される。

 準完全寮とは半分が一般の寮生、もう半分が全生徒の共有の宿泊施設というものである。

 では、最後に自由寮について説明しよう。

 自由寮とは読んで字の如し、自由な寮である。

 その施設は全室ワンルームであり、風呂とトイレは室内にはなく、どちらも別に設けられた物を使い、食事は食堂または学園敷地内にある購買施設コンビニのみに限られる。

 また、部屋にはテレビなどもないため、自由寮においての娯楽は共有施設にある物のみである。

 この自由寮の使用は天候を含めた何らかの理由で帰宅しない場合に於いて、その日の内にその場で許可を得ることが出来るので、簡単に言えば素泊まりの宿泊施設に近いものである。

 完全寮とは剣学オリジナル対象者専用の家または別荘、準完全寮とは半分が通常の寮生の寮であり半分が旅館、自由寮とは素泊まり宿泊施設という感じである。

 そして、一番重要な点が一つ。

 準完全寮で寮生以外が使う部屋と、自由寮で不特定多数が出入りする部屋、これらには監視カメラが設置されている。もちろん、プライバシーを侵害しない範囲ではあるが、利用者は常に学園の監査部(選抜された生徒が所属し、部長は剣ヶ峰けんがみね霧子きりこである)に監視されている。

 その為、イヤらしい事や反社会的な事をするために寮の部屋を使用することは出来なくなっている。

 完全寮も防犯カメラはあるが、あくまでも防犯であり、監視ではない。尚且つ、完全寮のカメラの録画映像は監査部でも見ることができない物となっている。

 ちなみに準完全寮と自由寮の不特定多数が出入りする部屋と共有施設は、剣ヶ峰財閥の誇る優秀な掃除屋スイーパー達が毎日綺麗にしてくれるのが非常にありがたいのである。

 なお、掃除屋スイーパーは利用者に配慮して全て女性であり、コルトパイソンは所持していない。

 剣学にある三種の寮についての説明は以上だ!


 では、時間停止タイムストップ解除!


「ふふ、太陽たいようくん?」


「えっ!?あ、はい。なんですか?」


「あなたが今考えていること、当ててあげるわ」


「えっ???」


「寮の部屋、空いているかな?空いてなかったらどうやって誤魔化そうかな?…どう?当たらずとも遠からずでしょう?」


 ほぼそのまんまである。

 太陽は自由寮へ泊まろうとしていた。

 そして、それがダメならテキトーに誤魔化そうしていたのである。

 何を誤魔化すか?

 それはパンツ一丁で帰るふりをして途中で何かを買ってしまうということだ!

 しかし、霧子はそんなことはお見通しである。

 Everything!

 All!!

 Kiriko wa Zenbu Omito-shi Desu!!!

 である。


「あ…いやその……はい。ちょっと寮に空きがあるか見てきていいですか?」


「は?ダメに決まっているでしょう?まだ最後の一枚を脱いでいないのだから、行くならそれを脱いでからにしなさい」


「んなっ!!!」


(嘘だろ!?マジか!?審判の財布ジャッジマンズ・ポケットから取り出すどころかパンツまで!?)


 太陽は霧子の言葉に驚きを隠せなかった。


 


 それはつまり、パンツ(トランクス派)のことだ!

 この霧子の言葉は無慈悲であるが、正しかった。

 なぜなら太陽は敗北宣言時、最悪の結末ルーザー・ルーズだったのだ!

 それなのにパンツ(トランクス派)だけは脱がずに許されることない。そんなことは道理ません!

 道・理・ま・せ・ん!

 霧子の言葉には威圧感があった。

 しかし、次の瞬間に霧子から発せられた言葉は太陽にとってもにとっても意外なものだった。


「なんてね…良いわよ。早くその格好パンツ一丁で自由寮の使用許可を申請してきなさい。ふふふ」


 なんということでしょう!

 霧子は意外にもドSではなかった!

 霧子は存外優しかった!

 霧子は想像に反して慈悲深かった!

 霧子は人並の…


「うるさいわね…意外だの存外だのと、私に喧嘩売っているのかしら?折檻するわよ?それが嫌なら訂正して話を進めなさい」


 霧子は太陽に対して脱がなくてもいいから自由寮を借りに行けと言った。

 霧子は優しかったのである!


「ふふ、それでいいのよ」


「あの…霧子きりこさん?」


「ん?あらまだ居たの?さっさと行かないと全室埋まるかもしれないわよ?今日に限ってする可能性がないとも言えないのだからね…まあ、早々起こらない事なのだけれど」


「あ、はい。じゃあ行ってきます!」


 太陽は霧子の言葉の意味がわからないままパンツ一丁で自由寮の使用許可を申請しに部室を飛び出していった。

 その後ろ姿を霧子は愉悦に満ちた顔で見送っていた。

 それから僅か5分後、太陽は焦った様子で戻ってきた。

 そして、部室に入るなり大声で霧子に話しかけてきた。


「霧子さん!」


「早かったわね。部屋は空いて…」


「あなた一体何をしたんですか!?」


「は?」


「は?じゃないですよ!近隣の電車とバスが急に全てしたとかで自由寮どころか準完全寮まで即日使用許可申請者が出るほどの大騒ぎですよ!」


 太陽は自由寮の使用許可を申請しに行ったが、その管理をする寮菅部(寮使用者管理部の略であり、部長は剣ヶ峰霧子である)の部室へ行ったところ、部室前から十メートル以上の行列が出来るほどに人が集まっていた。

 その理由は太陽の言った通りである。


「あらそう?それは大変ね。で、太陽たいようくん、あなたは借りられたの?」


「人が多すぎて近づくことも出来ませんよ!こんな姿で行ったらそれこそ僕は変態扱いされちゃいますよ!」


「へえ、そうなの。それは残念ね…」


「くっ!あなたは…」


「なにその眼は?もしかして私が何かやったとでも言いたいのかしら?」


 太陽は霧子に向けて言い様のない視線を送っていた。

 霧子は太陽の慌てている姿が愉快たのしくて仕方がなかった。

 何を隠そう、霧子はのである。

 これが、公共交通機関にまで鶴の一声の如くあっさりと影響を及ぼしてしまう剣ヶ峰財閥、そしてその剣ヶ峰財閥の当主の娘の剣ヶ峰霧子の権力である!

 本来なら気紛れで公共交通機関を停止するなど言語道断の大迷惑行為だが、剣ヶ峰財閥は各種方面のフォロー(今回の場合は剣学の生徒以外の一般人全てに自家用ヘリにて代替え輸送をしている)も徹底しているので、余程の事態にならない限りは文句も言われる事がないのが恐ろしいところである。


(この表情…絶対この人なにかやったな…くそ!どうしたら…ん?)


 ブブブブ…

 ブブブブ…


 この後の行動をどうすれば良いのか考えていた太陽のカバンが震えた。正確にはカバンの中の携帯電話が震えていた。


(誰だこんな時に…)


「あの…霧子さん?」


「なにかしら?」


「電話に出ても良いですか?その…鳴っているみたいなので」


 太陽は霧子に電話に出る許可を求めた。

 この部室内に霧子がいる時には霧子に許可を得てから部室を出て電話に出るのが剣高クイズ部のルールなのである。


「あら?私には何も聴こえないわよ。本当にのかしら?」


(あー!もう!この人は!)


 太陽は霧子に対して、面倒な人だな…と思った。


「いやいや、僕は思ってませんからね!」


「は?急になにかしら?」


「あ、いえ…その……」


「……あなたまさかまた地の文を…」


「違います!違います!あ、電話!電話が鳴って…じゃなくてので出ても良いですか!?震えたまま停まらないのでだと思うので!」


 太陽は霧子の言葉を遮って言った。

 遮らなかったら何を言われるかわかったものじゃないと感じていた。

 太陽は今度こそ折檻される可能性も視野に入れていた。

 しかし、霧子はあっさりこう言った。


「いいわ。出なさい。ただし、ここでね。その格好のまま廊下で電話していたらクイズ部の評判が下がるわ」


 クイズ部の評判が下がる。

 そう、表向きはこの剣高クイズ部の評判は高い。霧子を筆頭に学園の内外で噂になるほどの美女と美少女が所属している部活、それが剣高クイズ部である。


「えっ!?良いんですか!?」


「なにその反応…私が個人の権利である着信を受けることを許可しないとでも思ったの?試合中ならともかく、今なら好きにしていいわよ。それとも出たくないの?」


「出ます!出させてもらいます!」


 太陽は慌ててカバンを手に取ると、中から携帯電話を取り出した。

 なお、この携帯電話は私立剣ヶ峰学園に在籍する生徒全員(初等部から高等部まで)に無料で配布される携帯電話であり、この携帯電話が生徒手帳と学園敷地内の入場キーも兼ねている。

 この携帯電話を持たぬものが学園敷地内に入った場合、敷地内に多数設置されている防犯システムが全て作動し、場合によっては学園に配備されている警備ドローンにより自動的にテーザーガンの的にされてしまう可能性もある。

 なお、テーザーガンの的にされる前に必ず本人チェックが行われる。それはコンピュータによる顔認証及び顔認証専用の職員(通称・監視員ベアード様)により判断されるため、適合率は99.9997%である。

 本人チェックにより侵入者と判断された者は上記のテーザーガンの的にされた後で学園内の要所々々ようしょようしょに配備されている警備員(通称・門番ヘイムダル)がそれを確保する。

 過去に一度、酔っ払った男が侵入したが、僅か12秒でテーザーガンの餌食となり、侵入から20秒後には門番ヘイムダルに確保され、学園敷地内の医療施設で適切な処置をしたあとに二度と侵入しないという誓約書にサインしてヘリコプターで自宅へ強制送還されている。


「もしもしもしもし!」


 慌てていた太陽はもしを二度多く言った。


『あ、たいよー!?今ボクのケータイにも連絡来たんだけどバスと電車動いてないんだって!?聞いた!?』


「水無月さん!?」


 相手はあかねだった。

 太陽は相手の名も確認せずに出たため思わぬ相手に驚いていた。


『なにその反応!?まさかボクの電話メーワクだった!?』


「いやいや!違う違う!先に帰っちゃったから怒ってるのかと思ったからビックリしただけだよ!つか、水無月さん声デカイ」


 これは本音である。

 童貞である太陽は非常に繊細で脆い。

 童貞は蚤の心臓グラス・ハート、女の子に関わることで何かあるとすぐに嫌われたのかと思ってしまうのである。


『えー!フツーだよ!?まあいーや!ボクは怒ってないよ!それでさ!たいよーはまだ学園にいるよね!?』


「えっ?あ、うん、いるけど?」


(だから声がデカイって!)


『やっぱりね!じゃさ!今日はボクんちに泊まりなよ!』


「はあっ!?」


 茜の言葉に驚いたのは通話口から漏れる茜の声を聴いていた霧子である。

 驚くのも無理はない。

 今の茜の発言は明らかに…


 のである!


 女が男を家に泊まらないかと誘う行為が意味するもの、これは木石ぼくせきでなければ誰にでもわかることである。

 しかし、それを言った茜はもちろん、言われた太陽も全くそれに気がついていなかった。というより、全くそんな意図があるとは考えていなかった。霧子を除いて…


『あっ!部長!そこにいるんですね!?ちょーど良かったです!たいよーが帰れなくなったので今日はボクの部屋に泊めますね!』


 茜は剣学オリジナル対象者であり、完全寮に独り暮らしをしている。

 完全寮な友達を泊めることは自由だが、寮長または霧子に許可を得る必要があるため、茜は霧子に許可を取ろうとした。というより、この許可というのは建前であり、声をかければいいというだけなので、この茜の言葉により実質的に許可を得たことになるのである。

 つまり、太陽はこの日、茜の部屋に決定!!!


『あれ!?部長!?部長!?部長、いないんですか!?あれ!?たいよー!?部長いないの!?』


「いや、いるよ。すぐそこにいる…でも今は話しない方がいいと思う……」


 太陽はなぜかわからないがかつてないほど不機嫌になっている霧子にビビり、茜にそっとしておく様に促した。

 無論、不機嫌になっている理由は、先ほどの茜の発言であるが、太陽は気がついていない。


『そっか!じゃさ!寮の前まで来たら電話して!玄関まで迎えにいくから!』


「おう!サンキュー!助かるよ!」


 そこで二人の電話は終わった。


「……へえ……あかねちゃんの部屋にお泊まりするの……へえ、そう……ふふふ」


「うひっ!?」


(何でなんでナンデ!霧子さんメッッッッチャ怒ってんだけど!?)


「あの…じゃあそういうことなんで僕は帰ります!」


「ええ、なさい……ふふふふ……」


(こえーよ!誰か助けて!)


 太陽は目を合わせずに帰ろうとした。

 その時だった。


 バサッ!


「うっ!?…えっ?霧子きりこさん、これは?」


「パンツ一丁で寮に入れると思っているの?この学園の生徒とはいえ、その格好で寮に近づけばテーザーガンの餌食よ。学園と寮のセキュリティは別なのだから…」


「あ…はい!ありがとうございます!これ借りてきますね!」


「ええ、これはよ…必ず返しなさい」


「???…洗って返しますね!」


 そう言うと太陽は部室を出ていった。

 霧子が貸したピンク色のを着て…


(貸してくれたのは嬉しいけど、この色何とかならないかな…ピンクのつなぎとか目立ちすぎだろ…)


 太陽は霧子の乙女心がわかっていなかった。



 これにて!

 今回のエピソードを終わりとする!

 なお、今回のエピソードにもがあるので見逃さないように!

 では、おまけでまだ会おう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る